第42話 新人たちの初戦闘

 敵が一斉に殺気立ったのを見て、ミックとジーンは大いにあせった。

 相手はナイフや鉄棒などの凶器を取り出してこちらを狙っている。

 嘘や冗談ですまされる空気ではない。


「わ、わ、なんでっ、た、戦うの!?」

「落ち着け! しっ、使命を果たすぞ!」


 とっさに二人そろって腰の剣に手を回す。

 スラリと金属音を鳴らしながら愛剣を抜いた。

 だがしかし、いつもより剣が重く感じられる。 

 二人はまだ人を殺したことが無いのだ。

 生まれてはじめての実戦。

 とりあえず訓練とおなじように剣をかまえるが、しかし刃がふるえていた。


(どっちも呑気のんきなもんだなあ)


 などと思いながらエリーゼは風のようにミックたちの横をすり抜けて、近くにいた男のアゴをハンドバッグで打ち上げた。


 ドギャッ!


 金属板でアッパーカットをくらった相手は脳震盪のうしんとうをおこし、あお向けに倒れる。


「テ、テメッ、あんま調子にのってっとキレイな顔に傷つくぞ!」


 となりの男がエリーゼの顔面めがけて軽い突きをはなってくる。

 なんなくそれを横に払って防御するエリーゼ。


 ガンッ!

 カランカラン……。


 本日何度目かの金属音。

 あきれたことに突いてきた男は得物えもののナイフを叩き落されてしまった。

 武器のにぎりが甘いとこうなる。


「あなたには無理です」


 強烈な前蹴りを鳩尾みぞおちにうけて、男はその場で沈黙した。

 そうこうしているうちに後方は片付いたようで、オスカーとデニスも前線に向かってくる。


 まだ何もしていないリーダー格の男は顔面がんめん蒼白そうはくになった。

 あまりにも戦闘力が違いすぎる。

 残りの暴漢たちも同じように顔が真っ青になっていた。

 もはや戦意はない。


「にっ、逃げろ、ずらかれ!」


 言うが早いか暴漢たちは一斉に逃げ出す。

 全員すこしも迷いがなかった。

 倒れた味方を助けようとか、リーダーを逃がすために自分だけ残ろうとか、そんな奴は一人もいない。

 この逃げ足の速さだけは認めてやっても良いだろう。


 だがそもそもの布陣ふじんが良くなかった。

 リーダーのくせに最前線にいたことが、戦場・・としては間違いだ。


 ブンッ!


 エリーゼは無言でハンドバッグを投げた。

 回転しながらうなりを上げてリーダーの後頭部にせまる。


 ドゴォッ!


 直撃。危険な音が鳴った。

 リーダーはうめき声すら出せずパタリとその場に倒れる。


 エリーゼは用心深くゆっくりと近づいていってハンドバッグを回収した。


「ね? 便利でしょうこのバッグ?」


 ジーンとミックの二人は、顔色を青くしてエリーゼの笑顔を見ている。

 昨日はほほを赤くしていたというのに、今日は真っ青だった。

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