27:レッスン1?


 新入部員が入部して、今日から本格始動の演劇部で何をするかと思ったら、体操着を着用のうえグラウンドに集合との謎指令。

 グラウンドに向かう途中で見かけた森小路センパイに訊いてみても「何も聞いていない」と、親友にまで子細を明かさず完全秘匿。

 悪の女幹部……じゃなくて守口センパイは、果たして何を企てているのだろうか?



   *  



「教えて、欲しいって。何回も訊いた、のだ、けれど……浩子ちゃんに、はぐらかされて……」


 何も知らされていないこと恥じるように、瑞稀が「ゴメン、なさい」と頭を下げて謝罪をするが、どう考えてもお門違いというか気にしすぎ。

 典弘は「いや、いや」と首を横に振る。


「森小路センパイが僕らに詫びる必要なんて、これっぽっちも無いですよ」


 むしろ同じ被害者とみるべきだろう。


「だって、黒幕は守口センパイなんでしょう?」


「でも、わたし……部長、だし」


「そりゃ、そうかも知れないけど」


 如何せん、相手があの守口浩子なのだ。

 生徒会長をする器だけあって、守口は一筋縄ではいかぬ食わせ者。しかもなまじ美人なだけに、悪の組織の女幹部にしか見えない。


「唯我独尊なんでしょう? 守口センパイは」


 誘導すると、これまた瑞稀が当人に聴かれやしまいかと心配しながらもコクンと縦に頷いた。

 すると「だろう。そこがシビれるんだよ」と、横から滝井が独特の感性で割り込む。


「相手が誰であろうと、ブレない媚びない忖度しない。己が信念を曲げないことで有名だそうだ」


「いや、ふつうは引くと思うぞ」


 上司や先輩として付き合うならばとても優秀だが、彼氏彼女の仲となると守口センパイはクセが強すぎるように思える。

 しかし滝井は果敢にも「キッチリ仕事が出来て、少しエキセントリックなところがセンパイの魅力なんだろうが!」とぞっこん。


「一般人では到底理解ができん」


 前者はともかく、後者は色々とダメだろう。

 だが滝井は「あの良さを理解できないなんて、可哀そうなヤツ」とブツブツ言いながら、こっちが残念な思考だと言いたげ。


「ふん。俗人が」


「ふつうの高校生は、みんな俗人だと思うぞ」


 バカなやり取りをしながら集合場所に赴くと、守口が「遅い!」と体操着姿よろしく準備万端整ったいで立ちで待ち構えてていた。


「時間厳守は基本中の基本。


「新入部員風情がこの私を待たすなんて、良い度胸よね!」


 腰に両の手を当ててジョジョ立ちしている姿は、まさに悪の組織の女幹部然。

 しかも口調までもが、見た目を裏切らない何かの女王様なうえ、セリフも見事なまでのテンプレート。

 滝井が特殊な性癖丸出しで「カッコイイ」とか呟いているのがウザいので戦略的放置するが、典弘の見立てに間違いはないようで隣にいる瑞稀までもが「浩子ちゃん。悪役過ぎる」と主張するほど。


 言われた当人も自覚があるのか「良いのよ。これから皆んなに地獄を見てもらうから」と涼しい顔。


「地獄を見るって、何をさせるつもりですか?」


 つい口に出した典弘らに向かって守口が「よくぞ訊いてくれたわ」とニタリと笑うが、その顔つきが益々悪役然なのは言うまでもない。


「今日から演劇部が本格的に活動を始めるよね?」


 耳に手を当てて守口が尋ねてきたので、ほかの部員共々典弘も「はい」と返事をすると守口が大仰に「よろしい」と頷く。


「それじゃ質問。部活動を始めるにあたって、基本となるものは何だと思う?」


「えっと……」


 抽象的過ぎる質問に典弘たち新入部員が言い淀んでいると、守口が「昔の人が言ったでしょう」と人差し指をピンと立てた。


「何ごとにも身体が資本、つまりは体力があってこそ。当然、演劇についてもまた然り。そこまでは分かるわね?」


 短い証明の繰り返しだが、概ね言わんとすることは理解できる。

 反論がないことに気を良くしたのか、守口が「だから、ね」と今日の本題をぶちまける。


「新入部員のみんなには体力作りをしてもらいたいから、先ずはグラウンドをランニングしてもらうわ」


「は?」


 突然のランニング発言。

 およそ演劇部らしくない内容に「どういうことだ?」と皆が戸惑う中、ただひとり滝井だけが「タイムよりは持久力が主眼なんだろうな」とひとり呟いていた。


 オマエ、走る気満々かい!

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