第8話 会いたくねぇのに

 ハークはずっと付いてきてくれていたようで、家に着くや否や狼に変身した。……あいつが来るまで数時間はあるな。


「残念だったな」


「何がだ?」


「恋愛対象じゃないと言われただろう?」


「あー。まあ俺は女性と話すだけで好きになっちまうくらいだからな」


女は笑ってくれるだけで可愛い。俺は愛嬌が全てだと思う。どんなに美人でも、笑わねぇやつは苦手だ。ブスとか関係なく、楽しそうな女性が魅力的に見えるってもんだ。


チョロい男なんて山ほどいるだろ。俺だけじゃないはずだ。



「貴様……中々気持ち悪いなァ……」


「やめろ、傷つくだろ……あ、そうだ。なんか食わねぇ? うどんとかどうだ?」


「ほう。人間の食べ物……面白い」




 俺はサッとうどんを湯がき、付いていたタレをかける。ハーク用にも盛り付けると、バクバクと食べ始めた。食べやすいように切ってやったから美味しそうで嬉しい。俺は料理がそんなに得意じゃねえから、褒められたもんじゃねぇだろうが。


恋人ができたら作られる側になりたいもんだ。



「なんだこれは! うまいぞォ!」


「だろ? 日本にしかねぇんだぜ」


ハークにはもっと人間や、この国のことを知って欲しい。俺にとって当たり前のことをいちいちリアクションしてくれる。そんな姿を見るのが楽しくて、もっと色々してやりたいと思う。これが母性ってやつか……?



 俺達は他のダンジョン配信者の動画を見て、時間を潰した。


 そんなこんなでもう時間が来たようだ。



 ピンポーン


「はぁ……遂に来やがった」


「どんな人間か楽しみだ。貴様が会いたくない程だということは……ゲス野郎なのだろう」


「ハークはそういうやつの方が好きか?」


「そんな訳あるか! 俺様は隠れて見ているぞォ」





 俺は重い腰を持ち上げ、玄関を開けた。



「久しぶりだね」



 そこにはお土産のような物を持った累が居た。俺と全く似ていない爽やかな青年。見た目と体裁がいいから、それを武器にいろんな奴をたぶらかしてたクソみてぇなヤツ。


 久々に会ったが、ほとんど変わらねぇんだな。ふわふわのウェーブがかったミルクティー色のマッシュヘアに色素の薄い目。儚いなんて言われてたっけか。腹が立つぜ。俺はこいつの顔を見るだけで吐き気がする。累のことを心底嫌うのは世界で俺だけだろう。本性を知るのも。





「入れてくれるかな?」


「ほらよ」


「歓迎感謝するよ。おじゃましまーす」



 誰が歓迎するかっての……。既に帰って欲しいってのに。


 通すと累はスタスタと中へ入っていき、リビングに座った。いつも通り図々しいやつだ。




「お茶でいいだろ」


「うん、ありがとう」


 俺はお茶を入れ、コトッと机の上に置いた。乱雑に置くのは物が可哀想だ。



「これ。食べない?」


 持ってきたであろうお土産は、俺の好きないちご大福だった。クソ、美味しそうだ。こいつを招き入れたのはこれの為だったか。気づけば「食べる」とほざいていた。俺は食い物に目がない。『背に腹が変えられない』とはこのことか……?


違うか。俺は何を考えてんだ。ついくだらないことを。





 皿を持っていくと、いちご大福が乗せられる。うわぁ……美味そう。


 いただきます。


 1口ほお張ると、甘酸っぱい果汁が広がる。あー、最高だ……今日は美味しいものばっか食ってるな。こいつが居なけりゃ完璧なのに。



「最近どう?」


 累は上品にいちご大福を食べながら、不気味な笑みを浮かべる。


「はっ。分かってんだろ」


「リストラされた事?」


「ほらな。お前まじでキモイ。いっつもどっから情報得てんだよ」


「企業秘密だよ。可愛い弟のことなら、なんでも知りたいんだ」


「俺は兄なんて思ってねえぞ」


「つれないなぁ。お父さんが連れてきたんだから、大事にしないと、ね?」



 そんな風に呼ぶな。俺だけの父さんなんだ。

 俺の母親にあたるソイツは累の実の母で、父さんの再婚相手。累と俺は血が繋がっていない。こんなヤツと本当の兄弟になんて、なってたまるか。


 母……ソイツは父さんが死んだのは俺のせいだといつも言ってきた。俺を死神呼ばわりしたモンスターだ。愛情を感じたことなんて、1度もない。思い出したくもねぇのに、累は母親の面影があって……頭の中でチラついてしまう。二人して俺を見下して。



「ねぇ、最近配信も始めたんだよね。見たよ」


「まじで……何なんだよ」


「最初の動画、指で何も見えなかったし……その後も同じような敵ばっかだったね。ふふっ」



 どこまで馬鹿にすれば気が済むんだよ……。やめてくれ。わざわざそんな話をしにきたってのか?

そろそろ解放してくれよ。もう放っておいてくれ。

俺が何したってんだ。俺は悪くない。一生懸命生きてきただけだ。ちいせぇ頃は母親に認められたくて必死だった。なのにこいつだけが贔屓された。こんなこと思い出したくもねぇのに。俺はまだ弱い。



「何が言いたい」


「そんな怖い顔しないでよ〜。堂真のために言ってるんだよ?」




 コイツの口癖。俺のためだって言うけど、そうじゃない。いつも俺を下に見て、楽しんでる。



「でも……強くなったね。全部ワンパンで倒しちゃうんだもん。堂真は見た目が映えないから……そういうので狙ってけばいいんじゃない?」


「言われなくてもわかってる」


「……そう。楽しみにしてるよ。元気な顔が見れたし、今日はこれくらいで帰ろうかな。また来るね、僕の可愛い堂真くん」


「そうか。それは嬉しいこった」


「素直じゃないなぁ。お見送りはいいよ、じゃあね」





 俺は目も合わせずにいちご大福を頬張った。




 クソ野郎。今日も惨めな俺を見て嘲笑いに来たってとこだな。なんだかドッと疲れた。ハークが居てくれることが唯一の救いだ。俺を慰めてくれるだろうか。何も言わなくてもいいから、だから────





「なかなか不快なやつだな」


「ハークぅ……」



 もふもふが俺の心を溶かしていく。ハークに抱きついた俺は、少し涙が出そうになった。



「貴様が嫌うのがよくわかる」


「だろ? ほんっっとうに不快なんだよ……奴はちいせぇ頃から不気味だった。でも他人にはいい顔するから、いつも俺が悪者扱いだったな……」


「狡猾なやつだなァ。アイツこそ人間が思う悪魔の象徴なんじゃないか?」


「その通りだ……ちょっと寝るわ」



 ドスッとハークが寝転ぶと、俺はハークのお腹部分に頭を乗せた。嫌がるかと思ったが、そのままにしてくれた。やっぱりお前は……悪魔だけど優しい奴なんだな。人間より人間らしい時がある。それが可笑しいとはもう思わなくなった。ずっとそのままで居て欲しいなんて……我儘だよな。



✦︎✧︎✧✦


 気付けば俺は眠っていて、起きると夕方になっていた。


「ふわぁ〜〜〜〜っ」


「大きな欠伸だな」


「あれ……ハークずっとその体勢で居てくれたのか?」


「ふん。する事も無いからなァ」



 そんなこと言って……俺が起きちまうからじっとしててくれたんだろうな。可愛いやつめ……。

 俺はハークの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。こう見ると本当に犬みてぇ。



「そろそろ飯でも作るか……」



 会社員の時はろくなもん食ってなかったし、自炊また頑張らねぇとな。


 サッとチャーハンを作り、2人分盛りつけをする。



 食事をしながら俺の配信を見直していると……おい、何だよこれは。





「ハーク……俺の目の色、やべえんだけど……しかもダンジョンに入った途端黒から赤くなりやがったぞ?!?!」


「あぁ、今気付いたのか。俺様もよくわからんが、ダンジョンの魔力に関係しているのではないか?」


「まじかよ……だから茂助の目の色、青かったんだな」


「あの人間はダンジョンから出たあとも青かったな。いずれ貴様も赤いままかもしれんぞォ?」


「ま、まじかよ……厨二病こじらせたみたいに見えるじゃねえかよおおおお!!!!」


「何だそれは。他の人間からすれば当たり前かもしれんぞ」


「ダメだよくわかんねぇ……こういう時は検索すれば……」




 スマホで検索をかけると、ヒットした。なになに……?





 ✦︎✧︎✧✦



 累くんついに登場しましたね!


 こういうキャラ意外と好きなんですよねー笑

 皆さんはどのキャラが好きですか?

 良ければコメントしていってくださると嬉しいです♡

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