第44話 悪の世界観

 怒りのままにマルカム準男爵の経営する商会に突撃したイサーク。

 当然のことながらアッサリつかまって、少年は拘束こうそくされた。

 ロープでグルグル巻きにされてしまったイサークは、準男爵が所有する倉庫そうこに連れ去られる。





 ドサッ!


「イテッ! くそ、ほどけよコレ!」


 地面に投げ出されたイサークは威勢いせいよくわめき声を出す。


「やれやれ元気な子だねェ」


 イサークを取り囲む十人ほどの男たち。

 さらにその奥に、上等な身なりのせた老人が立っていた。

 彼が子供たちをえさせていた張本人。マルカム・ドーンウインド準男爵だ。

 

「くそっ、返せよこのクソジジイ!」

「んん? なに言ってんだいこのボウヤは?」

「オレたちのカネ! きいたんだぞ、おまえオレたちのカネぬすんでたんだろ!?」 

「ああそんな事かァ!」


 マルコム準男爵はまったく気にもとめない様子でカラカラと笑いだした。


「誰がそんな知恵ぢえをしたのかしらないが、バカなことをしたもんだ」

「ふざけんなよ! はやくカネかえせよ!」

「イヤだね」


 これぞ悪人、という笑顔を見せるマルコム。


「ボウヤは本当に子供なんだねぇ。だからこんな事になっちゃうんだ」


 老人は笑みをくずさぬまま、ゆっくりとイサークに近づく。

 そして持っていたつえを軽く持ち上げて、イサークののどを突いた。


「グエッ!?」


 悲鳴をあげてひどくむ。

 ロープでグルグル巻きにされていたため、まるでイモムシのようにのたうち回った。


「アハハハハハ! 面白いねェ、まるで虫ケラだ!

 ホラお前たちも笑いな、アハハハハハ!」

『ワハハハハハ!!』


 マルカムは杖で手下たちに指示を出して笑わせる。

 手下たちも苦しむイサークの姿を見て笑った。

 

 だれも同情していない。

 助けてあげようという気持ちなんてひと欠片かけらもない


――この大人たちは、自分のことを本当に虫ケラみたいなものだと思っている……!


 イサークはようやく自分がとんでもない場所に来てしまったのだと理解した。

 しかし今さらどうしようもない。

 身動きできず、しかも大勢にとり囲まれている。

 ここにあるのは絶望だけだった。

 

 ガタガタとふるえはじめる少年の姿を見て、悪い老人は満足気にうなずいた。


「この世の中っていうのはねェ、ずるがしこい人間がとくをするようにできているんだ。

 ボウヤはバカで、おじさんは賢いのさ。

 バカはバカらしく搾取さくしゅされてりゃいいのに、余計なことを教えられたせいでとんでもないことになっちゃったねえ。

 知らないほうが幸せなことだって、世の中にはあったんだよ?」


 マルカムが手下にむかってアゴをしゃくる。

 手下はふところからナイフを取り出した。


「ヒッ!」


 冷たくかがやく凶刃がゆっくりと、しかしためらいなくイサークにせまる。

 逃げようにも身体をしばられていてはモゾモゾと地面をのたうつことしかできない。


「おら、大人しくしろ小僧こぞう!」


 乱暴に髪の毛をつかみ上げられて、少年の白いのどがあらわになる。

 そこに冷たい刃が押し当てられた。


――イヤだ! だれか助けて!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る