24:続、暗躍する生徒会長(笑)

 守口センパイにとって新入部員の立ち位置は〝演劇部存続〟のための必要悪というか捨て駒。

 森小路センパイ推しの僕は良いが、滝井が知ったらきっと泣くぞ。

 ああ、でも僕もアイツらと十把一絡げてのは、ちょっと……いや、かなり気分が宜しくない。

 是非とも認識を改善してもらわないと。

 してくれるかな? 



  *



「あのボロボロなガイダンスで、よくもまあ新入部員が12人も入部したものね。瑞稀のへっぽこな勧誘としたら大成果じゃない?」


 文面を精査すれば称賛なのだろうが、言葉の尾ひれや背びれには言うに及ばず、胸びれまでもに毒がありトゲがある。


「あんまり褒められた気がしないんだけど……」


 懐疑的な瑞稀に「いや、いや」と土居が掌を揺らす。


「そんなことないよ。森小路さんが頑張った結果なんだから」


 勧誘の戦果を褒めるが、お目付け役を辞任する守口は「採点を緩くして甘やかしちゃダメよ」と渋い顔を継続中。


「集まったには集まったけれど、中身というか質がねぇ……期待をしていなかったとはいえ、見事なまでに酷い輩ばっかりがやって来たというモンだわ」


 ノルマ2人に対して12人もの入部があったのは望外の喜びだが、やはりというか当然というか全員が全員とも演技経験はゼロ。集まったのは全員が全員、まったくのド素人連中だったのである。

 しかも応募者の大半が言葉は悪いが容姿と性格に難があるうえ、〝脚の悪い瑞稀ならオレでも墜とせるのじゃないか?〟 などと考えるような頭の痛い面々。守口でなくても「ダメだ、こりゃ」と言いたくなる。

 そんな〝数はともかく中身はアレだ〟との減点ポイントの指摘に瑞稀は「ヒドイ」とブーたれた。


「入部者に質は求めないって言ったのは浩子ちゃんじゃない」


「言ったわよ。ええ、確かに言いましたとも。でもね、モノには限度というものがあるでしょう!」


 瑞稀のクレームに守口が逆ギレ。ギャーギャー言い合いになりそうなところを「まあ、まあ」と絶妙なタイミングで土居が仲裁に割って入る。


「部の存続に必要な頭数確保が勧誘の目的だったし、そもそもからして三条学園は進学校なんだから。ボクらみたいな演劇経験者がいること自体が珍しいと思うよ」


 自ら大根役者だと卑下しながらも、そこは演劇経験者。

 まったく芝居のできないド素人ではないと土居が自負しつつ、三条高校の環境ならそれも止む無しと理解を示す。


「理由はどうであれ、目的をもって演劇部に入部したんだ。ちゃんと練習すれば、文化祭までにはお芝居ができるように……」


 なると思う。と、土居が言うよりも早く、守口が「ムリね」と瑞稀の希望的観測をバッサリと斬り捨てる。

 どうやら守口にとって新入部員は、演劇部存続のための必要悪でしかないようだ。


「誰も彼も芝居をしたいなんて考えが欠片もなく、あわよくば瑞稀とお近づきになりたいなんて邪な考えで凝り固まった連中ばかり。ある程度は予想の範疇だったけど、中身が予想以上に酷かったね。ネクラや二次ヲタみたいな輩だわ、起きたままアホみたいな夢を見る上に、考えが甘くてお頭がお花畑ときている!」


 せっかく集まってくれた新入部員を、言いたい放題に酷評するわするわ。しかもスイッチが入ってしまったのか、止まることをゼンゼン知らない。


「浩子ちゃん、ストップ!」


 よほどフラストレーションが溜まっていたのか、瑞稀の制止など守口の罵詈雑言の前には路傍の石以下。 


「森小路さん、美人だからね。多少だけど、男としてその気持ちは分かるよ」


 新入部員たちをクソボロに貶す守口を、土居が「まあ、まあ」と宥めつつ彼らの動機も理解できると擁護すると、またまた逆鱗に触れたよう。


「甘い! 甘すぎる! 片腹痛いほどの稚拙な考えよね。ホント、大江戸亭の三段あんみつより甘いわ!」


 良く分からない比喩をまくし立てながら否定する。


「そもそも私の嫁は、そんな不純な動機にな輩にくれてやんないわよ」


「いつ、わたしが浩子ちゃんの嫁になったの!」


 意味が分からないと守口に抗議をしたが、糠に釘で「嫁が拗ねてる!」と相変わらずの調子。


「森小路さんは気立ての良い美人だから、モテるって意訳だよ」


 戯言を往なすように土居が注釈をつけると、当の守口が「表現がつまらん!」と暴走しながら唇を尖らせる。


「瑞稀が可愛いのは当たり前よ。それ目当てに新入部員がホイホイ釣れるのも織り込み済みだし、まずは部活動が承認されるだけの頭数が確保できればそれで良し。では、あるのだけど……」


 何かが物足りないと不満顔を晒す親友に「そんなことはない」と、感謝の念を言葉に示す。


「出来たばかりのクラブで実績も知名度もないんだから、しかたがないよ」


 初心者でも12人も来てくれたことを望外だと言おうとすると、何故か守口から「てい!」と一蹴されてデコピンをかまされる。


「痛い」


「戯れ言をよく吐くわ。かつて一世を風靡した、御陵瑞稀のいるクラブよ。実績だって知名度だって、どれを取っても申し分ない。当人が見掛け倒しなポンコツであることを除けば、例え出来たばかりのクラブであろうと何ら卑下するところはない」


「浩子ちゃん。やっぱり私をディスってない」


 散々な物言いにむくれる瑞稀をディスった守口が「まあまあ」と宥める。


「そんなにむくれなさんな。これでも一応、褒めているんだから」


 とてもそうは思えないのだが、舌戦で守口に勝てる気がしないので「むう」と拗ねるだけに留める。


「それに散々貶したけど、連中には感謝してるのよ。おかげで入部届は受理したから、クラブの存続案件はクリア出来たんだし」


 生徒会長自身が不正はできないということで、正式な手順を踏んだ部活動の活動申請。それが無事に通って、晴れて正規の部活動として認められたというのだ。

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