25:続、続。暗躍する生徒会長(笑)

 守口センパイの活躍があって、晴れて部の存続が認められた我らが演劇部。

 そこまで骨を折って部活動を続ける真の目的とは?



  *




「どうしようもない連中が殆どだけど、入部届を受理したから必要案件は整った。おかげさまで、クラブの存続案件はクリア出来たわよ」


 いささか強引だったと認めつつも、守口が演劇部の存続が認められたと宣言。

 実感が沸かずに「ホント?」訝ると「ウソを言ってどうするの」と鼻で哂われる。


「ホレ、証拠」


 見せてもらった部活動の一覧表には〝クリア〟の文字が燦然と輝いていた。


「それじゃあ、またお芝居ができるんだ」


 吉報を聞いて小さくガッツポーズを決めると、骨を折ってくれた親友が「体裁だけはね」と苦笑い。


「肝心の役者は大根と素人ばかりの〝張りぼて〟クラブだけどね」


「それでも良いの」


 守口の注釈にめげることなく、きっぱりと首を振る。

 そんなことはどうでも良いのだ。

 事故で大ケガをして、懸命のリハビリをしたが脚に後遺症が残った。

 幸い装具を付ければ歩くことはできるが、激しい運動や素早い動きはとてもムリ。

 それでも悲観しなかったのは、親友と言って憚らない守口と土居が陰に日なたに付き添っていてくれたから。苦しいリハビリの度に「もう一度お芝居を一緒にしようよ」と言ってくれたから。

 遅まきながら、それが今クラブ活動とはいえ形になったのだ。


 あとは……「それは、そうと」前向きな気分を粉砕するように、守口が絶妙なタイミングで水を差す。


「瑞稀。アンタ、コミュ障寸前の人見知りは治せるの?」


 尋ねられた途端「うっ!」と呻いて瑞稀は固まる。


「言っておくけど、演劇部なんだから芝居は舞台でするのよ。つまり、みんなから見られるけどそれに耐えられるの?」


 追い打ちをかけるように再度守口が確認に訊いてくる。

 まあ無理もない。

 瑞稀の人見知りは筋金入り。

 元々人見知りな性格を矯正しようと両親が瑞稀を劇団に入れ、その目論見は上手くいきそうだったところをケガでリタイヤ。

 事故のショックと長期入院などが重なり、おかげ様で今や両親を除けば瑞稀がまともに会話ができるのは、付き合いの古い守口と土居だけにまで拗らせてしまったのである。

 それは今現在も絶賛継続中で、それなりに顔を合わすクラスメイトとの会話でも、彼らが通訳ヨロシク間に入らないとまともに出来ないという体たらくぶり。良くこれで学園生活を送れるなというくらい、ガチでコミュ障一歩手前なのだ。


「その……鋭意、努力する」


 決死の覚悟で返事をすると、守口がぷぷぷと笑い「いきなり、ムリしなくても良いわよ」と瑞稀の肩を抱く。


「これもリハビリの一環。アンタ、本の朗読だったらふつうに喋れるんだし、だったら芝居からコミュ障を直していけるかも知れないでしょう?」


 サムズアップする守口の親指を見て瑞稀はハッとなる。

 あのケガ以来、すっかり消極的となった瑞稀がとある理由から「もう一度、芝居をしたい」と手を挙げたのは、高校2年の3学期も押し迫ったころ。 

 ふつうなら「何、考えているのよ。このバカチンが!」で瞬殺されて終わっていただろうにもかかわらず、守口と土居が生徒会で忙しい時間を縫ってまで演劇部を立ち上げてくれたのである。

 それだけでも大感謝なのに、まさか裏の真意に『瑞稀の人見知り対策』があったとは。

 先々まで考えた深謀遠慮ぶりに驚く瑞稀に「そこは深く考えなくて良いから」と守口が付け加える。


「それも「理由のひとつ」ってだけなんだから」


 そっぽを向いて瑞稀に答える守口を、土居が「彼女は素直じゃないね」とからかう。


「どうやったら森小路さんが緊張せずに他の人と会話が出来るのか? 守口さんは生徒会の合間とかにも、専門書を読みふけって調べていたんだよ」


「浩子ちゃんが?」


「だから演劇部の立ち上げも、二つ返事で請け負ったんだ」


 土居が裏事情を暴露すると、守口が顔を真っ赤にしながら「このバカ土居! くだらないことを言うんじゃないわよ!」とチクリ野郎を詰る。


「守口さんがデレた」


「うっさい!」


 親友のツンデレぶりに「ホントに素直じゃないんだな」と感謝しつつ静観していた瑞稀に、親友は自爆を回避したいのか「そういえば、瑞稀はさあ」と強引に話題を切り替える。


「大半はオタクっぽかったからアレなんだけど、今日入部してきた新入生の中で気になるような子っていた?」


「お芝居ができそうな子ってこと?」


 やってみないと分からないけれど、商業演劇じゃないんだから上手下手など二の次。一緒に楽しくやっていけたらと考えっていたら「いやいや、そんなことは訊いちゃいないから」と下世話な囁き。


「アイツらみんな瑞稀狙いだからね。逆にアンタの眼鏡に適う輩はいないのかな? と。やっぱり、気になるでしょう」


 勝手に盛り上がる守口が殊の外ウザい。


「芸能リポーターみたいなこと、言わないで!」


 興味津々とばかりに目じりを下げてニタリと笑う守口の口元を、黙れとばかりに瑞稀が掌で塞ごうとするが、身長差かあるいは俊敏差の違いからかあっさりと逃げられる。


「殆どハズレだけど、お買い得になりそうなヤツも混じっていたからね」


 意味深なことを呟くが、誰? と訊き返す気には今はなれなかった。

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