第29話 栄光都市と開会式

 カナメとアヤメは大会受付で指示された宿へ向かった。


 宿には、修練場も付いていた。さすが、統一大会のためだけに発展した街だ。


 この統一大会が開かれる都市は『栄光都市』と呼ばれている。大会での優勝者から連想されて付けられた名前だ。


 この栄光都市は、毎年開かれる統一大会の出場者や観戦者のために、集まった宿や店舗が発展していってできた街だ。

 そのため、他の町と違い、全てが大会仕様となっていたのだ。


 2人は食事をするため、街を散策した。

 通りが沢山の人で賑わい、土産物屋や食事処が多く目立つ。

 食べ物も各地方の食べ物が揃っていて、食欲をそそる香りがあちこちから漂ってくる。また、身体を鍛えるグッズや過去の優勝者をモデルにしたグッズなども売っている。その辺り、やはり栄光都市ならではであった。




「本当色々あるわねぇ。ねえ、カナメ? お父様たちに何かお土産買って帰る?」


 店をブラブラと見ていた姉が言った。


「いや、父上たちも観戦に来るんだろ? なら土産はいらないだろ? 絶対に母上が街を回ると言って、父上と兄上が振り回されると思うよ?」


「確かに! お母様は絶対に回る! って言ってきかなさそうよね」


 2人は、母が父と兄を引っ張って、街を連れ回す様子を想像する。


「……オレ、試合出場しといて良かったかも」

「……そうね。私もそう思うわ」


 姉弟の絆が少し強くなった。




 しばらく歩き、2人はとあるレストランに入った。

 店員が案内しようと近付いてきて、2人を見てギョッとする。


「も、申し訳ございません! 現在、王族の方がご利用できるような席が予約で埋まっておりまして、一般席しかご用意できないのです」


 命が取られるのかという程、怯える店員。


「いや、我々は視察で来たわけでもないし、ただ食事がしたいだけだ。普通の席で構わない」


とカナメが答えた。


 店員は驚きながらもアヤメを窺う。


「ええ。私も同じよ。普通の席で構わないわ。お腹空いちゃったし、早く案内して貰えると嬉しいわ」


 アヤメはそう笑いかけた。


 2人の対応に店員はホッと胸を撫で下ろし、席に案内する。


「メニューはいかがいたしましょうか? この栄光都市の看板メニューの一つ、ハンバーグシチューが当店では人気でございます」


「そうなの? じゃあ、私はそれを頂くわ」

「オレも同じものを頼む」


「かしこまりました。しばらくお待ち下さいませ」


 店員は注文を伝えに2人から離れた。



 食事を待つ間、目に入ったメニュー表を眺める2人。

 アヤメがとある所に気付いた。


「見て見て! ハンバーグシチューについて載ってるわよ!」


 アヤメが指差す所をカナメも覗き込む。


「えっと……『複数の種類のひき肉を使ったハンバーグと様々な野菜を使ったシチューは、各地方から集まった大会参加者や観戦者を表し、オーブンで焼き上げることによって熱々になったハンバーグシチューは大会の盛り上がる熱気を表現しております』だって!」


「なかなかにこだわっているな。でも、シチューもハンバーグもどちらも美味しいけど、合わせてまで食べる必要あるのかな?」


「どうなんでしょうね? 私もそれはちょっと思ったかな?」


 2人は不思議だった。そんな2人の考えは、食事を口に運び、すぐに消え去った。



「お、美味しい! 美味しいわね! これ! 煮込みハンバーグみたいだけど、煮込みハンバーグではないし」

「かといって、ハンバーグ単体のように肉だけの味では無く、シチューが肉に絡んで噛めば肉の旨みがシチューと混ざり合って、より味に深みが増す。確かに美味しい」


 カナメは意外と食レポが得意なようだ。


 2人は夢中で料理に舌鼓を打った。



 店内はそんな2人に釘付けであった。

 実は、2人は特に意識していないが、2人ともかなりの美形であった。

 しかも流石は王族ということなのか、食事をする所作がとても美しい。その辺りは母ミドリと乳母・教育担当の努力の賜物であるが、2人はそんなことを考えたこともない。


 見目麗しい2人が、美しい所作で食事をする。

 2人のそんな姿に男女関係なく店内にいる人間は皆ウットリとしてしまっていた。いや、店内だけで無く、店の前を通る人も2人に気付くと一時、足を留めてしまうほどだった。


 実は2人は見られていることに気付いていた。しかし、普段から見られることが良くあり、全く気にしていなかった。

 さすがは王族である。




 食事が終わった2人が軽く雑談していると、横から声がかけられた。


「おやおやこれはこれは。銀狼族の王女殿下と王子殿下ではないですか」


 2人が声のする方を見ると、護衛に囲まれた白虎州の第1王子がいた。第1王子は2人の返事を待たずに勝手にベラベラと喋り続ける。


「王族の方が護衛も付けずにこんな所でお食事ですか? お声掛け下されば、こんな平民臭い席ではなく、我々の席へ歓迎しましたのに。いやはや、それにしても第1王女殿下は噂以上にお美しいですね。ちょうどお食事も終わられているようですし、いかがですか? この後、ご一緒にお茶でも? あ! もちろん、弟君も付いてきて下さって結構ですよ。うちの愚弟から、弟君のお話はよく伺っております」


 そう言いながら、第1王子はカナメを小馬鹿にしたようにチラッと見た後、アヤメを舐め回すようにジットリと見つめた。


「お誘いありがとうございます。非常に心苦しいのですが、この後、弟と用事が入っておりまして。本日はご一緒できそうにありません。また、機会がございましたら、その時はよろしくお願いいたします」


 アヤメは寒気を必死に抑えてながら、笑顔を顔に貼り付けた。


「そうですか、それは残念です。では、また」


 第1王子は振り返りきるまでアヤメから視線を外さずに、護衛と共に去って行った。




 第1王子一行が離れたのを確認して、アヤメが口を開いた。


「き、気持ちわるー! 何なのよアレ! 白虎族っておかしい人間の集まりなの!? しかもあの皆を馬鹿にした態度、ひどいわ!」


と憤慨する。


「きっと彼のせいで店員さんがオレたちに怯えていたんだろうね。っていうか、完全にロックオンされてたよね。さすが、姉上、噂以上にお美しい」


 カナメが揶揄うように白虎族第1王子の言葉を真似して、返事をした。


「ちょっと、人のこと言えないでしょ。私たち顔そっくりなんだから。それにカナメのことまで馬鹿にして! 許せない!!」


「でもまあ、負けたのは事実だし、明日から頑張るよ」


「そうね、アイツの弟、ぶっ潰してやりましょう!」


「姉上、地が出過ぎですよ」


「良いじゃない。今は2人なんだし。それよりカナメ! ちょっとストレス発散するわよ! 宿に戻って手合わせしましょ!」


「良いねそれ!」


 2人はレストランを出て、宿に戻り、備え付けの修練場で気が済むまで手合せをした。





 そして翌日、いよいよ大会が始まった。


 開会式が始まり、大会長の挨拶やらなんやらが続き、宣誓の言葉が始まった。


「宣誓! 我々は日々、積み重ねた研鑽を遺憾なく発揮し、魔法や武器を使用することなく、正々堂々と己の固有能力と気のみで闘いきることを誓います!」


 宣誓を聞いたカナメは不思議に思い、隣にいたアヤメに尋ねる。


「何で、宣誓に魔法や武器のことを盛り込んでるの? 別にそういう星の人が参加しても良いんじゃないの?」


「それがね、昔はこの大会も、どの星の人も参加して良かったんだって。で、ある大会の時に、セイルーから参加した魔法使いが対戦者の身体の水分を全て抜いて、勝ち抜いていくっていう恐ろしい事件があったの」


「え! 怖っ! 魔法ってそんな怖いことできるの!?」


「実際は分からないわよ? でもそう言われてる。で、また別の大会では、イコウの選手が、選手・審判・観客関係無く、ガトリングガン? っていう銃を乱射して大虐殺が起こったんだって」


「え? 銃って避けれないの? そんな威力高いの? 恐すぎ」


「そうらしいよ? これも言われてる話だけどね? だから、それからは魔法と武器の使用が禁止されて、今の形になったんだって」


「へぇー! 姉上よく知ってるね」

「お兄様がそう言ってたわ」

「兄上なの!? まぁ、兄上なら知ってそうだな」


 2人の兄キワメは格闘型ではなく、頭脳型であった。


「あ! いよいよ、予選のルール発表よ!」


 アヤメが気付き、2人は姿勢を戻した。



 司会の人が話し始める。


「では、予選のルールを発表します。予選は各チームに別れての勝ち抜き戦になります。1チーム約20名程になりますが、その中で最後に残った2名が本戦に出場出来ます。それぞれどのチームに所属するか、何時からスタートかは、大会掲示板に貼り出しておりますので、そちらをご確認ください」


 その後、注意事項など細々とした話があり


「では、開会式は以上です。皆様のご健闘、お祈り申し上げます!」


という司会の言葉で開会式は締め括られた。




 アヤメとカナメは掲示板へ向かう。


「うわ! こんなにチームあるの? 1チーム20名だよね? 参加者ザクっと160人!?」


 カナメが掲示板を見て声をあげた。


「開会式の時に多いとは思ったけど、確かにこの人数はなかなかね。今回は優勝者が勇者になるじゃない? だから、参加者が例年よりも多いのかもしれないわね。カナメ、お互い気を抜かず、予選を突破しましょうね!」


「ああ!」


 2人はお互いに頷き合った。

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