第9話 交流戦(後編)教師の感嘆と怒り

 その後試合はガッツの予想通り、順当に進み、残すはマックス達の第1位グループのみとなった。


 マックスは最後から2番目の出番であった。




「うーん、出来ればカッコよく最後に登場したかったけど、仕方ないね」


 マックスは身体を伸ばしながら開始線に立つ。


「はっ! 調子に乗るのもここまでだぞ」


 相手の男が開始線に立つ。


「はじめ!」


 審判が開始の合図を出す。

 途端にマックスを凍らせるように足元から氷の柱が何本も槍のように出現する。

 しかし、氷はマックスを避けるように出現し、そのまま溶けた。


「な、何をした!」

「何をしたって? 氷が来たから炎で溶かしただけだけど?」


 本当は魔法シールドで身体を守って、その周りに炎を出して氷を溶かしただけなのだが、そこまで手の内を教えてやる必要はない。


「さてと、じゃあ僕もグーパンチでやっちゃおっかな?」

「魔術師のくせに魔法で攻撃しないのかよ!」


 そう言いながら男は身体の周りに防御魔法を張る。

 マックスはそんなのを気にせず近付いて思い切り振りかぶる。


「馬鹿め! そのまま拳が砕け散れ!」


 相手がそう言った瞬間、相手の足元から青白い炎が立ち昇った。


「が……は……」


 男はそのまま崩れ落ちた。




「青い……炎……」


 アロンは驚いた。

 というより、そこにいた殆どの人間が言葉を失ったのだ。


 フィールドから降りると、最後の1人カリナが声を掛けてきた。


「なかなか狡賢い手を使いますのね」

「相手ほどじゃないと思うよ」


 マックスは肩をすくめてみせた。



「マックス!」


 声のした方をマックスが見ると、アロンが走って近付いてきた。

 まるで大型犬のようでちょっと可愛い。


「凄いね! 青い炎ってどうやったの!?」


 アロンが大興奮で詰め寄る。


「どうって、魔力錬成を頑張ってたら、魔法の威力が上がって青い炎が出るようになったんだ」


 青い炎が出るまで錬成って……。と、どよめきが起こった。




 さて、最後の大将戦である。

 候補生チームのカリナは、初回の魔力錬成の訓練の時にマックスと2人で最後まで残った女の子であった。


「なんだ。女か」


 相手の大将が馬鹿にした声を出す。


「あら? 女じゃ役不足かしら?」


 カリナは不敵に笑う。


 審判から開始の合図が出される。


「俺は女だからって、手加減しねーぞ! 雷槍雨!」


 言葉と共に空に暗雲が立ち込める。雲からゴロゴロと音が聞こえる。

 もちろん、この男も予め魔法陣を準備済みである。


「あらやだ。雨かしら?」


 雲から雨が降り出す。

 カリナはフィールド上に塔のように高い土の柱を出現させる。そしてその上に吸収の魔法陣を設置する。

 その時、雲がピカッと光った。


 雷が落ちてくる! そう思った時、雷は土の柱に吸い寄せられていった。

 その後いく筋もの雷が落ちるが、全て土の柱に吸い寄せられる。


「避雷針ってやつよ」


 ニッコリ笑い掛けるカリナ。


「な……」


 相手の男の言葉が詰まった。


 この星で雷の魔法を使える人間はひと握りもいなかった。

 雷の魔法は魔力操作がとても難しく、発動させれる程の才能を持つ人間がほぼいなかったのである。

 学園側のリーダーはその稀有な才能を持った1人であった。


 もちろん、自然の脅威である雷が降り注ぐこの魔法は一撃必殺の魔法であり、今までこの魔法を使って防がれたことなど一度もなかった。

 それを、目の前の女は初見でやってみせたのだ。

 しかも、大したこともなさそうに。



「せっかく雨が降ってますし、利用させて貰いますね」


 カリナは暴風の魔法を相手に向かって発動する。

 途端に降っている大雨の粒が全て、学園側のリーダーへ貫くように襲いかかる。水であっても岩を穿てるのだ。


 学園側リーダーは、それを魔法シールドと防御魔法で防ぐ。


「あら? 私の魔力ではまだ威力が足りないみたいですね?」


 カリナは冷やし圧縮する魔法で雨を氷に変える。さらに暴風に土を硬く固めたものを混ぜる。


「どちらかが、何とかしてくれるでしょう」


 ニッコリと微笑むカリナ。



 相手の男の所には、硬度の高い氷の粒や土の塊…いや密度が上がったせいで鉱石のようになってしまった塊が飛んでくる。

 シールドと防御魔法にヒビが入る。

 慌ててどちらも張り直す。

 しかし、幾度張り直し続けても、シールドと魔法防御が割れ続ける。


「ふふふ。どちらが最後まで残るかしら?」


 カリナは余裕の傍観である。


「くっ! なぜそんなに魔力が保つんだ」


 まず、雷の魔法はその特性ゆえに消費魔力が大きい。さらに、カリナたち勇者候補生がどんな訓練をしているかを知らない学園エリート組は、その力の差を理解できていなかった。


 そして間もなく、男の魔力が尽き、敗北することとなる。

 無敗の男の初めての敗北であった。


 カリナはフィールドを下りる。


「あれ? カリナさん何で濡れてないんですか?」


 候補生チームの1人が、カリナが全く濡れていないことに気付く。


「そんなの防御したに決まってるじゃない。女性の身体を濡らそうとするなんて、いやらしい男!」


 意外とカリナは怒っていたようである。




 全ての試合が終わった。

 結果、ガッツの特別訓練を受ける者は1人もいなかった。


 やったー!!!


 勝利ではなく、訓練じゃない良かったー! の意味で大喜びの勇者候補生組。


 そこへ、エリート組のブーイングが重なる。



「黙りなさい!!!」


 よく通る声が響き渡った。シンと声が静まる。

 

 ブルーノと会話していた、あの学園側の教師であった。


「みなさん、試合中から『卑怯だ!』『ズルだ!』と文句ばっかりでしたね。試合前に魔法陣を展開するという卑怯な事をしていたのは貴方たちでしょう?」


 教師の声に、エリート組は気まずそうに視線を外した。

 その様子に溜息に吐きながら、教師は言葉を続けた。


「彼ら訓練生は、正々堂々と戦い、貴方たちに圧勝しました。彼らは、体力作りと魔力錬成を毎日地道に行っているそうです。そう、貴方たちが必要ないと、いつも適当に流すあの訓練です。そこに、今回、このような形で結果が現れました。地道な努力を怠り、自分の才能に胡座をかく者が、どうなるかをしっかりと心に刻んで下さい。貴方たちの立つその場所はいつでも簡単に崩れるものなのですよ」


 エリート組は押し黙った。



 その教師が振り返り、申し訳なさそうに

「すみません、せっかくの勝利の余韻に水を差してしまいましたね」


と言った。


 ガッツは

「いえ、そんなことありません」


と一言伝えた後、勇者候補生に向き直り


「くどい事を言うが、貴様らも今回勝てたからといって調子に乗るなよ。対戦相手が変われば負けていた奴も大勢いるだろう。それに、貴様らより強いやつなどいくらでもいる。今回は運が良かったと肝に銘じておけ」


 と圧をかけ言い放った。


 一気に体感温度が10度くらい下がり、重力が倍に上がった感覚に襲われる。


「はい!!!」


 勇者候補生一同、震えを抑え気合いで声を揃えて返事をする。


 それを見ていたエリート組は震え上がり、体調を崩すものもいた。





 翌日から1週間、休みとなった。

 試合後の休養も含めてだが、王宮で重要な会議が続くらしく、ブルーノとガッツが会議に参加することになったからである。


 嬉しすぎる連休なのに、今まで休まなさ過ぎたせいで、何をしたら良いかわからない勇者候補生たちであった。


 アロンとマックスは街へ出掛けたりもしたが、主に訓練をして過ごした。昔のアロンからは考えられない姿である。

 全てマックスのおかげであった。

 マックスはアロンの気持ちがめげそうな時は励まし、逃げ出そうとするアロンを常に引っ張ってくれていた。


 また、元々の才能に加えてストイックなマックスは、常に人を寄せ付けない雰囲気や話し方をしてしまい、親しい友人はいなかった。それでもアロンはマックスの本当の優しい面を見出し、マックスが孤立しそうな時も側にいた。


 そんな2人はお互いに唯一無二の存在になっていた。





※この世界では


魔法を防ぐ→シールド魔法、魔法シールド、シールド(呼び方が人によって違うだけ)

物理攻撃を防ぐ→防御魔法


などと呼ばれる2種類の魔法が存在します。


今回、カリナの魔法により発生した暴風と土の塊は『魔法』、雷槍雨によって発生した雷は『魔法』、雷を起こす上で副産物として出てきた雨は『物理』となります。その物理の雨をカリナは凍らせただけなので、氷は魔法で発生した物では無いため、そのまま物理攻撃としてのダメージになります。


なので、カリナの対戦相手は

シールドと防御魔法の両方を張る必要がありました。


この世界は魔法と物理、その判断を誤ると一撃必死です。

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