第39話 紅鳥州の仙女様と精獣様
キョウとチョウが社の扉をノックして呼びかける。
「仙女様! 銀狼族のアヤメ様とカナメ様をお連れしました。銀狼州の仙女様の遣いでいらっしゃったとのことです」
しばらくすると、扉が開き、侍女のような女性が顔を出した。
「ただいま仙女様はフェニックス様の所へ向かわれております。中でお待ちいただいても構いませんか?」
じ……侍女がいる! しかもなんか格式高い!!
内心カナメは自分の知る仙女様とのギャップに驚き戸惑った。
実はアヤメも同じように驚いていたが、そこはアヤメである。そんな様子をおくびにも出さずにこやかに微笑みながら
「ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。お言葉に甘え、待たせていただきます」
と伝えた。
カナメは姉の言葉の後に頭を下げることで、同意を示した。
4人は社の中に通された。
社は広い神社のようになっており、境内にもいくつか建物や灯籠などが並んでいる。
4人は奥にある1番立派な建物へ案内された。
緊張の面持ちで待つ4人。特にアヤメとカナメの側に控えるキョウとチョウの緊張は凄まじいものだった。
しばらくすると扉の向こうから声がかかる。
「お待たせいたしました。仙女様が戻られました。そちらのご準備はいかがでしょうか」
「はい、大丈夫です」
アヤメの返事の後、扉が開き侍女が扉をくぐる。
次いで仙女様と思しき女性が入って来た。
侍女が頭を下げ、扉を閉め、扉の前に待機する。
アヤメとカナメは仙女様の前に跪いた。
「お初にお目にかかります。銀狼族の霊山の仙女タケ様の遣いで参りましたアヤメと申します」
「同じく、カナメと申します」
2人は挨拶をするとアヤメが仙女様(師匠)に託された手紙を差し出す。
紅鳥州の仙女様は手紙を受取り中に目を通した。
「ふむ。そういうことですか。私も少し気になっておりました。アヤメ様、カナメ様はそちらの精獣にお会いしたことはありますか?」
「はい、先日ですが、私たちは頭を撫でさせていただきました」
「まぁ! 頭を……ですか? それは羨ましいですね。せっかくですから、こちらの精獣もご覧になりますか?」
「え? 良いのですか!?」
「ご迷惑で無いのなら、ぜひ!」
アヤメとカナメは食い気味に返事をした。
「ええ、構いませんよ。では、ついて来て下さい。ああ、そちらの護衛の方お2人もご一緒にどうぞ」
「わ、我々もよろしいのですか!?」
「ありがとうございます!」
キョウとチョウも許しを得られ、2人は目を輝かせた。
4人は聖女様の後を追った。
山道にいくつもの鳥居が続いていた。
いくつもの鳥居をくぐり続けたその先に大きな鳥の巣があった。
そこには虹色の羽を優雅にたなびかせた巨大な鳥がいた。
その出立に息をするのも忘れ魅入る4人。
フェニックスと呼ばれていたその巨大な鳥も4人を特にアヤメとカナメをジッと見つめていた。
しばらくお互いに見つめ合っていると、フェニックスが何かに気付き、警戒をし始めた。
フェニックスが向いた方を注視すると、遠くから鳥のようなものが飛来するのが見える。
「あれは何ですか?」
カナメは不思議に思い尋ねた。
「あれは、ヒルコウモリです。魔物の一種で、ああやってたまにフェニックス様の巣を襲うのです」
そう仙女様が告げた直後、フェニックスが飛び立ちヒルコウモリの方へ突撃した。
ヒルコウモリたちはフェニックスの翼から放たれる炎で燃え落ちていく。
その様子を見ていると、一陣の風が吹いた。
「え? 寒っ!」
「冷たっ!」
アヤメとカナメは凍てついた風に驚いた。
2人の様子に仙女様が教えてくれる。
「風、冷たいでしょう? ここは、大陸の最南端です。極地に近いため、本来とても寒さの厳しい土地なのです。夏でも雪が降っていてもおかしくないんですよ」
「え? でもこの街は暖かいですよね?」
アヤメが不思議に思い聞き返す。
「ええ。それはね、フェニックス様のお力なんです。フェニックス様がこの山脈におられる間はフェニックス様の熱が山脈に伝わり、この辺り一面を暖めてくれるのです。もちろん、この山脈を通過する風も暖まります」
その話にカナメも疑問を投げかける。
「では、今風が冷たく感じるのは、フェニックス様が山脈から離れてしまったからなのですか?」
「その通りです。もし、このままフェニックス様がお戻りにならなければ、州都は雪に埋もれてしまうでしょう」
「そんな……。では、今はあのモンスターの影響で、巣から離れる頻度が上がっているのでは?」
今度はアヤメが質問を返す。
「そうなのです。それが悩みの種で。もしかしたら銀狼州の異変もモンスターが関連しているかもしれないですね」
仙女様は困ったように頬に手を当て、そのまま思案するように答えた。
そうこう話しているうちに、フェニックスが巣に戻って来た。
再び辺り一面が暖かくなる。
アヤメとカナメはその効果を肌で感じることとなった。
「では、フェニックス様も何事もなく帰って来られましたし、私達も戻りましょうか」
仙女様の言葉に皆が頷き、社まで戻った。
仙女様は返事を書くからとアヤメ達はもう一度応接室で待つこととなった。
10分程して仙女様が戻って来た。
手にしていた手紙をアヤメに渡した。
「解決への糸口となると良いのですが……。銀狼州の仙女にもよろしくお伝えください」
そう言い、仙女様は2人を見送ってくれた。
アヤメとカナメは下山するために再びキョウとチョウに手伝って貰うこととなった。
今度は、行きと違って、キョウがカナメをチョウがアヤメを抱えることとなった。
キョウとチョウは2人を抱え、西へ向かって飛んでいく。
相変わらず、カナメはテンションが上がり、アヤメは恐怖でしがみ付いていた。
そして、下山するだけだと思っていたカナメが、飛んで行く方角に違和感を覚え、声をかける。
「下山するのではないのか?」
「ええ。もちろん下山しますよ。しかし、せっかくなので金獅子州の州境まで行こうかと思いまして」
カナメをおぶってくれているキョウが答えてくれた。
「いや、それは迷惑だろ? 他にも仕事があるだろうし、下山するだけで構わない」
「いえ、迷惑だなんてとんでもない! 光栄でしかありません。それに本日の我々の任務はお2人の護衛と移動のサポートです。真っ直ぐに移動できる分、走るより飛ぶ方が速いと思いますので、ぜひ、お力にならせて下さい!」
「そうか? では、そのようにさせていただこう。有難い、助かる」
キョウとチョウは全速力で空を進む。
キョウの言う通り、曲がり道の他、遮蔽物など邪魔になる物がない分、速く移動でき、その日の夕方には関所の町まで移動できた。
「では! 我々はここで失礼いたします!」
キョウとチョウはビシッと敬礼し、空へ飛び立って行った。
2人は疲れを癒すため、特にアヤメは空の旅でフラフラであったため、この町で1泊してから、金獅子州の領地へ入った。
翌日、宿で聞いた州都を目指して突き進む2人。
州都に辿り着き、2人は異変に気付いた。
やたらと街の住人にジロジロと見られるのだ。
いくら普段から見られることが多いといっても、ここまで不躾に見られることはあまりない。何かしでかしてしまったのかと2人が不安にかられていると、住民の1人が話しかけてきた。
「あの、人違いでしたら申し訳ございません。もしかしてですが、銀狼州のアヤメ様とカナメ様ではございませんか?」
「ああ、そうだが?」
不思議に思いながらカナメが答えた。
次の瞬間、周りにいた人達がアヤメとカナメに群がった。
「やはりそうでしたか! そうではないかと思っていたのです!」
「先日の戦い、実に見事でした!」
「ファンなんです! 握手してください!」
「あ! 抜け駆けはずるいぞ! 私にもお願いします!」
とんでもない勢いで囲まれ詰め寄られる2人。
身動きが取れず困っていると
「アヤメ様とカナメ様から離れなさい!」
と声が響いた。
声のした方へ顔を向けると、そこには衛兵が1人立っていた。
アヤメとカナメと目が合った衛兵は敬礼し
「お待たせして申し訳ございません! お迎えにあがりました!」
と声を張り上げた。
「迎え……ですか?」
アヤメが驚いて尋ねると
「はっ! 昨晩、州王様の元へお2人がこちらに向かっているとの連絡が入ったそうで、私にお迎えするよう命令が下されました!」
と答えが返ってきた。
2人は導かれるまま、衛兵のあとを追う。
衛兵は大通りに馬車を停めており、そのまま馬車で城まで向かった。
馬車の中で先ほどの衛兵が
「住民の様子にさぞ驚かれたでしょう? 今、お2人は我々金獅子州の英雄なんです!」
と目をキラキラさせながら前のめりに喋ってきた。
「え? 英雄ですか?」
アヤメが少し腰を引きながら返事をする。
「そうなんです! 先日の統一大会でのお2人のお姿に我々金獅子州の民は感動いたしました!」
なんか少し前にも同じようなことを言われたな
とカナメは思った。
「特にあの憎き白虎族に長年の雪辱を果たせたこと、本当に天にも昇る気持ちでした」
カナメはずっと気になっていたことがあって、衛兵に尋ねた。
「あの、なんでそんなに白虎族と仲が悪いのですか? どちらかといえば同族ですよね? オレたちで言うハイエナと狼のような……」
「そうです。元は共に生活していたのです。ですが、白虎族のあの、力に溺れ、周りへの配慮のない身勝手な性格、ご存知ですよね?」
「あ、ああ」
カナメは第2王子ゴウを思い出す。
「白虎族はああいう輩が多いのです。もちろん、そうではなく、崇高な考えでひたすら1人で心技体を磨く素晴らしい方もいらっしゃいます。しかし、ある日、傍若無尽さに拍車がかかり、とうとう白虎族が独立を宣言したのです」
「な! 白虎族から離れたのですか!?」
「そうなんです。それでも和を尊ぶ金獅子族は白虎族を気にかけ、仲良くしようと努力を続けたそうです。ですが白虎族は好き勝手ばかりを続け、遂には金獅子族を侮辱し始めたのです。そして、その歴史が続き今に至ります」
「なるほど。それは、深い遺恨があったのですね」
カナメは大変だったのだな、と眉間にシワを寄せた。
それを見たアヤメは
カナメ『遺恨』なんて難しい言葉知ってたんだ。あの子ただのおバカじゃなかったのね。
とコッソリ心の中で思った。
ちょっと可哀想なカナメであった。
「そういう訳で、金獅子州は他の州より白虎州に対する想いが強いのです。なので、王族のあるべき姿を見せ、そして群の矜持を示して下さったお2人は我々の英雄なのです!」
大興奮の衛兵は唾を飛ばす勢いで喋り続ける。
「実は、この役目も立候補者が多過ぎて、くじ引きで決まりました。私はここで死んでも悔いはありません!」
「いえ! 生きていてくださいね!」
アヤメは慌てて止めたが、衛兵の言葉に完全に引いてしまっていた。
そんな感じで温度差のある会話を続けていると、馬車が止まり、金獅子州の城に到着した。
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