第28話 修行の成果はいかに
2人が仙女様の服をひとしきり堪能した後、仙女様は服を着直した。
服装を整え終わった仙女様が2人の評価を伝える。
「まず、カナメ。貴方は諦めが早過ぎる。それに力に頼り過ぎだし、攻撃が単純過ぎる。周りも見えていない。男の子だからね、力に頼るのはわかりますが、いくら何でも力任せ過ぎです。もっと様々な気の使い方を学びなさい」
簡単に言うとボロッカスであった。
「そして、アヤメ。貴女は力の無さをスピードで良くカバーしていると思います。しかし、それに頼り過ぎて、攻撃が軽過ぎる。いくら女性といえど、ある程度のパワーは必要です。また、どうしても、女は男にパワーでは敵いません。なので、相手の力を利用する攻撃方法を学びましょう」
アヤメもそれなにりに厳しいことを言われた。
そして、仙女様が思い出したように付け加えた。
「あ! そうそう! 2人とも、銀狼族、引いては群で生活する獣人全ての思いを背負っています。それはわかりますね? 背負ってる物の重さを考えれば、そう簡単に諦めたり、引き下がったりできないはずです。自分たちが何を成そうとしているのか良く考えてください」
そう締め括った。
カナメとアヤメは今一度自分と向き合う。
黙り込む2人を見て、仙女様は声をあげた。
「はい、はい。黙り込んでいないで、夕食の用意を始めますよ! アヤメ、夕食の準備を手伝ってください。カナメは洗濯物を取り込み、お風呂の準備をしてください」
2人は
「「はい!」」
と声を揃え、慌てて動き出した。
その日食べた夕食は、2人が今まで食べた事のない素朴な物だった。
しかし、それは2人にとってとても新鮮で、また疲れ切った身体に沁み渡る美味しい夕食だった。
次の日以降、カナメは色々と雑用を頼まれることとなった。
食事の準備をしながら、薬草の仕分けをし、畑で作業しながら、遊びに来た子供たちと遊んだ。洗濯物をたたみ、繕い物をした。
今までしたことのない作業に四苦八苦だった。
アヤメは薪割り、畑を耕すなどの力作業を主に行い、たまに仙女様と手合わせをし何かを教わっていた。
普段しない作業により、2人は身体中筋肉痛で数日間苦しんだ。
それを見た仙女様は
「ふふふ。庶民の大変さが少しは伝わったようで何よりですよ。王女殿下、王子殿下」
と楽しそうであった。
ある日、カナメが畑仕事をしていると突然、背後に気配を感じ振り返った。
そこには仙女様がいた。
「うんうん、ちゃんと周りの気配に気付けるようになってきましたね。では、そろそろカナメにも手合わせをしていきしましょう」
とカナメを裏庭に連れて行った。
「カナメ、お裁縫する時、指先に集中しますよね? その時のように指先に集中し、指先に気を纏ってみてください」
と仙女様はカナメに指示を出した。
カナメは、指先のみに気を纏わせる。そのような局所的な場所に気を纏わせる事は、今までできなかったことであった。それに感動して、仙女様を見る。
仙女様はうん、うんと優しく微笑む。
「では、その要領で拳全体に気を纏わせながらも、拳が相手に当たる場所にさらに厚く気を纏わせてください」
カナメはそれをしようとするが、なかなか出来ない。
「ふむ。では、今後は空いた時間全てをその練習に費やしなさい。利き手が出来るようになったら、反対の手や脚、腕も、至る所を分厚く気を纏えるように修練なさい」
と、その日は去って行った。
カナメが一連の事を出来るようになると、仙女様との手合わせが始まった。
拳の打ち合いをするといかに仙女様の拳が重いかを痛感する。いくら気を厚く纏っても骨が軋む。
あまりの痛みに一度
「いってー!!!」
と騒いだことがあった。
その時に仙女様に魔法の言葉をかけられた。
「何言ってんだい? そんなの出産の痛みに比べたら屁でもないね。」
この言葉、この星の女性、特に出産を経験した女性が使うトドメの言葉であった。
この言葉に男は皆、何も言い返せなくなるのだ。
しかし、この言葉が使われ過ぎて一つとても大きな問題が起こっていた。
男は自分の可愛い大切なパートナーに、そんな辛い思いをさせてしまうのか、と
そして若い女は、そんなに出産って痛いのー!? とビビり倒し
その結果、レセキッドでは少子化が起こっていたのだ。
恐るべし出産の痛みである。
ちなみに、仙女様は手合せ中は少し言葉遣いが変わる。運転中に性格が変わる人みたいなものだが、少し勇ましい仙女様は、それはそれは、村人から人気であった。
さて、仙女様との手合わせが日常となった頃、いよいよレセキッド式鍛錬の本領が発揮される。
そう、追込みによる気合い鍛錬である。
カナメは仙女様との手合わせで、少し疲れてくると攻撃の数が減り、防戦一方となるきらいがあった。
そこに仙女様の喝が飛ぶ。
「ほらほら! 弱気になってるんじゃない! もっと強気に攻めな! でないと……」
突然、仙女様の蹴りがクリーンヒットし、思いっきり吹っ飛ばされた。
蹴りの威力がとてつもなく、なかなか立ち上がれない。
仙女様がカナメの側まで歩いてくる。
「カナメ『弱気』というのはその時の気持ちを表現しただけの言葉ではない。弱気になると実際に己の気が弱まり、攻撃を受けると普段より大きなダメージを負うんだ。だから、常に強気で闘いな。自分の気持ち次第で気は強くも弱くもなるんだよ」
ある種のとてつもない根性論である。
流石はレセキッドだ。
その言葉にカナメは己を奮い立たせる。
そして、必死に仙女様との手合わせにくらいついた。
そんな辺りもレセキッドであった。
その後もカナメの気を鍛える様々な修行が続けられた。
ある時は断崖絶壁を生身で命綱無しで登らされ、ある時は大岩を全部砂になるまで砕き続ける。他の日にはひたすら仙女様に殴られ続ける、など。
その中には殺す気か! という物もあったが、レセキッドなので特段不思議ではない。
カナメが弱気になる度、仙女様の喝が飛んだ。
そんな日々を送り、いよいよ統一大会の日が近付いてきた。
仙女様はカナメとアヤメを呼び話しかけた。
「いよいよ、統一大会が近付いてきました」
2人はゴクリと唾を飲み込む。
「この2ヶ月、2人は本当に良く頑張りました。それでも、虎の坊やの実力が分からない今、2人が勝てるかどうかは分かりません。2人とも自分がなぜ闘うのか心に強く持って、闘うように」
2人は、仙女様とお互いを見て、頷いた。
そんな2人の様子に微笑みながら
「私も応援に行きましょう。今のところ、ドラゴンも安定していますし、1週間ほど空けても大丈夫でしょう」
その言葉にカナメは唖然とした。
そして仙女様にそのまま疑問をぶつける。
「本当に、ドラゴンがいるのですか?」
「もちろんですよ? お忘れですか? 私はドラゴンの管理人ですよ」
「ドラゴンなんて言い伝えだと思っていました」
「ふふ。そう思われても仕方ありません。皆さんには馴染みが無いですからね。もしかしたら、機会があればドラゴンを見れるかもしれませんね」
そう仙女様は笑った。
数日後、いよいよカナメとアヤメは統一大会に向かった。
道中、カナメがアヤメに話しかける。
「なぁ、姉ちゃん。何で師匠は1週間って言ってたんだろうなぁ? だって、会場までオレら歩いて7日はかかるぞ?」
「カナメ、姉上よ。……そうねぇ、師匠だから走れば1日ちょっとで着いちゃうんじゃない? それで大会が決勝で1日、準決勝で1日、ベスト4選出で1日でベスト8で2日、と予選、だから大会に6日かかるんだよね?師匠はきっと予選には来ないだろうから、やっぱ1週間位なんじゃない?」
「はぁー! やっぱ師匠半端ねぇなぁ」
バケモンだわ。
とカナメは思った。
「ところでカナメ、白虎州の第二王子ってどんな感じなの?」
「どんな感じ……。いや、こっちの事無視して好き勝手言って、好き勝手に振舞って、めっちゃ鼻につく感じ。かな?」
「何それ? 最低じゃない。絶対私たちで倒すわよ」
アヤメの闘志に再び火が着いた。
アヤメの気が膨れ上がる。
「あ、姉上! まだ会場まで半分も来てません! 少し落ち着いて旅を楽しみましょう!」
アヤメの気を感じたカナメがアヤメを落ち着かせようと声をかけた。
「何言ってんの? 今から準備してて何が悪いの?」
「いえ、悪いことではありませんが……。その、狼の我々がそんなに気を放つと周りの人に影響が……」
そう言われ、アヤメが周りを見ると、街道で怯えた目でアヤメを見る者、震える者、一時的に体調を崩しその場に蹲る者など、惨々たる状況だった。
「あら! ごめんなさーい!」
アヤメは手を合わせ軽く謝る。
アヤメの気が止み、皆ホッとしてまた歩き出した。
周りに居たのがたまたま、肉食系や雑食系の獣人だったからこの程度で済んだのを2人は知る由も無かった。もしここに完全草食系の獣人がいたら、余りの恐ろしさに気を失う者も少なくなかったのである。
それほど、アヤメは成長していたのだった。
旅は順調に進み、統一大会が開催される都市に辿り着いた。
そこでは沢山の出店が立ち並び、各商店も客寄せに大盛り上がりだった。
それを見たアヤメとカナメは、うわぁー! と辺りを見回した。
「なんだか、うちの州都のお祭りみたいね」
「そうだな」
2人は珍しい店に足を止めながら、大会会場を目指した。
大会会場に到着し、大会参加の受付を済ます。
受付を離れようとした時、声をかけられた。
「おい! 誰かと思ったらいつかの負け犬くんじゃないか」
カナメを嘲笑う声がする。
声のした方を見ると噂の第2王子だった。
顔を確認して、無視をするカナメ。
「おいおい! せっかく久しぶりに会ったのに、挨拶くらいしてくれたって良いじゃないか。しかも、何だ? 姉上殿も一緒か? お前1人で受付も出来ないのか? さすが坊ちゃんだなぁ?」
ニヤニヤとしながら、顔を傾ける。
カナメはそれを一瞥し
「試合でお前の頭を地面に埋め込んでやる。首を洗って待っておけ」
と言い、その場に背を向ける。
「ククッ! ボロ負けする醜態を晒すのはお前だぞ。ああ、楽しみで仕方ないなぁ」
と笑いながら、噂の第2王子は歩いていった。
「な、何アイツ。本当に最低じゃない」
会場を出た所で、さっきからずっと黙っていたアヤメが口を開いた。
「姉上、よく今まで我慢しましたね」
カナメは感心していた。
「当たり前でしょ。アイツとカナメとの因縁なんだから、私が口を開いたらややこしくなるじゃない。それに、あそこで喧嘩して運営の方にも迷惑もかけたくないし」
「確かにそうですね。姉上、お心遣いありがとうございます」
「何それ。カナメらしくないわね」
とアヤメは笑った。
2人はその後、街の散策を楽しむべく、荷物を置きに宿屋へ向かった。
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