第40話 少年は走り出した
「この件はどうかわたくしたちにお
つまり王たるヴィクトル二世はこれ以上何もするな、という意味だ。
王は不満気だった。
「むむむ……、いつもそうだ。余は人に全部押しつけて後ろで待っているだけか」
「それぞれ役割というものがございます。頭と手足が役割を入れ替えたりできませんもの」
エリーゼはいつものようにニコリと笑うと、孤児院の院長トール、副院長アニーの二人にも忠告する。
「本日この場でのこと、誰にも言ってはいけませんよ。
悪い人に知られたら、あなた方だけではなく、子供たちにまで危害がおよぶかもしれません」
「は、はいもちろんです!」
トールは立ち上がらんばかりの勢いで即答する。
本気で怖がっている様子だ、これなら大丈夫だろう。
さて、今日はもうこの孤児院に用はない。
早く退散して今後の作戦を練ろうか……と考えた時だった。
カタン、と扉の
「あら、だれ?」
反射的に副院長のアニーが立ち上がり、扉を開ける。
そこにはパン泥棒をした少年イサークと、妹のレナが立っていた。
「あらこんな所でなにをしているの二人とも?」
アニーの問いには答えず、イサークは怒ったような顔でヴィクトル二世とエリーゼの姿を見る。
「本当なのかよ、今の」
「なにがだ?」
ヴィクトル二世のぼんやりした反応に、イサークは大声をあげる。
「とぼけんなよ! オレたちの金があのジジイに取られてたって話だよ!」
エリーゼはあきれ顔でイサークの激怒をスルーした。
まったく誰にむかってそんな態度をとっていると思っているのやら。
本来なら子供でも王族不敬罪で死刑だが、今はお忍びなので大目に見てやる。
「本当ですよ。ちゃんとなんとかしますからあなた達は……」
イサークは話を最後まで聞かず、背中を見せて走り出した。
「なんでオレたちばっかり! ふざけやがって! ふざけやがって!」
「えっ、おにーちゃんまって、まっ……」
ベタン!
「ウ、ウウエエン!」
「あらあら泣かないで」
すぐそばに居たアニーはレナをなぐさめる。
そのかわりイサークを止めることはできず、少年はそのまま院を飛び出ていった。
「……もしかしてわたくしのせいなのでしょうか?」
エリーゼが気まずい表情になる。院長のトールも気まずい顔で首を横にふった。
「いえいえそんな。あの子はちょっと、不安定になっていまして」
トールはまだ泣いているレナを見つめながら、兄妹の
「この子たちの両親は、お貴族様の馬車にはねられて死んだんです。
それでお貴族様のことを、その……」
ひどく
「なるほど、それであんなに」
「誰の馬車だ!
ヴィクトル二世がさっそく顔を赤くして問い詰める。
この人はこの人で、反応がストレートすぎてすこし子供っぽい。
「い、いえ、そこまではちょっと」
「むむむ」
不満顔で
証拠もなしに「○○の日、お前は人を殺したそうだな!」などと言ったところで「はいそうです」と答える貴族はいないだろうに。
とにもかくにもこれ以上ここでやるべきことはなく、
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