第31話 両方好きじゃダメですか?
商業地区は今日もいつもの
少なくとも表面にあらわれるほど深刻な問題はなさそうだ。
ちなみに『表面にあらわれるほどの事態』とは
王都がそんな環境になるとしたら、まさに国家存亡の危機だろう。
「……で、いったい何をするというのだ」
つまらなそうな顔で
貧民街に行くという彼の計画は消滅してしまったので、他にまかせるしかない状況だ。
「まずは普通になさってはいかが?」
エリーゼがにこやかに提案する。
「普通とはなんだ」
エリーゼはウフッ、と笑った。
こうしていると本当に若い貴婦人そのもので、ふとした
エリーゼは
「
「ふむ……いかにも普通だな」
まだ不満そうではあったが異論はないご様子だ。
すったもんだの
だが一時間後、またもやしょうもないトラブルが発生する。
トラブルを起こしたのは意外にもエリーゼだった。
「ですからイヌです、誰がなんと言おうとイヌですってば」
「いーやネコだ! ネコに
気まぐれに立ち寄ったペットショップ。
一行は愛らしい動物たちに
「お二人はイヌ派ですか? ネコ派ですか?」と。
ヴィクトル二世はネコ派。
エリーゼはイヌ派であった。
ヴィクトル二世はすかさず言う。
「もちろんネコだ! イヌなど
それを聞いてエリーゼの目が
そしてやたらと早口で反論を開始する。
「何をおっしゃいます。イヌの
イヌは人につき、ネコは家につくなどと申します。
ああ、ネコの薄情なこと!
「なんだと?」
「はい~?」
にらみ合う両者。
事実、何をやらせても
逃げたネコたちのほとんどは広大な王城の中でお気に入りの場所を見つけ、それぞれが勝手気ままな生活を送っていた。
城のメイドや料理人たちが水と食事だけはあたえているものの、はたしてこれを飼い猫と呼んでいいのかどうか疑わしい状況になっている。
「……」
「……」
二人はまだにらみ合っている。
ヴィクトル二世は顔を真っ赤にして。
エリーゼは一見笑顔だが、目が笑っていない。
非常にくだらない理由だが、くだらない理由だからこそ本気でムキになる人種というのがこの世には存在する。この二人だ。
「まあまあお二人とも、
ジーンがにらみ合う二人をたしなめようとする。
だがこれは
ヴィクトル二世が真っ赤な顔のままジロリと彼をにらむ。
「お前はどうなのだ?」
「えっ」
エリーゼも目の笑っていない笑顔のまま聞いてくる。
「ジーン様は、
「えっ」
「答えよ、貴様は
「えっ」
そんなわざわざ言葉の順番まで気にしなくても。
ジーンはそう思ったが、声に出すのは怖かったのでやめておいた。
イヌ派とネコ派の熱い視線がジーンにせまる。
彼は返答に困った。
大げさかもしれないが、身の危険を感じる。
こんな時どう答えるのが最善なのだろう?
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