第39話 黒幕の二人

 貴族の階級は基本的に公・侯・伯・子・男の五つ。

 ただし公爵になれるのは王家の血筋の者だけで、それ以外は侯爵が最高位となる。

 あえて誤解を恐れずに言うなれば、王家が本家ほんけとか宗家そうけとか言われる本流の家柄で、公爵家は分家ぶんけなのである。


 そしてもう一つ解説をさせていただく。


 上記の五階級のほかに、特例として与えられる一代限りの身分というものもある。

 たとえばエリオットの部下、オスカーやデニスのもつ騎士爵。

 その他にも男爵位の下、準男爵じゅんだんしゃくというものが存在する。

 国家に大きな貢献こうけんをした者にのみ与えられる栄誉えいよある身分だ。



 公爵と準男爵。

 今回はこの両名が黒幕らしい。



 アルフレド・ドルトネイ公爵。40代なかばの精力あふれる野心家である。

 高身長ぞろいのグレイウッド王家の血筋にふさわしく、ガッシリとした体格の偉丈夫いじょうぶだ。

 王位継承権は現在第二位。

 未婚みこんで子供のいないヴィクトル二世に、万が一のことがあれば次に玉座につくべき人物である。


 一方のマルカム・ドーンウインド準男爵。彼は60すぎのれた老人である。

 外国からの移民で、出自ははっきりしない。

 しかし商売の才覚は目を見張るものがあり、いわゆる裸一貫はだかいっかんから豪商にまで上りつめた人物である。

 また王都周辺の街道整備などに多額の投資をおこなった功績をみとめられ、先代国王の時代に準男爵の身分を与えられた。


 その時、ドーンウインド氏を王に推挙すいきょしたのがドルトネイ公爵だったようだ。

 もちろん単なる善意であるわけはなく、公爵と準男爵は以前からズブズブの癒着ゆちゃく関係にあった。

 ドルトネイ公爵家が自分たちの派閥はばつを拡大・強化していくための活動資金を、ドーンウインド氏が提供し続けていたわけだ。


 この孤児院に与えられるべき支援金をピンハネするという不正は、いわば新しい資金流用の悪いテクニックなのだろう。

 放置すれば悪化していくのは確実だった。




「まったく許しがたい! 国家をなんと心得るか!」


 顔を真っ赤にしてドガァン! とテーブルを叩くヴィクトル二世。

 周囲の者たちはみなビクッと肩をふるわせ、一斉いっせいに下を向いてしまう。

 ただ一人、エリーゼをのぞいて。


「ヴィクトル様。そのように大きな音をたてられては、子供たちがビックリしてしまいますよ」

「う、うむ、そうだな」


 この部屋には大人しかいないのだが、それでもわざと子供という言いかたをすることでヴィクトル二世の荒ぶる感情を抑制よくせいした。

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