第36話 補助金チューチュー事件の実態をさぐれ!

 この孤児院には20人以上の孤児が住んでいる。

 もとは10人だったのだが数か月前、経営者の方針で急激に増えた。

 しかし国からの補助金は10人のころのまま。

 だから一人当たりのお金は半分以下になってしまい、厳しい生活をいられている。

 子供たちを見殺しにはできず、しかたなく院長トール、副院長アニーの二人は自分たちの給料から子供たちの生活費を出して、つらい生活を送っていた。


 ……という話を聞いて激昂げっこうしたのは国王(お忍び中)のヴィクトル二世である。


「馬鹿な! 補助金は『子供一人につき毎月銀貨五枚』だぞ! 人数が二倍になろうが三倍になろうが不足ふそくしたりするものか!」

「ヒイイッ!」


 顔を真っ赤にして興奮する大男。

 しかも見るからに身分の高そうな男の大声を聞いて、院長はふるえあがった。

 これでは善良な国民を苦しめているだけなので、エリーゼがヴィクトル二世のうでを強めにつかんでたしなめる。


「ヴィクトル様、彼らを責めても仕方がありません」

「ぬぬ、しかしな……」


 トールとアニーの二人は自分の給料をけずってまで子供たちに尽くしている。

 悪いのは彼らではない。他の誰かだ。

 だがしかし、心優しいこの二人にもちょっと疑問に思うところがあった。

 それを確かめるためにエリーゼは筆記用具をとりだしサラサラと走り書きをする。


「ん~? エリーゼ様なにを書いてるんですか~? ゲッ!?」


 横から盗み見をしてきたミックが下品な悲鳴をあげた。

 エリーゼはこう書いたのだ。


『この孤児院に金貨百枚を寄付します』


 いかに貴族とはいえ気安く出せるような金額ではなかった。

 しかもエリーゼ、いやエリオット・ハミルトンは伯爵家の人間とはいえ伯爵本人ではなく、三番目の子供というだけにすぎない。

 本当に払えるかどうかあやしい提示額だった。


 エリーゼはニコニコ笑いながらトールとアニーの二人にこの文章を見せる。

 ……しかし二人は驚きもせず、喜びもせず、ただオロオロしていた。

 つまり文字が読めないのだ。

 エリーゼは自分の予想が的中したことに軽くうなずくと、メモをふところにしまった。


 文字も読めないような人間を責任者にした理由は、おそらく不正をやりやすくするためだ。

 よく調べればまだまだホコリは出るだろう。

 この孤児院の経営者を見逃してはならない。


 新しい仕事ができた瞬間だった。

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