第17話 久しぶりの笑顔
「ところでアロン、さっきどうやってノコタケを地面から追い出したんだ?」
ウェンナーが尋ねた。
「ああ、あれ? あれは、ここら辺一帯の地面の温度を上げたんだよ」
それを聞いたダリアも会話に加わる。
「地面の温度を上げる? そんな魔法あったっけ?」
「たまに使わない? 飲み物が冷めちゃった時に温め直す魔法」
アロンが答えた。
「え? あの魔法って地面に……ってか、この広範囲に使えんの!?」
「うん、熱が伝わるなら何でも温められるよ? 範囲は……魔力錬成次第かな?」
何だこいつ、マックスみたいな事言ってんな。とウェンナーは思った。
「え? でもさ、あの魔法ってじんわりあったかーい、くらいの魔法だよね? 何でノコタケは怒って飛び出したの?」
ダリアが、あれ? となってアロンに聞き直す。
「温度も錬成次第である程度まで上げれるよ。俺の場合は80℃位までなら上げれる」
「そ、それなら確かにノコタケも怒るわね」
ダリアはお〜恐っ! と両腕を抱きしめるようにして身体を震わした。
「で、次はどこ行く? 近い方の大きいやつ見に行く?」
アロンは2人に確認する。
「そうだな、とりあえず近いやつから行くか!」
「そうね! そこ行きましょう!」
と3人は北に向かった。
次に見つけた魔物はジャイアントパンダだった。まんまそのままの名前だが、立ち上がった時の体長が3m〜4m程になるパンダだ。ざくっと2階まで届く大きさだ
「で、デカいなぁー」
ウェンナーは少し腰が引け気味になった。
「私、捕獲できるかしら…」
ダリアも不安になった。
「あれ位倒せなくてどうすんのさ」
そう言うとアロンはジャイアントパンダにどんどん近付いていく。
慌てて、ウェンナーとダリアも後に続いた。
ダリアが少し離れた所から捕獲魔法を放つ。
するとジャイアントパンダが檻を破ろうと檻に体当たりを始めた。
檻にヒビが入る。
それに驚いたダリアが檻の強度を上げた。
ダリアの額には汗が滲み始めた。
「クッソー! こいつ完全なパワータイプだな」
ウェンナーがジャイアントパンダの動きを見て、うわーとなった。
「ちょっ! ウェンナー! 見てないで援護してよ。結構私ヤバいかも」
「オッケー! 任せろ!」
ウェンナーがジャイアントパンダの足元を凍らせる。
ジャイアントパンダは凍った足の氷をパンチで砕き出した。
「ウェンナー! そのまま手と足をまとめて凍らせろ!」
アロンはウェンナーに指示を出しながら、魔法をいつでも撃てるように魔法陣の準備をして、ジャイアントパンダを見つめていた。
ウェンナーはパンチの瞬間を狙って氷を放つがタイミングが上手く合わず、ジャイアントパンダの拳だけを凍らせてしまう。そのまま、ジャイアントパンダは凍った拳ごと足元の氷に叩きつけ、足元の氷を破壊してしまった。
ジャイアントパンダは自由になった足で檻の側まで突進し接近する。
ウェンナーは再度、ジャイアントパンダの足元を氷付けにした。
ジャイアントパンダは再び足元の氷を割ろうとパンチを繰り出す。
ウェンナーは次こそはと、さらに慎重に魔法を放つ。
今度は、手と足を一つの大きな氷で固めることができた。
ジャイアントパンダは手をなんとか動かそうともがく。
しかし、ウェンナーがさらに氷を大きくする。
動けないと悟ったジャイアントパンダは、頭突きで檻を破ろうとしだした。
ガシャーン!
ジャイアントパンダが頭突きする度に、破壊音が響き渡る。
ジャイアントパンダは額から血を流していた。それでも頭突きを止めようとしない。
「くっ! アロン! だめ! このままだと捕獲が破られる!」
ダリアがアロンに叫ぶ。
その瞬間、氷柱を太く、長くしたような氷弾がアロンから発射された。
氷弾がジャイアントパンダの上半身を吹き飛ばし、そのままダリアに向かって飛んで行った。
ダリアは驚いて身体が硬直してしまい、動けなかった。
「あぶねー!」
ウェンナーが慌てて自分でできる限りの魔法シールドをダリアに張る。
アロンの出した氷弾はウェンナーの魔法シールドに阻まれて砕け散った。ウェンナーの魔法シールドはヒビだらけだった。
ダリアはその場にへたり込んでしまった。
「アロン! お前ダリアを殺す気か!!!」
ウェンナーはアロンの所まで走っていき、アロンの頬を思いっきり殴り飛ばした。
アロンは殴られた頬を抑え、呆然としている。
その様子に舌打ちし、ウェンナーはダリアに駆け寄った。
「ダリア! 大丈夫か!?」
ダリアは震える身体をなんとか抑えこみ
「大丈夫……」
と答えた。
ウェンナーはダリアを立たせて、2人でアロンの所へ向かった。
俺が、ダリアを殺そうとした?アロンはその事実に頭が真っ白になった。
俺の魔法で仲間を殺そうとした?そんな…まさか。俺はただ、ジャイアントパンダを確実に仕留めようと魔力を強く込めて魔法を放っただけだ。殺そうとかそんな事…
ぐるぐると考えがまとまらないアロン。そこへ2人がやって来た。
「アロン、お前言うことがあるだろ?」
アロンを見下ろしたまま、ウェンナーが言った。
ウェンナーの声に、殴られたまま地面に座り込んでいたアロンは弾けたように顔を上げた。
アロンの目にダリアの姿が映った。
その姿を見て、アロンは自分のした事がどれ程恐ろしい事だったのかを痛感する。
「ごめん……。ごめん! ダリア!! ダリアを殺そうとか、俺、そんなつもり……。本当にごめん」
アロンは項垂れて、ダリアに謝り倒した。
ダリアは一息溜息を吐くとアロンに言った。
「アロン、私は無事よ。安心して」
アロンの様子を見たダリアは、落ち着きを取り戻した。そして、アロンの頬に回復魔法をかける。
2人のやり取りを見ていたウェンナーが口を開いた。
「アロン、俺も殴って悪かった。頭がカッとなったからって、やり過ぎだった」
「いや、ウェンナーは何も悪くない。俺が、全部悪い」
地面を見つめたままのアロンにウェンナーも溜息をついた。
「アロン、お前が魔物を確実に仕留めたい気持ちはよく分かる。俺たちじゃ力不足だっただろうしな。アロンがその分、気を張っていたんだと思う。それでも、俺たちはチームだ。アロンからは俺やダリアが見えていたか?」
その言葉に、アロンは再び顔を上げた。そのまま、ウェンナーとダリアの顔を順番に見る。
俺は2人のことを見えて……
そこまで考えて、見えていなかったことに気が付いた。アロンは魔物倒す事に集中するあまり、2人の立ち位置の確認を怠ったのだった。
その事に気付き、自分がどれだけ自分勝手に行動していたのかに思い至る。
「ごめん。ごめん。俺、2人のこと、見えて無かった。自分の事ばっかで、全然周りのこと、見えて無かった」
アロンは申し訳無さで涙が溢れてきた。
そしてやっと、ブルーノとガッツの言いたかった事が何だったのかを思い知ったのだ。
アロンの様子にウェンナーとダリアは顔を見合わせ、しょうがないな、と笑い合った。
ダリアはアロンに目線を合わせ
「気付いてくれたなら、それで良いわ。次は私を串刺しにしようとしないでね」
と少し茶化して言った。
「そうだぞ、アロン。さっき見ただろ?俺たちじゃお前の魔法を防ぎ切れるか怪しいからな。今度は手加減しろよ?」
ウェンナーも笑いながらアロンに手を差し伸べた。
「ごめん。ごめんね。ありがとう。ウェンナーのパンチめっちゃ効いた。ダリアも恐かったよね?本当にごめんなさい」
とウェンナーの手を取り、起こしてもらいながら、2人に伝えた。
ウェンナーは
「当たり前だろ?俺の本気パンチだぜ?効かなきゃマジで困るぜ。こっちの手までスゲー痛かったしな」
と笑った。
「そうよ。とても恐かったわ。腰が抜けたし、チビらなかった私を褒めてほしいわ」
とダリアも笑った。
それを聞いてウェンナーが
「え? ダリア漏らしたの!?」
とオーバーに驚いて聞き返した。
「漏らしてないって言ってるでしょ! アンタこそ、ちょっとパンチしただけで手が痛いとか、軟弱すぎなんじゃないの!?」
とダリアが言い返す。
その様子に思わずアロンは笑ってしまい、肩の力が抜けた。
そんなアロンを見た2人が少し驚いた顔をした後、フッと力を抜き微笑む。
「久しぶりに見たな。アロンのその顔」
「ええ。その顔の方が、アロンらしいわ」
そう言われたアロンは
「そんな顔が違ってた?」
と恥ずかしそうに聞いた。
それに対しウェンナーが
「ああ! こんな顔してた!」
と、自分の目を手で上に吊り上げて見せた。
「ついでにこんな感じかな?」
と、ダリアがウェンナーの顔の口を掴み、左右の下方向に引っ張る。
「ひょっ! わりあ! いひゃい! ふよふひっはりふぎ!」(ちょっ! ダリア! 痛い! 強く引っ張りすぎ!)
ウェンナーが目に涙を溜める。
それでもウェンナーはそのままそこからさらに変顔を作って笑いに走った。
その顔が面白すぎて、3人で笑いあった。
アロンにとって、エレファンのことがあってから、そんな風に笑ったのは初めてだった。
その後、アロンたちC班は、連携が格段に良くなり、魔物をバンバンと倒していく。
結果、今回の討伐訓練の班の中で討伐数1位となった。
ウェンナーとダリアと喜び合うアロンを見ていたブルーノとガッツもまた、アロンの成長した姿に目を細めた。
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