第18話 月下に響くブタの鳴き声
地下祭壇での儀式は問題なく終了した。
アンナマリーは
フォーテスキュー子爵がしばしの
神父はキッチンへ行って水をくんでくる。
「ブハァ、暑いな! たまらん!」
自身の三角
「もう少しこらえてください」
子爵は神父が持ってきたカップをひったくり中に入った水を一息に飲み干した。
「なあ我が師よ、これでさらに山登りというのは
私はここで神に祈りを捧げていようかと思うのだが?」
たしかに
だが神父と町人たちには問題なく実行できる程度の苦労でしかない。
ようは子爵が太りすぎなのだ。
神父はわずかに嫌そうな表情を浮かべ、しかし
「我らが神は天空を翔けるお方。建物の中にいては気づいていただけないかもしれませんぞ?」
「しかし……」
「子爵様の席はいうまでもなく
「むむむ……」
仕方なく子爵はもう一度三角頭巾を
「ご納得いただけまして何よりです。では片付けてまいりますね」
ブラナ神父はニコニコと
だが次の瞬間には表情が一変していた。
――
口がそう動いた。誰が聞いているか知れたものではないので声には出さない。
こんなちょっとした短い動作だけでも、神父がフォーテスキュー子爵に好印象を抱いていないのは明白であった。
彼もまた、権力者に取り入ってうまく利用しているだけにすぎない。
神父と子爵が表に出ると、すでに生贄を運ぶ準備はできていた。
木造の粗末な荷車にアンナマリーが眠らされている。
中には花が
子爵の護衛騎士が十名。
そしてそれ以外の庶民たちが最後尾につづく。
護衛たちは騎馬でこの町に来たが、あいにく山登りは
理由はシンプルで、闇夜の山を馬上でのぼるのは危険すぎるためだ。
そんな理由で、
ある意味『神の前ではみな平等』と言えるかもしれない。
「ブフゥッ、やはり暑い!」
歩きはじめて数分後、子爵は自分の
ブタと
「…………」
神父は苦い表情をしたが、あえてなにも言わなかった。
もうすっかり夜である。
満月の光に照らされているものの、見ようと思わなければ他者の顔は見えない。
本人が気にしないというなら素顔をさらしていても、まあ良かろう。
行列はさらに山へむかって進みつづける。
そして最後の分かれ道にたどりついた。
一つは直進して山へ行く登山道。
もう一つは横へそれて町はずれに行く道。
このあたりには民家もなく、視界を
そこそこ広く開けた場所である。
一行がそんな曲がり角の付け根部分にさしかかった時だった。
「お待ち下さいな、そちらのご一行!」
突然こちらを呼びとめる大声。
木の
足元に影が
エリーゼ、オスカー、デニスの三人だ。
オスカーは手荷物から書類を取り出し、集団に堂々と見せつけた。
月明かりではさすがに文面までは読みとれないが、高級紙に書かれた公式文書であることは察せられる。
「我々は王国騎士団情報部の者です!
レジナルド・フォーテスキュー子爵! グゥィノッグ・ブラナ神父! その他の者ども!
あなた方には悪魔崇拝の
王命に
その声は名工の楽器のように堂々と高らかにに
特に、落ち着きのない
「お、王国騎士団だと!? 聞いておらんぞそんな話は!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます