第13話 何の為に……


 それから何度も何度も時間をずらして配信をしたのに、いつも他の人気配信者が配信していて視聴者が増えなかった。頑張って夜中に行ったりしても同じ結果だった。難しければ難しいほど燃えるな。俺は負けねぇぜ。俄然やる気が出るってもんだ。



 しかしどうすっかな……。そろそろ配信を始めて1ヶ月になるというのに、視聴者は増えないでいる。あの助けたカップルダンジョン配信者も登録者は少なかったから、微々たるもんだ。



 とにかく続けるしかねぇのか? こんなことはよくあることなのか……分からん。



 俺は夕食を食べ終わったあと、酒を飲みながら考える。時間をずらす以外にできること……人気なヤツらは雑談配信やら色々やってるみてぇだけど。


 俺がそんなことしたって、需要がねぇだろう。

 あーーーー分からん!!




 ♪〜♪〜


「お? 長官?」


 初めて電話が来た。町田さんが契約書を持って来てくれたし、あれから長官とは会ってもいねぇけど……なんかあったのか?


「お疲れっす」


『夜にすまない。今君のことで騒動が起きているんだ』


「騒動?」


『君がダンジョン配信で人気になることを阻止しているようだ。君の過去が晒されている……本当に申し訳ない。我々UNLCOのメンバーが独断でやったことだが、未然に防ぐことができなかった私の責任だよ』


「過去って……何のっすか?」



『学生時代に暴力を振るって病院送りにしたこと、あとは……学生時代の写真が流出している』


「まじか……つまり……炎上してる?」


『そういうことだ』


「へぇ……ふっふっふっふっ。よしよし。あーなるほど。いいな。いいぞ! そのお陰で有名になれるなら、最高じゃないっすか!」


『はは、君は本当に……ポジティブだな。君の過去を調べさせてもらったが、暴力沙汰になったのは1回だけ。あとは犯罪も何も犯していないんだろう?』


「流石っすね……そうっすよ。でも暴力を振るったことに違いはねぇっすから」


『今対応に追われているところだが、君がメンバーであることを悟られないようにするよ』


「あざす……明日配信するんすけど、いいっすよね?」


『いいが……炎上の内容について話すのは少し待っていて欲しい』


「うす!」


『町田に明日連絡させるよ。本当に申し訳ない』





 俺は電話を切った。一体誰がそんなことやってんだ?

 何の為に……あーもう、俺に分かるわけねえよな。考えんのはやめる。これは転機だ。いいチャンスが巡ってきたァァああ!!!!



 ♪〜♪〜


 ってまた電話か……んぁ、伊織?!


「も、もしもし?!」


『堂真さん!! 大丈夫ですか……?』


「炎上のことか?」


『はい。通話中ってなってて……誰かと電話を?』


「あー長官と電話してた。対応してくれてるみてぇだわ。炎上してくれたお陰で有名になれるかもな!」


『確かにそうですけど……無理しないでくださいね。あと……その……もしかしたら私原因知ってるかもしれません。また近いうちに会えますか……?』


「ああいいぜ。ありがとな。明日さっそく配信しようと思う」


『ええ?! 凄いですね……配信見ます! 応援してます』


「おうよ! じゃあまたな。行ける日とか連絡待ってるわ」




 ピッと通話終了ボタンを押し──俺は決めた。



「ハーク……俺明日S級ダンジョン行くわ」


「おお! やっと決心したか」


「有名になって一発目でカマしてやらぁ。燃えてきたぜ」




 ハークは豪快に笑い声を上げた。喜んでいるみてぇだし、やってやるぜ。

 見てろよ、視聴者!!!!


 度肝抜かしてやる。俺ならやれる。ハークに貰ったこの力があれば!




 何か大事なことを忘れてる気がするけど……まあいいか。また思い出すだろ。



 そして次の日。ハークに飛ばしてもらった俺は、海の近くに来た。洞窟のようなダンジョンの目の前で、スマホのカメラを向けられる。



「よぉ、お前ら! 堂真だぜ。昨日のあの配信を見てから来たやつもいると思う。とにかく今後もダンジョン攻略やってくから見てくれよな! 今日は思い切ってS級ダンジョンにやって来たぜ!!」


「おお、コメントが増えてるぞォ〜」


「読んでくれ!」


「調子乗んな、キモイ、なんだよブスじゃん、こいつの学生時代の写真見たけどまじのヤンキーだった……とか色々だな」


「ほぉ〜! 炎上ってこんな感じなのか……って写真みたのかよぉぉ。黒歴史見られちまった……てかどうやって見つけたんだよ!! やべえな!!」



 きっと高校時代の写真だと思う。あん時はヤンチャな見た目だったな。金髪にして、派手なヤツらとつるんでた。特になにかする訳では無かったが、オールでカラオケや漫画喫茶に入り浸っていた。


 とにかく家に帰りたくなかったんだ。反抗したいが悪いことはしたくなくて、中途半端だったかもな。


 兄に嫌がらせを受けたこともあった。

 思い出すだけで腸が煮えくり返るようだ。



「アホすぎ、何こいつ、脳筋くん、目つき悪すぎ、はよ入れや……あ〜さっさと行け……だとよォ〜」


「あーもうわかったって! 急かすなよ〜入ればいいんだろ。じゃあ早速行くぜ!」



 おしゃべりタイムはいらねぇよな。さあ、気を引き締めるんだ。俺ならやれる。大丈夫だ。今回も念の為ブザーをポケットに入れた。これは防水らしいから問題ないだろう。使うことはないだろうが。



 初めてのS級。ワクワクと緊張感で口角が上がる。


 俺は大きな一歩を踏み出し、中へと入った。



『応援隊:堂真……死ぬなよおおおお』


『いおり:堂真さん! 電話出てください!! 行っちゃダメ!!!!』


『ひーくん:S級ダンジョンはS級能力者とはいえ、1人で行くもんじゃない!! ほんとにヤバい!!!!』


『堂真くんちゅき:炎上したからって死にに行くなよぉぉ!! 撮影者止めろよ!!!!』


「ふん。うるさいぞ」


「あ? なんだ?」


「何でもない。さっさと行かんかァ!」


「お前が喋ったからだろぉ〜」


『マントヒヒーん:なんかやばくね』


『あかさたな:自殺配信?』


『うんうん:これが最後の配信になる……ってか?』


『Kira:同接増えてる!』


『みじんこ:ワクワク』


『無限号:おまいら人間かよぉ! 人の気持ちはないんか!』


『sorusoru:そこに愛はあるんk((』


 ハークが付いてるし、そろそろ俺もレベルアップさせねえと。自分がどこまでやれるのかも知りたい。こいつのお陰で俺はS級になれたんだし、2人で行くようなもんだろ。上級悪魔がついてるってのは俺だけだし? なんか唯一の存在ってカッケェな。



 攻略されないダンジョンからは魔物が溢れ出して来るらしいから、少ないS級能力者で高難易度のダンジョンを攻略していかないといけねえ。だからここを攻略することは、社会で認められるためには重要なことだ。誰も俺を無下にできねぇってことだ!!


 あわよくばヒーローに……。





「このダンジョンは……ぜってぇ水系のモンスターだな。ぴちゃぴちゃ水が垂れてきてんぞ……」


「そうだなァ。S級ってことは……くっくっ……楽しくなりそうだ」


「俺の身にもなれったくよぉ……マジで死にそうになったら助けろよ」


「そうならんように頑張るんだな。俺様の手を煩わせるなァ!」


「あーそうですか。俺が死んだら冷蔵庫のもん全部食べていいぞ。悪魔界にも帰れて万々歳だなぁ〜っ!」



 ブツブツと文句を言いながら奥へ進むと、現れたのは二足歩行の蛙だった。






 ✦︎✧︎✧✦


 ここまで読んでいただきありがとうございます!!

 15話で1章終わりの予定です。



 皆様お気づきかと思いますが、堂真くんはS級ダンジョンを1人で行ってはいけないことを忘れています。

 その理由は後ほど分かりますので、お待ちいただければと思います。



 あと、一人称視点やのにコメントが所々入っていくと思います。すみません!

 堂真くんは見ていませんが、楽しめると思います。ではまた!!

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