第38話 この星の守り神たち
地震のあった翌日、仙女様は2人に話を切り出した。
「昨日の地震の話なんだけどね、2人にちょっとお使いを頼めますか?」
「お使いですね、どこに行きましょう?」
アヤメが仙女様と話を続ける。
「他の仙女様の所に行って、何か異常が無いか確かめてきて欲しいのです。手紙を出すこともできますが、恐らく、アナタたちが本気で走った方が早いでしょう? 私はドラゴンの様子が気になってここを離れられないから、代わりに頼めますか?」
「もちろんです! でも、ドラゴンが目覚めるのはいつものことではないのですか?」
「ええ、いつものことですよ。しかし、今回は前の時から15年程しか経っていないんです。少し早い。侵略者や魔物のこともあるし、心配なんです」
「わかりました」
アヤメは神妙に頷いた。
そこにカナメが口を挟む。
「師匠、基本的なことで申し訳ないのですが質問良いですか?」
「なんですか? 言ってごらんなさい」
「そもそもドラゴンの役割って何なんですか? それと他の仙女様に所にいるドラゴンたちも」
「そうですね、そこから話さなければいけませんでしたね」
仙女様はゴホンと軽く咳払いをし、喉の調子を整えて話し出した。
「この星には『四精獣』と呼ばれる、守神のような生き物が存在しています。この地域ではドラゴンがそうです。地域によってその四精獣の姿は異なるし四精獣の扱いも変わります。ここでは、ドラゴンは幻の生き物でしょう? そうやって、居ない存在として扱うことで、逆にその生き物を守ってきたのです」
「「四精獣……」」
「はい、そうです。場所によっては、神様として崇められている所もあります。そして各四精獣はその場所で天変地異などの災害から州都を守っていると言われています。例えばうちなら、ドラゴンがマグマの中で寝ることで、マグマの温度を下げてくれていると言われています。そのおかげで、火山が噴火しません。もし火山が噴火したら州都は滅亡します」
「火山が噴火……。滅亡……」
あまりの言葉にカナメはゴクリと唾を飲み込んだ。アヤメも同じように固まっていた。
「他にはありますか?」
「いえ、ありません。ありがとうございます」
「あ、そうそう! ドラゴンのことは他言無用ですよ。これは仙女とこの村の村長、そして、州王夫妻しか知らないことです」
「オレたちに話して良かったのですか?」
「仙女の遣いとして、他の仙女に会うのです。知らない方が困るので、今回は特別に話しました。アナタ方のお兄様にも言ってはいけませんよ。この話は王位を継ぐ時に彼が知るべきことですから」
「承知しました」
アヤメとカナメは互いに向き合い頷いた。
「では、手紙をしたためましたので、それぞれの仙女に会って、返事をもらってきてください」
仙女様はアヤメに手紙を託す。そしてカナメをジロリと見てこう言った。
「カナメ、くれぐれも各仙女に失礼のないように。アヤメ、カナメのこと、頼みましたよ。アナタが頼りです」
「承知しました!」
アヤメが力強く頷いた。
「オレだって、ちゃんとできますよぉ」
カナメが少ししょぼくれる。
「カナメには前科がありますからねぇ」
仙女様がまたもカナメをジロリと見る。
「今のオレは違います! オレだってやる時はやる男です!」
「そうですね。では、信じますよ? それと、道中アヤメだけでは危険なこともあると思います。しっかりとアヤメの事を守るのですよ?」
「はい! お任せください!」
カナメはやる気に燃えていた。
「「では、行ってまいります!」」
「気を付けてね。どうしても無理であれば、そこの仙女の分は諦めて構いません。嫌な予感がします。出来るだけ、早く帰ってきてください」
仙女様はそう言うと、お守りをそれぞれに渡してくれた。
「命の危機に遭った時、それを飲み込みなさい。少しはその状況を打開する一助となるでしょう」
2人はお守りをしっかりと首からかけ、旅立って行った。
仙女様はその2人の後ろ姿を心配そうに見守っていた。
2人は走りながら会話をする。
「姉上、どこから周りますか?」
「そうねぇ……私たちの隣だから、南の鳥獣人か北の人族よね?」
「うーん。どっちかというと姉上は人族が最後の方が良いんじゃないですか?」
「わかる? じゃあ、鳥獣人の所からお願いしても良い?」
「もちろんですよ。では、南に向かいましょう。」
2人は走れる限り走り続けた。
仙女様の修行の成果もあって、かなりのスピードでスタミナも切れずに走り続けた。
およそ2日後、鳥獣人と狼獣人の州の境目までやって来た。
関所では、王族の腕輪が役に立つ。
待ち時間ゼロで丁重に招き入れられた。
2人は州都の方角を教えてもらい、州都へと街道を真っしぐらに走っていった。
州都は大陸の1番南端の山脈に抱かれるように広がっている。
2人は州の州王に挨拶するため、州王の城へと向かった。
流石は鳥獣人の州都である。
奥の山脈にそびえ立つ城までの道のりのアップダウンが激しい。殆どの者が翼で飛べるため、坂道が多くても気にならないようである。
しかし、同じ鳥といっても飛べない種類の鳥や、鳥以外の獣人もいる。そのために、全ての場所に必ず歩いて行けるよう道が繋がっていた。
2人は公務の付き添いで何度か紅鳥州に赴いたことがあった。しかし、公務では街に出る機会はほぼない。馬車で通過するのみであった。
馬車から見る車窓の景色と歩きながら見える風景は異なる。その街の香りや気温を直に感じる。
2人は歩いて感じる街の雰囲気を楽しみながらも、急ぎ足で城へと向かった。
いくつもの階段や坂道を通り抜け、城門へ辿り着く2人。
門兵が2人を見てギョッとした。
アヤメが急ぎの用があり、州王に会いたいと告げる。
門兵は慌てて城内へと駆け込んだ。
しばらくして、城の侍従が現れ2人は応接室へと通された。
少し待つと、州王のホクトが現れた。
「これはこれは、久しぶりだね。2人揃ってどうしたんだい?」
「州王様、この度は先触れもなしに大変失礼をいたしました」
アヤメが膝を折り、頭を下げる。
カナメも同じように頭を下げる。
「堅苦しいのはなしで良いよ。急ぎの用なんだろ? さ、話してみなさい」
「ありがとうございます」
アヤメとカナメは姿勢を正し、事情を説明した。
「なるほど、仙女様の元に向かいたい……と」
州王は少しの間考える。
「仙女様の元に行くのは構わない。ただ、少し困ったことがあってね。仙女様がいるのは、大山脈の頂上なのだよ。我々なら飛んでいけるのだが、君たちには翼がない。道ならあるにはあるのだがそれもちょっと険しいのだ」
どうしたものかと、うーんと悩む州王。
そこへ、大丈夫だと伝えるためにカナメが話しかける。
「私どもの仙女様も霊峰に住んでおりました。精獣も山頂におります。ですので、山登りは難しくはありません」
「ふむ。それなら……と言いたいところだが、やはり飛んで行った方が速いだろ? 君たちは急いでいるのだよね?」
「それは……そうです」
カナメが俯く。
「よし! それなら訓練がてら、ウチの兵を貸そう! すぐに呼んでくるから、少し待っていなさい」
「「え?」」
2人がどういうことかを聞く前に州王は扉を出て行ってしまった。
そして数分後、かなり強そうな兵とともに帰ってきた。
「待たせたね。この2人が君たちを仙女様の所まで連れて行ってくれる」
ホクトは息を弾ませながら、アヤメとカナメに伝えた。そして、連れて来た兵2人に向き直る。
「キョウ、チョウ、このお2人は銀狼族のアヤメ様とカナメ様だ。くれぐれも粗相のないよう仙女様の元へとお連れしなさい」
「な! や、やはりそうなのですか!? その見目麗しいご尊顔と、美しい銀髪、その耳と尻尾にそうではないかと思っていたのです!」
「ヤバい! 俺たち一生分の運をここで使っちまったんじゃないか!?」
「それでも構わないじゃないか!」
「!! そうだな! それもそうだな! まさかお2人のお役に立てる時が来るとは……!」
キョウとチョウと呼ばれた兵2人は今にも踊りださんとばかりに喜ぶ。
「こら! お前たち! 粗相をするなと言ったばかりだぞ!」
そこへホクトからの叱責が飛ぶ。
「「し、失礼いたしました!」」
2人は敬礼し、謝罪を述べる。
そして姿勢を戻した後、キョウが視線を彷徨わせ、モジモジ、ソワソワとした後、意を決したように口を開いた。
「あ、あの! 統一大会、観戦しておりました! お2人のお姿にもう、感動して、感動し……」
キョウが涙で声を詰まらせる。
「も、申し訳ございません! コイツは昔、ケンカが弱くて、それで虐められることもあって……。そんなだから、弱い者を守れる強い兵士になりたいと、兵になったのです。俺も似たような感じです。ですので、お2人の姿がとても眩しく、本当に憧れなんです……」
2人はとうとう声を詰まらせ、肩を震わせて俯いてしまった。
その様子を見てホクトが口を開く。
「すまないね、アヤメさん、カナメさん。でも、こう見えてこの2人は頼りになるから安心して任せて欲しい。そして、私も観ていたよ。本当に2人とも素晴らしく、私自身、身が引き締まる思いだったよ」
その言葉に今度はカナメが俯いた。
「そんな、そんな殊勝なことではなかったんです。試合でお気付きかと思われますが、オレはただ、一悶着あったゴウ殿下に一矢報いることだけに必死でした」
「私もです。群のことをあそこまで馬鹿にされて、カナメをあんな風に傷付けられて、ゴウ殿下への復讐心でいっぱいでした」
アヤメも俯いた。
2人の話を聞き、ホクトは優しく微笑んだ。
「そうだったんですね。なら、それでもなお、観客を守ろうとしたカナメさん、群や王族の矜持を守ってくれたアヤメさん、お2人はご自分に自信を持ってください。人は怒りや復讐心に満たされた時、その人の本性が出ます。貴方方は、その中で本当に素晴らしい行動をしました。私も同じ王族としてとても鼻が高いです」
2人は顔を勢い良く上げてホクトを見た。
ホクトはそんな2人に目を細め、微笑む。
2人は涙ぐみながら
「「ありがとうございます」」
とだけ伝えた。
その言葉以外、紡ぐことができなかったのだ。
「そういう涙脆い所はナツメそっくりですね」
ホクトは優しげな顔で笑った。
ホクトとナツメは隣の州ということもあり、幼馴染でもあったのだ。
「さあ、急いでいるんでしょう? 早く行きなさい。帰りはウチに寄らなくて良い。そのまま、次の州へ向かいなさい」
ホクトはそう言うと、応接室の窓を開けた。
「キョウ、チョウ、急ぎです。ここからで構いません。お連れしなさい」
「「はっ!」」
アヤメは横抱きに、カナメはおんぶをしてもらい、窓から飛び出した。
「す、すっげぇ!!!! 鳥になったみたいだ!!」
空の旅が始まって、カナメは大興奮ではしゃいでいた。
「カナメ様! 恐くはないのですか?」
「ああ! 初めは少しビビったけど、風が気持ち良くって途中から楽しくなってきた!」
「そうですか。それは良かったです。空中で錐揉み状に回転も出来ますよ?」
「すげぇ! やってくれ!!」
「では、しっかりとくっついていて下さいね」
チョウはカナメが自分にしがみ付いたのを確認して、空をドリルのように回転して進んだ。
「ううー……。さすがに酔ったー」
カナメはしがみつきながらも目を回してぐったりとなった。
「ははは! 初めは目が回りますもんね。慣れれば楽しくなりますよ。また、今度ぜひ遊びに来て下さい。殿下であればいつでも飛びますよ!」
「そうか! 楽しみにしている!」
チョウとカナメは空の旅を楽しみ進んでいた。
一方
「キャー!! 恐い! 恐い! 空ってこんなに足がすくむものなの!?」
アヤメは恐怖で涙目であった。
「アヤメ様、しっかりと支えておりますので大丈夫ですよ」
そうは言われても恐いものは恐い。
アヤメは運んでくれているキョウに必死にしがみついた。
キョウは憧れのアヤメに抱き付かれるスーパーラッキーにより、キャパオーバーとなり気を失いそうになった。
「キャー!!!」
アヤメの声にハッとするキョウ。
「し、失礼いたしました!!」
キョウはアヤメのため、のぼせる己を必死に堪え仙女様の社へ向かった。
「お待たせしました! あちらが社の入口となっております!」
チョウが社を指差す。
社の奥に山頂へと続く道があり鳥居のような物がいくつも見える。そして山頂付近に何かがいるのが見えた。
キョウとチョウは速度を落とし、2人を社の前で降ろした。
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