13:初顔合わせ その2
「とにかく時間になったし、早速部活を始めようか」
守口センパイの号令の下、僕たち新入部員を迎えての演劇部最初の部活が始まった。
それにしても、これぞカリスマと言うべきだろうか。
生徒会長だけあって声も通るし指示も的確。僕や滝井を含めた新入部員連中全員が何の疑問も抱かず、素直に守口センパイの号令に従っていた。
だけど、いやいや。ちょっと待て……
確か演劇部の部長って、森小路センパイだったよな?
森小路センパイの影が薄くないか? ヒロインだよね、確か……
*
「今日は部活一回目だし。とりあえず、自己紹介から始めたいと思うのだけど、良いかな?」
開口一番。
部長である瑞稀を差し置いて守口がその場を仕切るが、当人は言うに及ばず此処にいる誰も異議を唱えないのだから、生徒会長の看板は伊達ではなく大したものだ。
しかも「先ずは私からよね」と自分を一番手に据える厚顔さ。ふてぶてしさが服を着て歩いているといっても過言ではないだろう。
「ヒラ部員その1の守口浩子です。演劇部の傍ら副業で生徒会長をやっているんで、見知った人も多いんじゃないかしら。1年間……正確には文化祭までだから半年強だけど、みんなと一緒に部活を楽しみたいと思うのでヨロシク頼むわね」
「ふつうは副業が、クラブ活動の方じゃないんですか?」
守口のトンデモ発言に滝井が「ハイ、ハーイ!」と挙手をして訊き返したが、このぶっ飛んでいる女史殿は彼奴の質問を聞くや否や「細かいことは気にしない」と、生徒会軽視ともとれるセリフを臆面もなく言い放つ。
「生徒会って片手間なんですか?」
他の新入部員から飛ぶヤジにも、守口が「当然でしょう!」と年長者の余裕をかます。
「アレくらいの仕事をクラブ活動と両立しないでどうするの? 片手間で出来ないようなら、大人になって社会に出た時に苦労するわよ」
それどころか即答で〝アレくらい〟と言ってのける。
典弘を含めた全員が「マジか……」と慄くなか、ただひとり滝井だけが余裕の表情。
「ですよねー」
アッサリと同意したのである。
おいおい、両立はともかく片手間は極端だろう。
「ソレ、本気で言っているのか?」
制服の裾を引っ張り「誇張はヤメロ」の窘めるが、滝井の姿勢にブレが一切ない。
「この程度で「アップアップ」していたら、遊ぶ時間が取れなくなっちゃうだろうが!」
「課題や授業の復習、試験勉強とかは?」
進学校なんだから〝付いていくために努力する時間〟が必要だろうと説いても、したり顔で「授業ちゃんと聞いていたら、復習なんか要らんだろう。課題だって1時間もあれば余裕だし」と言い放つ。
ムチャ言うなとばかりに「いや、ふつうはできないだろう」と言い返す典弘に被すように「それくらいできて当然よね」と守口が言い放つ。
「キミはなかなか見どころがあるね」
自信満々な滝井を守口が褒めると、何故か立ち上がり「ハイ。一年A組、滝井修二。出席番号は18番です!」と勝手に自己紹介までする始末。
どこまでバカなんだと思うが、これには守口が大ウケ。プッと吹きだして「アハハ」と豪快に笑ってみせる。
「見どころがある上に度胸もあるわね、私は結構好きなタイプだよ」
「お褒めに預かり光栄です」
胸に手を当て芝居がかった口調で一礼する。
バカだ。バカがここにいる。
煽った守口も「演劇部的にはOKだけど、外でやったらドン引きするかも知れないから注意しなさい」と警告するほど。
それでもお目当ての女性の印象に残ったのだから、掴みとしては申し分ないだろう。
「少々脱線したけど、私の右横にいるのが同じく3年の土居優クン」
守口の紹介に土居が手を挙げて応える。気怠くのっそりとした動きだが、イケメンは何をしても絵になる。
ただし、観客が男ばかりなので何の意味もないのだが。
「彼も私と同じく、生徒会の副会長も兼任しているわ。女子生徒にウケが良いヤツだから、ヘンに反発して敵に回さないことをお勧めするわよ。言うまでもないと思うけど、彼もヒラの部員ね」
立て板に水のごとく澱みなく紹介すると、紹介された土居から「どうでも良い情報まで混じっているんだけど」とクレームが入る。
「というか。あることないこと拡散した、誹謗中傷じゃないの?」
さらに抗議しようとするが、守口相手には糠に釘。
「えーっ、事実じゃない」
後はもうグダグダな不毛な争い。
新入部員を差し置いて生産性の欠片もない応酬が数分間続き、ムダに体力を消費してお互いゼーゼー荒い息をする始末。
その結果。
「で、左隣にいるのが部長を務める森小路瑞稀で、私らと同じく三年生。以上」
部長である瑞稀の紹介は、このひと言のみで終了。
ヒロインの扱い、雑過ぎやしないか?
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