第28話 変装指南

 さて翌日よくじつの午前中。


 国王ヴィクトル二世と二人の護衛にわざわざ王国騎士団情報本部までお越しいただいた。

 理由はシンプルで、諜報スパイ組織である情報本部には変装用の服や備品などがはじめから用意されているからだ。


 エリオットは王と護衛の三人をそれぞれ見定みさだめる。

 国王ヴィクトル二世はあかがおの大男。

 ジーンとミックと名乗った二人の若い護衛たちも、近衛騎士にふさわしい高身長でたくましい若者たちだった。

 よけいな小細工こざいくはいらないな、とエリオットは判断する。


「陛下はスーツ姿に帽子ぼうし眼鏡メガネ、つけヒゲで十分でしょう。

 近衛このえのお二人も地味な色合いのスーツ姿。装備は警棒のみでお願いします」

「なんだ、そんな簡単なものでいいのか?」


 ヴィクトル二世は拍子ひょうしけした様子だった。

 なにせ言っているエリオット自身は女装のプロである。

 さすがに全員で女装してお忍び外出はないだろうが、代わりにどんな奇妙きみょう奇天烈きてれつな衣装を着させられるのだろうかとドキドキしていたのだ。


「ようは国王陛下であるとバレないだけで良いのです。

 変装くさいほうがかえって周囲も気を使ってくれるから楽なんですよ」

「フーンそんなものか」


 どこかのえらい人がおしのびで街を出歩いている――くらいの情報は周囲に知られてしまっても良い。

 なぜなら護衛がいる時点で身分ある人だとバレてしまうので、結局は目立ってしまうからだ。

 だからといって国王に単独行動は許されない。護衛は絶対に必要である。

 以上の条件を元にバランスをととのえた結果が平凡なスーツ姿、というわけだ。


「それで、お前は?」

「僕はもちろん、いつもの手でおともしますよ」


 意味深にフッと笑うとエリオットは王の御前ごぜんを一時退席させていただく。




 しばしののち、戻ってきたエリオット・ハミルトンは化粧をほどこしかつらをかぶってドレスをまとい、エリーゼ・ファルセットという美少女に変身していた。


「……相変わらず上手うまいものだ。いやむしろ前より腕をあげたか?」

「恐れ多いことでございます陛下」


 スカートのすそを広げて深々と跪礼きれいを行う優雅な姿。

 後ろにひかえていた二人の護衛たちはつい見惚みとれてしまった。

 目の前にいる美少女が先ほどの姫騎士だと、理性では分かっているつもりなのに感覚が追いつかない。

 ドギマギしている二人を見てヴィクトル二世は意地の悪い顔になる。


「おかしな気を起こすなよ? こう見えてなみの男よりも強いぞ?」


 護衛たちは赤い顔をしながらブンブンと顔を横にふった。

 それを見てエリーゼもヴィクトル二世も笑ってしまう。


「さあ参ろうか、久々の城下だ!」


 四人は情報部の馬車を使って王都ヴィンターリアの城下町へと向かった。

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