第2話 幼稚園の記憶
私の頭に残っている記憶で、一番古いのは幼稚園時代のものであろうか。
いきなりこんなことを言ってしまうと苦手な人には申し訳ないのだが、私は小さい頃からミミズが好きだった。
ミミズは噛み付いたりしてこないし、毒を持っているわけでもない。どんなに人間に気味悪がられようと黙々と土を耕してくれるいいやつだ。
幼稚園に入園するときも、ハサミなどの自分の道具に貼るシールを選べるとなったとき、真っ先に「ミミズがいい」と言ったが、当然聞き入れられず、幼稚園の先生を困惑させた。
仕方なくてんとう虫にしてもらったが、てんとう虫も好きだ。
小さい頃は昆虫が好きで、父も早朝に散歩に出かけてはクワガタムシやアゲハチョウを捕まえてきてくれたりした。
よく家にあった図鑑で知識を蓄えては「昆虫博士」と呼ばれていた。
幼稚園時代は園庭のすみっこでひとりでミミズを探してはいじっていた。
思えば、私は幼稚園時代から運動とか集団行動が苦手だった。
園庭で先生と子どもたちが大縄跳びをしているのを羨ましく横目に眺めながら隅っこでミミズを探していた記憶が鮮明に残っている。
大縄跳びは小さい頃から苦手だ。私が下手に参加したら必ず縄に引っかかってしまうから、そのときの他の子供達の「あーあ」と落胆された顔を見るのがつらくて、いつしか運動そのものを忌避するようになった。今でも運動には苦手意識がある。
その代わりに何をしていたかというと、お絵描きである。
幼稚園児なのでクレヨンで母親を描いては見せていたが、それを褒められた記憶は残念ながらない。それでもお絵描き自体が好きだったので、へこたれずに描き続けていた。
思えば、この頃が一番幸せだった気がする。自分の絵に対して劣等感もなく、他者と比べることもせず、ただ描きたいものを描きたいように描き散らして、クレヨンでグリグリと描き殴っている子供のなんと幸せなことか。この頃の私は、哀れなほど純粋にお絵描きが好きだった。純粋にお絵描きを楽しんでいた。この頃に戻れたらどれほど良いか。
あるいはこの頃に絵画教室に通わせてもらえれば、今頃はどれだけ絵が上達していただろうか。
まあ、あの田舎町には絵画教室なんて立派なものはなかったので、言ったところで仕方ないのだが。
以上が、私の幼稚園の記憶である。
早くも幼稚園が我が人生の最盛期なように思えて、乾いた笑いがこみ上げるが、まだまだ半生を書き上げる作業は始まったばかりだ。
〈続く〉
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