第12話 ミノタウロスとの戦い


 よぉ皆。いつもありがとな。あとから見た配信のコメントもここに入れてやるよ。じゃあ行くぜ!!!!



 ✦︎✧︎✧✦





 俺はゆっくりと立ち上がり、服に着いたホコリを払う。



「よっしゃー今度は俺の番な!!」


 タンタンと軽い足取りで素早く移動し、ミノタウロスの顔面を打つ。


 ドガァァァァアア!!!!


「やったか?」


 パラパラと乗っかった瓦礫が落ち、ゆっくりと動き出す。くそ、A級はそう簡単にやられねぇってか。



『応援隊:ミノタウロス痛そう』


『ひーくん:まだ倒せてない』


『堂真くんちゅき:堂真くん頑張れー!!』



 動画も取られていることだし、このまま殴って終わりにしちゃいけねぇ。最近学んだことだ。だから敢えて攻撃させるってわけだ!!


 ミノタウロスの動きを見ていると、ゆっくり歩みを進めて、すぅう〜っと息を吸った。


 なんだよ。叫ぶだけかよ。つまんねぇの。


「グォォォォオオオオ!!!!」



 ドォォオオン!!


「かはっ」


『堂真くんちゅき:大丈夫かよ?!』


『応援隊:戦い方知らんのか……死ぬなよー!』




 ……って、また衝撃波かよ?!?!

 しかし斧の時より威力があって、思い切り俺は背中を打ち付けた。息が一瞬止まっちまったぞ。これぞハラハラする戦い……か。全身がビリビリと興奮で痺れるのがわかる。毛という全ての毛が逆立っているみてぇだ。


『ひーくん:倒せるよな?! ヒヤヒヤするんだが』



 ドドドドと地響きを立てながら、突進してきたそのまま真正面に立ち────


「おらぁぁぁぁああああ!!!!」



 メリメリッとミノタウロスの顔面に拳がめり込む。



 ドゴォォォォオオオオ!!!!




「っしゃ俺の勝ちぃぃぃぃいいいい!!!!」



 倒れたミノタウロスから、ピンク色の光が漏れている。おいおい可愛い色しやがって。


「さぁオメェらお楽しみの時間だ!!」


『堂真くんちゅき:待ってました!』


 ズボォ! っと勢いよく突き破って魔石を掴み出す。


「可愛いピンク色の魔石いただきぃぃいい!!」


『ひーくん:モザイクwwww』


『堂真くんちゅき:眩しい笑顔助かる』


 と決めゼリフを言ってすぐ、腰に着けていた魔道具が震える。

 これは契約先から貰ったアイテムで、ダンジョンで助けを求められた時近くにいる派遣の能力者に知らせが来るって訳だ。


 ちゃんと階級に合わせて色分けされていて、S級は赤。卵型のコレに付いているボタンを押すとその場所へ飛ぶってやつだ。いつもハークが飛ばしてくれるが……これを試してみたい。



 一緒に連れていきたいヤツがいれば、そいつに触れたままボタンを押す必要がある。ハークの元へ駆け寄り、転移する。


 視界が歪み、降り立ったのはダンジョンの中。

 やっぱ転移は同じ感じか。

 って……いきなりボス部屋に来たぞ。はっはっはっは、ヒーロー登場だぁ!!



「助けに来たぜ!!」



 かっこいい登場が出来た。カップルで配信をしているようだった。リア充め……クソ恨めしいが、助けねぇとな。


 ボスを見ると────



 ドラゴンかよ?!?!


 おいおい、まだ俺の配信で見たこともねぇ強キャラじゃねえか。



 何だか両手が翼になっていて、変なドラゴンだな。

 イメージと違う……なんかガッカリだわ。申し訳ねぇけど。とまあドラゴンならコイツも中々強いだろうな。


『応援隊:ワイバーンじゃん』


 ずっと飛んでて疲れねぇのかよ。



 するとドラゴンは俺が来て早々にすんげぇビームを口から吐き出し────


 って俺じゃなくて、2人に向けて!!!!


 俺は咄嗟に2人の前に立ち、顔の前で腕をクロスして受け止めた。


 ゴォォォォォ



「やっべぇ痛え!!!!」


『堂真くんちゅき:痛いは草wwバケモンかよ』


『ひーくん:まじでなんなん?!』


『応援隊:信じられん』


「受け止めた……?!」


 後ろで驚いている声がする。そんなに驚くことなのか?


 シュゥゥーッと焼けこげた布から煙が出ている。腕の部分に大きな穴が空いてしまった。そんなに高いジャージじゃねぇから、まあいい。



 ヒリヒリするし腕が赤くなったが、大丈夫だ。皮膚がただれているような気がするけど……内心死ぬかもってクソほど怖かった。助ける側がそんなんでどうするって感じだよな……。


『ひーくん:腕何で出来てんの?!』


『応援隊:わからん。まじでわからん』


『堂真くんちゅき:やっぱ堂真くんかっけぇわ』



 俺は持ち前のジャンプ力で高く飛び、ワイバーンの目の前へ!!!!



「このやろぉぉぉぉおおおおおお!!」



 ドゴォ!!


『ひーくん:この野郎wwww』



 硬ぇ! けど、そのまま天井へぶっ飛んでぶつかった。そのままドラゴンは床へ落ちて倒れる。よし、終わった。呆気なかったな。



『堂真くんちゅき:逃げろーっ』



 バラバラと上から瓦礫が落ち始める。



「やべぇ、崩れるぞ!!」




 魔石を取らずにここを出るのは悔しかったが、仕方がない。


 降り立った俺は、カップル2人を担いでテレポートへ走る。そういえばハークは? 気にしてなかった。ちゃんといるよな? 今はすまんが探している暇はねぇ。無事でいてくれ。




 テレポートを抜け、外へ抜けることが出来た。担いでいた2人を下ろす。緊張状態から解放され、大きく息を吐いた。震えているのを二人からバレないように、手首から下をブルブルさせる。


「はぁぁ〜! 危なかった……」



「ありがとうございました!! 死ぬかと思いました……貴方が来てくれなかったら本当に死んでましたよ」




 カップルの女性の方は震えて呆然としている。無理もねぇな。男の方はお礼を言う余裕があるみてぇだ。逞しいな。いい彼氏、持ってんじゃねぇか。




「あの……配信に映しちゃったんですけど」


「え、まじ?! 俺も配信始めてさ! リンク貼っといてくれよ!」


「も、もちろんです! チャンネル名は……」


「『拳で戦う堂真のダンジョン配信』ってやつ」



 わざわざ目の前で検索してくれて、快く受け入れてくれた。なんて優しいやつなんだ……! 涙ほろり。


 その後あっさり俺は別れを告げた。2人に背を向け手を挙げる。決まった。


 あれから初めての救護で心が浮き足立った。

 人助けって良いもんだな。気持ちがいい。



 ダンジョンは街中にあったため、人混みに紛れて歩き出す。嬉しさのあまり大股で豪快になってしまう。ただでさえ怖がられる俺の横を、避けて通行人が通っていく。おっと、すまねぇ。


 それに気づいた俺は豪快な歩き方をやめた。


 ハークはどこだ?



「おい」


「おわぁぁぁぁああ!!!!」



 耳元で誰かが喋ったぁぁああ……あ?


 なんだよ、ハークかよ。脅かしやがって。周りにすんげえ目で見られてんだけど。どうせ俺しか見えてねぇんだろ。恥ずかしいじゃねぇか。注目は集めたいが、こんなのは求めてねぇぞ。


「ビックリしすぎだ。まさか俺様のことを忘れていたのかァ?!」


 ハークは横で歩いている。いつの間にか人間のように翼などが無くなっていて、周りにも見えているみたいだ。なんだよ。そんなことも出来るのかよ。いつの間にか配信を切っていて、スマホを俺に渡してきた。


「ありがとな。お前人間の姿にもなれんのかよ」


「ああそうだ。そういえば腕は大丈夫なのか?」


「あー腕……そうだ俺の腕!! やべえ痛え!! めちゃくちゃ痛えぞ!!!!」


「焼けてただれてるな」


「うぉぉグロい……これどうにかしてくれやぁぁ」


 えぐれている訳では無いが、皮膚が模様を描いている。グチュグチュだ。袖で上手く隠れてたのか。どうりで二人が何も言わなかったわけか。


 焼けて消え去った布の部分は一部だけだった。


 俺達は人気ひとけの少ない近くの公園へ行き、ベンチへ座った。


 ハークが傷に手をかざすと、ボコボコと皮膚が動き始めた。おいおいおいおい! 大丈夫かこれ?!


「おぉおおちょっとおい!!!! 俺の腕がぁぁぁぁああ! ……あ?! 治った……」


「闇魔法だからな」


「闇魔法……キモすぎだろ……」


「治してやったのになんだその言い草は」


「いやいやすまん!! まじでありがとう!! ありがとうございます!!!!」


「ふん。それでいい……お前はなぜそこまでして助けた? 死ぬかもしれないと思わなかったのかァ?」


「ああ、思ったけどよ……それより助けたいって思った。それだけだ」


「ふん。よく分からん。力のお陰で身体も丈夫だろうが、相手はワイバーンだぞ。怪我をすることくらいわかるだろ。モンスターが強ければ強いほど……どうなるか分からんのだぞォ?」




 わかってる。わかってるけど……俺は自分の命を引き換えに、他人を見捨てることが出来るだろうか。


 後悔せずにいられるだろうか。




 きっと無理な話だ。俺はどんな時だって、考えるより先に身体が動いちまうんだから。


 それこそヒーローってもんだろ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る