45:お金がない!
あれやこれやとアクシデント満載だった4月も終わり、いよいよ明日から待ちに待ったGW!
ホリデーだ! バケーションだ! どんたくだ! 早い話がお休みなのだ!
休み期間中、森小路センパイと会えなくなるのは少々寂しいが、学校がお休みなのは素直に嬉しい。
……と、浮かれた僕たちに、守口センパイがとんでもない爆弾を落としてくれたのだった。
*
4月最後の部活を開始して早々、時間にして凡そ17秒ほど経った辺りだろうか?
「お金がないわ」
守口がいきなりすっくと立ちあがり、長机をバックに両手を大きく広げると、カミングアウトよろしく衝撃の事実をぶち撒けた。
「マジですか?」
いきなりのことに驚く典弘に、守口に代わって土居が「残念ながら事実なんだよ」と暴露を肯定。
「つまり……演劇部の活動資金が無くなった。と?」
なおも食い下がると「くどいわね。それ以外に何があるの?」と守口が挑発的な切り返し。
「スッカラカン。で、す、と?」
だけでなく、トドメを刺すような滝井のひと言にも「ええ、そうよ」と律儀に返答をする。
「このままでは遠からず、演劇部の財布は空になるわね」
改めてバンザイのポーズを取る守口を、今度は瑞稀が「ちょっと待って」と引き留めるように食い下がった。
「確か部活申請をした時の記憶では、各クラブの活動にはそれぞれ〝運営費〟の名目で予算が付くわよね? 新年度が始まったばかりなのに、お金が無いのはおかしくない?」
年度末で活動資金が枯渇したならともかく、年初早々と金欠などふつうはあり得ない。至極もっともな疑問の提示に、典弘は横にいる滝井と一緒に「ほー」と感嘆の声をあげた。
ただ「無いの?」と騒いだ自分よりも、余程しっかりと理由を訊いている。大人の〝質問〟とはこういうモノなのだと妙に納得。
しかし滝井の発した「ほー」は、典弘とは全く別のところ。
「森小路センパイって、相手が守口センパイだと〝台本〟が無くてもちゃんと会話ができるんだ」
金欠のインパクトに隠れていたが、まさに大発見ともいうべき奇跡。
素の状態だと〝人前だとオドオドして、まともに喋れない〟のがデフォルトな瑞稀が、守口相手に流ちょうに意見しているではないか!
「ホントだ」
滅多にない瑞稀の颯爽とした立ち姿に典弘は見惚れる。
一方。部費の枯渇という異常事態で気付いてなかったが、二人の視線に気づいて素に戻った途端に態度が急変。両肩を揺らして「あわわ」とパニクるデフォルト仕様に戻ってしまった。
「ひ、浩子ちゃんとは……付き合いが、長いから、話しをしても、緊張しないの」
さすがに毎日顔を突き合わせているので「ひっ!」と驚くことはなくなったが、突然の質問には機転が利かないようで未だにしどろもどろ。
そんな、つっかえつっかえの回答に得心したのか、エラそうな態度で「なるほど、なるほど」と滝井が首を縦に振るが親しき中にも礼儀あり。
「オマエ、センパイに対して失礼」
典弘はマナーがなっていない滝井の後頭部を「成敗!」と宣言してグーではっ叩く。
パコーンという鈍い音に続いて「あがっ!」という呻き声。
問答無用な制裁実施に滝井がつんのめるが、周囲の反応は冷ややか。
「ひと言余計だったね」
ボソッと呟く守口の指摘が的確に物語っていた。
「このバカは僕が責任もって絞めておくので、森小路センパイは守口センパイと話しを続けてください」
話の腰を折った害獣に仕置きをしながら続きを促すと、瑞稀がニッコリと笑みを浮かべて「ありがとう」の意思表示。
改めて「まだ活動らしい活動もしていないのだから、お金もほとんど使っていないでしょう?」と疑問点を投げかけると、守口が「いやいや。けっこう使ったわよ」と首を横に振っての真っ向対立。
「ちなみに僕たちが入部する前は、どんな活動をしたんですか?」
ならば聞いてみるしかない。典弘が問うと、瑞稀が「……ええと」と額に手を当てながら創部直後を思い出す。
「この部屋を部室に使わせてもらうから、3学期はここを掃除しただけ……」
「掃除道具を買いました」
「でも。箒やちり取りは、部屋の備え付けのものが……」
「洗剤は部費から購入したわ!」
「洗剤だったら、千円もしないよね?」
なおも問い質す瑞稀に、またもや守口が「買ったのが、洗剤だけな訳ないでしょう!」とキレ気味に追い打ち。
「新入部員勧誘のための活動資金にも消えたわよ」
むしろそれがメインとばかりに「部員を獲得しないと廃部になっちゃうから、背水の陣で結構な額を投下したわ」と散財を強調。
となると、窮乏の原因はソレか。
「けっこうって、どれくらい使ったんですか?」
後追いするように典弘が補足の質問をすると、守口に代わって会計を担っている土居が「ええと」と言いながら、保管しているレシートと照らし合わせながら指を折って返答。
「部員募集のポスターとチラシの作成、データ保存のためのSDカードの購入……だったかな。全部で2千円くらい?」
「それだけ?」
「うん。それだけ」
間違いないと首を縦に振る。
小学生のお小遣いじゃあるまいし、はした金ではないにしても、ふつう3千円をけっこう使ったとは言わない。
「だったら森小路センパイの言う通り、ほとんど使ってませんよね」
なのに何故? と首を傾げるより早く「額じゃなくて割合よ」と守口の口が開く。
「まだ4月だから、今年度のクラブ運営費は未交付なの。昨年度交付の演劇部予算は5千円だったから、財布の残りはあと2千円ね」
ドンと帳簿を開いて「ほら」と見せる。確かに会計残高は2千円ほどしかない。
マジか……
暴露した懐事情に滝井が「ええーっ!」
「2千円て、小学生の小遣い以下じゃん」
滝井の暴言に「だから部費が無いって言ったでしょ!」と逆ギレで返してきた。
「そもそもが生徒会長の権利行使で無理やり作ったクラブなんだから、運営費の予算枠なんか無いってーの!」
守口の喚きを引き継ぐように土居が「演劇部を立ち上げたのが3学期に入ってからだからね、年度予算は既に執行した後。予備費もほとんど充てられていて、演劇部に回す予算はもうなかったのさ」と詳細に説明。
「え、そうだったの?」
初耳とばかりに驚く瑞稀に、守口が呆れるように「年度末にお金が残っているほうがおかしいわ」とボヤく。
「私からしたら、そんなないない尽くしの年度末に、活動予算を5千円ももぎ取れたことを評価して欲しいわよ!」
「ヨッ、偉い!」
「滝井。ヘンな合の手を入れるな!」
バカの悪友に茶化さないようにとクギを刺すと、改めて守口に向き直り「理由は分かりました」と納得の意を示す。
「つまり、今年度の運営予算が下りるまで金欠が続くということですね」
「そういうこと」
活動資金が枯渇している理由が分かって、典弘はホッと胸をなでおろす。
「要は予算が下りるまで、大きな買い物を控えれば良いだけなんだ」
同じく胸をなでおろしたのか、瑞稀も安心したようで「よかった」と表情にゆとりが見て取れる。
が……
「ところで、その〝今年度予算〟が出るのは何時です?」
安堵する典弘たちに「詰めが甘い」とでもいうかのように、滝井が予算執行の日時を訊くと「5月末ね」と秒で守口が返答。
「あと1ヶ月も金欠生活……キツイな」
ボソッと呟くと、滝井が肩を竦める。
発声練習や基礎トレーニングにお金がかかるとは思わないが、お金が無くて活動に制約が出るのはやっぱり厳しい。
新入部員とはいえ、もはや一蓮托生。どうしたものかと考え込む典弘の肩を、土居が「大丈夫」と言ってポンと叩く。
「守口さんが内情を喋ったのだから、ただの愚痴だけで終わらないよ。頭の中には解決のための秘策があるんだろう?」
スッと割って入りとイケメンフェイスで典弘に代わって尋ねる。完全に美味しいところをかっさらわれた格好だが、欠片も嫌味が無いのだから完全なる空気……人柄の良さが見て取れる。
それはさておき。
これまた秒で、守口が大きな胸を張って「もちろんよ」と答える。
「この状況を打破する、起死回生のアイデアを用意しているわ」
ただその笑みが「ニッコリ」ではなく「ニヤリ」なのが不安を掻き立てるのであった。
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