第19話 勇者決定戦は予測不能!?

 勇者決定戦の前日、候補生への聞き取り調査が行われた。今後の進路についてどう考えているかを知るためだ。

 聞き取り調査をした結果、勇者になりたいと希望を出したものが勇者決定戦に挑むこととなった。何人がどのようにして闘うか等、勇者決定戦の内容は当日になるまで伏せられていた。

 そしていよいよ勇者決定戦の日を迎えた。




 勇者決定戦は午前・午後に別れて行われることとなった。

 勇者に名乗りを挙げたのはアロンを含めて4名だった。勇者決定戦はその4名で競い合うこととなる。


 まず予選として、午前中1時間で、魔法の知識をどれ程身に付けているかを測るため、筆記試験が行われる。その後、魔法の威力や魔力操作の技術などを実技として確認される。

 そして午後からは本戦として、午前の結果上位2名が、勇者の地位を賭けて試合することとなった。


 筆記試験がある。それは候補生全員が予想していなかったことであった。特にアロンは座学がそこまで得意では無かった。

 アロンは、なんとか今までの授業・経験を思い出し必死に解答欄を埋めていった。

 実技では、魔法の威力・魔力操作も十二分に発揮する事が出来た。


 お昼休憩を挟んで午前の結果が発表された。

 アロンは2位だった。3位との得点差は3点、4位との差も5点と、なんとかギリギリで予選を通過することができたのだった。

 

 そして、午後の本戦が始まる。

 相手は言わずもがなのカリナである。

 カリナは予選で2位のアロンとの点差15点というぶっち切りの1位であった。


 今回の試合はプロテクター無しでの試合となる。そのため、いつでもストップがかけれるよう、軍の精鋭たちがフィールド傍に控えていた。

 勇者という地位を賭けて、まさしく命懸けの試合であった。




 開始線にお互いが立つ。

 カリナが先に口を開いた。


「アロン、貴方が途轍もない努力をしていることは分かっているわ。それでも、勇者になるのは私よ」


「俺は、マックスと約束したんだ。絶対に勇者になってみせる」


「そう。マックスと……。それでも、私が勝たせてもらうわ」


「俺だって、負ける気はないよ」


 お互いに強気な視線がぶつかり合う。




 2人の舌戦が落ち着いたのを見計い、審判役のガッツが


「始め!」


と声を掛けた。


 ガッツの声とともに、アロンがカリナに飛びかかった。そのまま、手に氷の剣を創り出し、カリナに斬りかかる。それをカリナは魔法シールドで防ぐ。ガキーンという音とともに、アロンの氷の剣が砕け散った。カリナの魔法シールドにはヒビ一つ入っていない。


「くっ! 頑丈だなぁ」


 アロンは悔し紛れの言葉を放つ。


「当たり前よ。勇者になるんだから」


 カリナがアロンの独り言に返事をしながら、直径1m程ある火炎弾をいくつも創り出し、アロンに向かって撃ち出す。

 アロンもそれを魔法シールドで防ぐ。アロンのシールドにもヒビ一つ入っていなかった。


「あら? そちらもなかなかやるじゃない」


 カリナが満足したように微笑む。



 その隙を狙って、アロンがカリナの真下に氷の柱を突き出させる。

 しかし、カリナはそれをジャンプで躱した。

 アロンはそのままカリナが避けた先に火球を何発も撃ち込む。

 カリナはそれを手のひらで受け止め、火球を消してしまった。

 そうそれはまるで、エレファンに魔法を撃った時のようだった。


 一瞬、あの時の恐怖がフラッシュバックする。アロンは全身に汗を吹き出し手足が震え出した。

 カリナは硬直したアロンに向かって、氷弾をいくつも撃ち込んだ。

 ハッと気が付き、慌てて魔法シールドを張ったが、シールドを張るのが遅くなり、シールドが不完全になってしまい、カリナの魔法がいくつかアロンに当たる。


 シールドに阻まれて威力が落ちてはいたが、アロンの顔や身体から血が流れた。

 アロンはすぐに回復魔法を自分にかける。

 そのまま魔法シールドを自分にかけ、そのままシールドを張り続ける作戦に切り替えた。


 アロンはカリナの魔法について考える。

 試しに氷弾をカリナに撃ってみる。すると、また魔法はカリナの手のひらに受け止められ、そのまま吸収されるように消失した。


 ん? 吸収された?…そうか! 吸収の魔法か!


 そういえば、カリナは吸収の魔法を使えるんだった!とアロンは歯噛みする。

 吸収の魔法はとても難易度が高い魔法であった。アロンは扱えない。


 魔法使いにとって、吸収の魔法はとても厄介な魔法であった。打つ魔法が何であれ、全て吸収されてしまうのだ。

 アロンは必死に吸収の魔法の特性を思い出す。


 ……そうだ! 吸収の魔法は吸収する魔法の規模と消費魔力が比例するんだった!


 一か八かだが、規模の大きい魔法を撃ってカリナの魔力が無くなるのに賭けるしかない。

 アロンは、直径2mはある特大の火炎弾をカリナに放った。

 するとカリナは魔法シールドを何重にも張り、アロンの魔法を防いだ。


「くそっ!」


 アロンは悔しさを隠し切れない。


「私が魔力対策をしないとでも思った?」


 カリナは余裕の表情である。

 普通の魔法は吸収され、大規模魔法はシールドで防がれる。

 これではこちらから攻撃することができない。



 カリナの魔法対策が堅牢な要塞のように立ちはだかった。




 その様子に、誰もがアロンの負けを悟った。




 それでもアロンは諦めなかった。


 何か、何か方法はある。魔法では無い、何か方法が……。

 そうだ! 魔法じゃなければどうなる!? いや、防御魔法で防がれる。いや、あの方法ならもしかしたら……。


 アロンは拳の周りに防御魔法を何重にも張り巡らし、足に風魔法を使う。

 一足でカリナの前まで辿り着く。そのままカリナを拳で殴り飛ばした。

 カリナはもちろん、防御魔法を張ったが、アロンの防御魔法と相殺され、アロンの拳がカリナに届いたのだ。

 アロンはそのまま攻撃を続けようとカリナ向かって走り出す。しかし、カリナがアロンに向かって土の槍を伸ばした。

 すんでのところでアロンはそれを躱す。


 そのアロンをカリナの『かまいたち』の魔法が襲った。風の刃がアロンに襲いかかる。

 しかし、アロンは全身を魔法シールドで覆っていたため、ダメージを受けない。

 アロンはもう一度カリナに接近し、カリナを場外に蹴り飛ばした。

 カリナはフィールドの外の壁に激突する。

 防御魔法を背中側にも張ったが、背中を強く打ちつけたため、呼吸が整わない。

 それでも立ち上がり、フラつきながらもフィールドに戻る。


「これでも駄目なのか……」


 アロンはこの一撃でカリナを気絶させ勝負を終わらせるつもりだった。しかし、カリナはまだフィールドに立っている。アロンが次はどうしようかと考えようとした時、カリナが本気の竜巻を創り出した。


「流石アロンね。悔しいけど、私、本気だわ」


 カリナはそう独り言を呟いた。

 しかし竜巻の音で、その声はアロンに届かない。

 一方、アロンも必死であった。カリナの竜巻を魔法シールドで防げる気がしない。

 それでもアロンは負けたくない。負けられないのだ。



 アロンはダメ元で同じように巨大な竜巻を発生させる。互いの竜巻が周りを飲み込みながら徐々に近づいていく。そしてとうとう、2つの竜巻が重なった。ただでさえ巨大な2つの竜巻が、1つになったことで、その威力がさらに脅威的なものとなる。


 その竜巻を相手の方に押し出そうと互いに魔法操作で竜巻の所有権を奪い合う。魔力の消費が高い魔法の取り合いである。互いに魔力が恐ろしい速さで消費されていく。それでも、どちらも、一歩も引かなかった。


 2人の竜巻がドンドンと周りの物を破壊し吸収していく。

 竜巻に巻き込まれた瓦礫が候補生たちに向かっていくつも飛んでくる。竜巻の風にも吸い込まれそうになる。必死に防御魔法と魔法シールドを張るがとてもじゃないが太刀打ちできない。軍の精鋭たちも候補生や自分たちを守るように魔法を使う。しかし、それでもシールドに何度も亀裂が入った。


 しばらくして、竜巻が消え去った。竜巻に注いだ魔力を消費しきったのだ。結局、カリナもアロンも竜巻の所有権を相手から奪うことはできなかった。

 このやり取りで2人とも魔力がほぼ枯渇してしまった。カリナはもう大規模魔法が撃てなくなっていた。




 これはヤバいわね。


 カリナは心底焦っていた。

 アロンはアロンで、打つ手を尽くカリナに潰され、攻めあぐねていた。残りの魔力もそこまでない。次の一手がアロンの出せる最後の大規模魔法であった。


 アロンは魔法シールドを解除し、精一杯魔力をかき集め、カリナに重力魔法をぶつけた。アロンのできる最大出力の威力であった。

 カリナは自分の周りにドーム状に魔法シールドを張ったが、魔法シールドごとフィールドにヒビが入る。そのままカリナのシールドが破れ、カリナは地面に押さえつけられた。


 押さえつけられる力が強すぎて、まともに呼吸もできない。

 あまりの威力に軍の精鋭からもどよめきが起きる。

 カリナの敗北は、時間の問題であった。


 このまま……このままいけば


 勝てる!

 負ける!


 互いに真逆のことを思う。


 カリナは意識が遠のいていった。


 ダメ! 耐えなきゃ! なんとかしなきゃ!


 カリナは押さえつけられる手を必死に動かし、アロンに向ける。

 そのままアロンに氷弾を撃つ。しかし、それは苦し紛れの魔法なのでとても威力が低い。

 それでも、無いよりマシとひたすら残りの魔力をかき集め、ひたすらアロンへ撃ち出す。


 アロンはカリナの魔法を避ける余裕も、シールドを張る余力も無かった。

 そのままカリナの魔法を受ける。身体のあちこちに氷が付着する。

 それでもアロンは重力魔法を行使し続けた。


 どちらが先に倒れるか分からない状況に、全員が言葉を失い、固唾を飲んで見守る。


「も、もうダメ」

「も、もうダメだ」


 2人が同時に同じことを呟く。


 それでも、諦めたくない。お互い、勇者になりたいのだ。

 カリナは撃てる最後の氷弾を撃った。

 アロンは最後の力を振り絞り、重力を上げる。


 その後カリナはとうとう息が続か無くなり、意識を失う。

 同じ時、アロンの魔力がほぼ無くなり、アロンは眩暈を起こした。

 身体がフラつき、身体が傾いた。

 

 その時、カリナの放っていた最後の氷弾がアロンの頭に直撃した。

 その衝撃でアロンは気を失った。




 同時に意識を失い、倒れた2人。



 どちらもピクリとも動かなかった。




 ガッツもブルーノも判断を下せず、固まってしまった。


 見守っていた全員も固まっていたが、徐々にザワザワと騒ぎ出した。



 そしてブルーノとガッツがどう判定を下すか相談を始めた。

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