第9話 俺は厨二病じゃねぇ

「目の色が変わるのは今の所S級能力者だけ……? 最初はダンジョンの中だけで、徐々に固定化するだと……?!」


「ほぅ。そうだろうな。貴様はそれだけ強い」



 無能なほど強くなるのに、S級……?


「いやいやいやいや!! 何言ってんだよそんな訳……会社でも褒められてたし?」


「はぁ……」



 それでも雑用を押し付けられていたことに変わりは無い。それだけ下に見られてたってことか……?


 俺は本当に、S級……?



 こんな事実を受け止められない自分がいる。



「あーくそ、頭いてぇ」



 ♪〜♪〜


 今度は誰だよ……。画面を見ると、ダンジョン対策機関と書かれている。


 連絡が来るって言ってたっけか。すっかり忘れてたぞ。




「はい」


『阿形 堂真様ご本人様でしょうか?』


「あ、そっす……」


『国連ダンジョン対策機関、UNLCOの管理担当町田と申します。能力者になられたので、登録に来ていただきたいのですが』


「登録……どこに行けばいいっすか?」


『ショートメッセージに住所など送らせていただきますが、よろしいでしょうか?』


「あ、はい……」




 いつでも来ていいと言われた。まあ登録くらいなら、何ともねぇだろう。自分がどれくらい強いかわかったりしねぇかな。


 とにかく目の色の件は考えないでおこう。



 どうせ悩んでも仕方ねぇし、S級じゃなくてもそうなる事もあるだろうしな。





 そうして次の日添付されていた場所へ来た。俺の住んでる東京の中でも比較的田舎にあたる場所から電車で数十分。都会の一角にドーンと構えられたビル。



「はっ……すげえな。マジでダンジョン対策機関って書いてやがるぞ」


「なかなかの規模だなァ」


 目の前のでっけぇビル丸ごとかよ。


 ショートメールを見返す。登録は2階か。受付に声をかけてくださいって書いてあるな。



「あの〜」


「はい、本日はどうされましたか?」


「能力者の登録に」


「お名前をお伺いいたします」


「阿形 堂真……っす」


「阿形 堂真様、ですね。免許証など身元のわかる証明書は……ありがとうございます。確認致します。……確認が取れましたので、2階へご案内致します!」




 丁寧に案内まで……俺は言われるとおりその受付嬢について行く。なんか高級感がある場所で、緊張してきた。俺完全に場違いだろ。こんなラフな格好で来なけりゃよかった……といってもこんな服しか持ってなかったわ。



「お待ちしておりました、阿形様。電話で案内させていただいた、町田でございます」


「あ、あの町田さんっすか!」



 仕事ができそうなキャリアウーマンって感じで、長い前髪ごと後ろでまとめられている。大人びた印象の女性だ。綺麗な人だな。電話で受けた印象と同じでビックリした。



「早速登録させていただきます」


「どうしたら……」


「ここに手をかざしていただけますか?」


 何やら手形のような模様が書かれた機械が白く光っている。なんだか不思議な力を感じるような。


「魔力を感じるぞォ」



 なるほど。そういうことか。かざしたらどうなるんだ?



 俺は恐る恐る手をそれの上に置いた。特に痛みも何も無い。これで何がわかるってんだ?



 パアッと赤く光ると、町田さんが驚いた顔をした。なんだ? 色で判断する感じか。俺はどうなんだ……?



「ま、まさか……貴方はS級……ですね」


「はぁ?! 何かの間違いじゃ……?!」


「いえ、そんな事はございません。貴方はS級です」


「ははっ……」




 信じたくない事実だ。上級悪魔のご加護とやらなのかもしれねぇな。じゃないとおかしい。


 そう、そういう事だな……。ハークはまじですげえやつなのかもしれない。




「能力者についてはどれくらいご存知ですか?」


「S級だと……目の色が変わるとか、あとは普通武器で戦うってことくらいっすかね」


「? 貴方の武器は?」


「それが……素手なんすよね。殴るか蹴るかって感じで」


「っ……! そんな事があるのですか。初めてお聞きします」


「俺もまだ実感がねぇっす」


「最近色々分かったことがあるので、阿形様が宜しければご説明致しましょうか?」




 俺は能力者や、ダンジョンについての説明も受けた。だが一気に情報を得ると、ほとんど頭に入らねぇんだよな。分かりやすく説明してくれた町田さんには申し訳ねぇ。ハークが代わりに覚えててくれることを願おう。





 そうして数時間が経った頃、長官っつぅ1番偉い人が俺に会いたいと言っているらしい。



 おいおい、意味わかんねぇよ。緊張するだろ。1番偉い人って……部長より上の? わかんねぇけど、怖ぇよ。





 町田さんがこのビルの最上階まで案内してくれたが、心の準備が出来ないうちに部屋の目の前まで着いてしまった。ここが長官のオフィスとやらか……。



 町田さんが扉を叩くと直ぐに長官らしき男の人が扉を開けてくれた。



 40代くらいか? すんげぇダンディなイケおじじゃねえか。めちゃくちゃ憧れるんだが。俳優に居そうなくらいだぞ。しかも人気の。




「待っていたよ。阿形 堂真くんかな?」


「あ、はい!!!!」


「精が出るな。さあ中へ。町田くんありがとう。もう下がっていい」


「はい、失礼致します」


「おじゃましま〜す……」




 うぉぉ……広いな。パソコンが何台も置かれたデスクの両サイドに、オシャレな植木鉢が飾られている。その後ろの大きな窓から景色が一望できるって訳か。夜はさぞかし綺麗なんだろうな。




「最近能力者になり、さらにS級だった……興味深い」


「っす……」


「さあそちらにでも座ってくれ」



 デスクの横に向かい合うように並ぶソファ。見るからに高そうなソファにそろりと尻を乗せる。俺が座るようなもんじゃねえ気がするんだが。



「君の経歴は調べさせてもらった。色々大変だったんだな」


「マジっすか……」


「良ければ、うちに来ないかと思ってな。どうだ?」


「いや、俺はもう誰かの下で働くのは」


「なぜそう思う?」


「こないだ仕事を辞めたんす。先輩のミスが俺のせいになってて。あんなに頑張って働いたのに。先輩達も褒めてくれてたんすけど」



 そういえば先輩から返事がないままだったな。忙しくて忘れてたけど、地味に傷つくんだが?!


「そうか。そんな経験をすればそう思っても仕方がないと思う。だが私達は世界の機関なんだ。君が働いていた会社とは違う。これを見てくれ」



 渡されたのは契約書。字がちいせぇし、めちゃくちゃ色々書いてある。こういうのを読むのは正直苦手なんだよな。


「読むのは苦手かな?」


「は、はい……正直」


「そこにはメンバーになる上での条件が記載されている。君にとって悪くはないと思うが」


「それはどういう」


 長官は丁寧に説明してくれた。雇用するわけではないらしい。フリーランスのようなもので、依頼を受けたその報酬が貰える。


 依頼内容は今の所攻略者の緊急時の救援、ダンジョンの研究をする手伝い、ダンジョン外でモンスターが出没した際の撃退。



 依頼を受けてもらう代わりに、配信などの活動も手助けしてもらえる。


 機材から何から……相応の扱いをしてもらえると。




 それからも色々長官は俺に対してメンバーになるメリットを次々と提案してきた。



 UNLCO は、思っていたよりずっとすんげぇ組織だったってことだ。

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