第4話 空き巣
ある日の夕方5時過ぎ、横浜の勤務先に妻から電話がかかってきました。
「大変よ ! 空き巣に入られて、 財布と現金が盗まれたの」と、いつになく興奮した口調です。
「いくら盗られたんだ ?」
「30万円。」
「エェー !」
人によってお金の価値とはそれぞれでしょうが、30万といえば(私たちにとっては)大金です。
というよりも、まず私が聞きたかったのは「なんで貧乏な私の家に30万円もの金があったのか ?」ということだったのですが、電話から伝わってくる、いつにない妻の動揺した様子から、そこはグッと堪(こら)えました。
◎ 帰宅し、妻に話を聞く。
「近くの建長寺までロッキー(彼女の飼っている犬の名前)の散歩へ行き、帰宅すると、廊下から居間まで足跡があり、財布とお金の入った紙包みがなくなっていた」。
30分くらいの間の出来事で、警察の話では「プロの仕事」なのだそうです。
確かに、これだけたくさんの家の中から目ぼしい家を選び出し、頑丈な鍵を解錠して侵入、幾つもある箪笥や小物入れの中から、財布と現金の入った引き出しに目をつけ、奥深くにしまっておいたそれらを素早く見つけ出す。廊下と絨毯についた足跡以外、部屋を荒らした形跡は一切ないなんて、思いつきや行き当たりばったりではできないだろう。
ですから、「30万円」についても「電気・ガス・車の保険料等を支払う為」という話をそのまま受け入れ、二人して「プロに狙われたんじゃ、しょうがない」と、諦観(諦めの気持ち)に包まれておりました。
ところが、1週間ほどしたある晩、家の電話が鳴りました。
なんと、それは「空き巣犯」の父親からでした。
彼の息子と友人の2人が九州で窃盗事件を起こして捕まり、鎌倉の私の家について自供した、のだそうです。
◎ 電話の話では;
父親は九州である中学校の教師をしているのですが、息子が悪友に引きずられ、何度も今回のような事件を起こしているので、親として困っている。
今回はご迷惑をおかけして誠に申し訳ない。お金については早急に現金書留等でお送りします、ということでした。
◎ 事件(今回の空き巣)について;
○ あの日、息子と友人の二人は、思いつきで九州から新幹線に乗り、新横浜で降車し、鎌倉へ行ってみようと横須賀線に乗った。
○ 鎌倉駅で降りるつもりが、一つ手前の北鎌倉駅でたくさんの人が降りるので、それに釣られて降車し、人の流れに押されて建長寺近くの私の家の前まで歩いてきた。
○ 小さな路地があったので、フト路地に入り、何軒かある家の中で、たまたま私の家のドアノブを引いてみたらドアが開いた。
○ 家の中に入ると誰もいない。居間のテーブルの上に財布とお金の入った紙袋が置いてあったので、それをつかんで逃げた。
という話でした。
つまり;
○ すべてが思いつき・行き当たりばったりで、九州から鎌倉まで来た。
○ 私の家の鍵は開いていた(施錠していなかった)。
○ 箪笥の奥深くではなく、テーブルの上に財布と現金が置いてあった。
しかも;
○ 紙袋に入ったお金は30万円ではなく8万円だった。
◎ 誰がプロなのか
電話を切ってから、当然、家内と夫婦喧嘩になったのは言うまでもありません。
●「施錠していなかったらしいじゃないか」→ 「あら、鍵をかけたはずだったんだけど」
●「テーブルの上にむき出しで財布と金が置いてあった」→ 「引き出しにしまったつもり」
● 「30万じゃなくて8万だったと言ってるぞ」→ 「私の思い違いだったのかしら」
「はず」「つもり」「思い違い」と、何を言っても「暖簾に腕押し」。
私の妻の方が「プロ」ではないのか、と諦めました。
(ここでもやはり、「人身受け難し、いま既に受く」「仏法聞き難し いま既に聞く」(金剛経)。 この「広い日本」で、九州から何時間もかかって辿り着いたのが私たちの家であったというのは、何か因縁というものがあったのでしょうか。)
更にその翌日、私が留守の時だったのですが、鎌倉の由比ヶ浜にお住まいのある老夫婦から電話があり、朝、海岸を散歩中に妻の財布を拾ったと。
家の前の鎌倉街道には、ドブと言いますか、蓋で覆われた放水路のようなものがあり、○○川経由で海(由比ヶ浜)へ流れ込んでいるのですが(家から海岸まで2キロくらい)、空き巣犯たちは金を抜いた財布や健康保険証の入ったポーチを放水路の口の開いた部分へ投げ込んだのでしょう。。
早速、妻は菓子折りを持ってそのお宅へ訪問してきました。
財布にはクレジットカードや銀行カードが入っていたので、これで現金が戻れば、実質何の被害もなかったに等しい、ということになります。
ところが、電話では正直そうな学校の先生だったのに、5日経っても現金書留は送られてこない。
すると、7日ほどした金曜日の夜、私が帰宅すると、妻が「夕方、警察が来たわよ。」と言います。
なんと、「盗まれた現金」を持って九州から警察官が来たのだそうです。
これには驚きましたが、20代後半の刑事・警察官 ?で、玄関を開けると宅急便のお兄さんのように、にこにこしながら「お届けにあがりました」とおっしゃったそうです。そこで、私は勝手にこう推理しました。
「独身だろうから、きっと彼女と東京で週末を過ごしに来たんだろう。」
「金曜の朝、九州を出て夕方大船警察署へ挨拶に行き、お金を届けている間、彼女は鎌倉の小町通りでも散策。土日はディズニーランドや東京見物にでも行くんだろう。」「二人旅行だが、一人分の交通費は出るし、宿泊費も浮くし、出張旅費も出る。」
◎ 誰が最後に笑ったか
結局、空き巣の犯罪者と被害者、そして警察という、今回の出演者3者の内、いったい「誰が最後に笑ったのか」ということを考えさせられた事件でした。
① 空き巣犯の息子と親は犯罪者として苦しむ
② 我が家はびしょ濡れになった財布や絨毯を汚されるという、軽微ではあるが「被害」に遭う。
③ 警察官だけが、鍵をどうやって開けたのかなんて、詳しい調査などしないで「プロの仕業だ」なんて適当なことを言っていれば、それが「仕事」になり、給料を貰える。
更に「被害者の盗られたお金を届ける」という名目で、出張旅費(10万円? → 税金)を使える。
◎ 土足の跡がベタベタ残っているのに、どこが「プロ」なんだ ?
◎ 頑丈な鍵をどうやってこじ開けたのか、を詳細に検査しなければ、次の犯罪に役立たせることができないのではないか。
そう、犯罪で儲かるのは警察だけ、というか、犯罪が増えれば増えるほどそれを利用して飯の種にするのが警察。逆に世の中が平和では、警察官の居場所がなくなってしまう。
「社会に適度(てきど)の犯罪を」「市民に過度の恐怖感を」
これはヒッチコック映画「サボタージュ」(1935年)で預言されていました。
「ロンドン市民に恐怖を与える(テロ)犯人は誰ですか?」
(主人公の警察官が上司に尋ねる)
「絶対に捕まらない奴さ」
(上司がこう答える)
2023年7月17日
V.3.1
2023年7月19日
V.3.3
平栗雅人
日本の警察の問題解決能力 V.3.4 @MasatoHiraguri
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