第6話 ダンジョン攻略完了
「ああああああああああああ!!!!」
目の前の父さんの姿をしたモノに拳をお見舞いした。
パリンッ
見えていた世界が割れて──────
「遅かったな、人間」
「っ……ハーク!!!! 久しぶりだなぁ……ううっ」
「泣くな気持ち悪い!!!!」
俺は……戻ったんだ。
「さあどうするか……」
「そんなもの、倒す一択だろう」
俺が考えている間に、ナイトメアが突進してくる!
「次は物理ってかぁ?!」
俺はサッと横に避け、思いっ切り……拳を振りかざして……
ドゴォォォォオオオオ!!!!
「ワオ」
「はっはっはっはっ! 壁にめり込んだな」
「やべえな……おかしい……おかしいぞ!!」
「何がだ」
「俺がこんなに強いはずがない……俺は無能じゃねえ!!」
「ま、まだ言ってるのかァ?!」
「お前もしかして、追加で何かやっただろ! そうに違いねぇ!!」
「はぁ……ここまで行くと病気だな」
「なんだと?!」
「アレを見ろ」
「アレ……?」
壁にめり込んだ黒馬の心臓辺りから光が。
「お、おい……なんで光ってるんだ?」
「アレは魔石だな。生命維持装置というべきか」
「人間で言う心臓ってことか」
「アレをもぎ取ってこい」
「死体は溶けてなくならねぇのか?!」
「そんな訳ないだろう。人間は溶けて無くなるのか?」
「いや、そんな訳……あー、モンスターも同じか」
「さっさと取らんかァ!!」
「わかったようるせぇな……」
俺はゆっくりと黒馬へ近づく。すげぇ綺麗だな。その光は青く放射線状に輝いて、不思議だ。
ってちょっと待てよ……これをどうやって取れって言うんだ?!
「どうすりゃいい?!」
「ズボッと手を突っ込め!」
「まじかよぉぉ……俺に武器があれば」
「はぁ……日が暮れるぞォ〜、人間」
「そんなに経ってねぇだろ! ちょっと待ってくれよ」
内蔵をエグるってことだろ。なんて惨い……いや死んでるけど。
俺はゆっくりと深呼吸して、意を決してズボッと黒馬の皮膚を破り、内臓を掻き回し……あった。明らかに硬いそれが。下ネタではない。
「あったぞ!」
「引き抜けェ!」
「おらっ……ウェェ……ゲットだぜっ」
血まみれの魔石を画面に向けて見せる。決めゼリフがパクリみてぇになっちまった。
「さあ帰るぞォ」
「おぅ……」
家に飛ばされた俺は、氷をたっぷり入れたコップの水を一気に飲み干す。軽く運動しただけのようなこの疲労感……おかしい。
「あ゛〜……最高……てかよ、なんでダンジョンで戦かったってのに、あんまり疲れねぇんだ?」
「魔力のお陰だろうな」
いつの間にか狼に変身したハークが答えた。
「そうか……よくわかんねぇけど、俺にも魔力が使えるのか?」
「使えはしないだろうな。影響を受けるだけ……と言ったところだろうなァ。人間のことは詳しくわからんから、憶測に過ぎないが」
「ふぅん。なぁ、ハーク水飲むか?」
「はァ?! 悪魔は食事しない」
「意味ねぇってわかってるけどよ……人間は誰かと共有したいもんなんだよ」
「ふん。そうか。貴様のワガママとやらに付き合ってやろう」
「ありがとな。ほら」
コトッとハークの目の前に水を置くと、ペロペロと飲み始める。少々飛び散っているが、そこも可愛らしい。
「ほぉ! 冷たくていい気分だ」
「だろ?! 動いた後飲むと最高なんだよな〜」
「たまには付き合ってもいいぞ」
「お! そうか。嬉しいぜ」
俺は部屋に戻りドカッと座り込み、今日の動画を見返してみる。
「おいおいおいおいィィィィ!!!!」
「なんだァ?」
「おンンンン前の指でなァァァァんも見えねぇんだが?!?!」
「ん?」
「これだよコレぇ!!!!」
「そういうものじゃないのか?」
「ちっっっっげぇよ!! 俺が映るもんなんだよ!! こんな風にな!!!!」
俺は光の速さであの嘉成 重介の動画を再生する。
『皆の者。良くぞ来てくれた。本日は「ぁぁぁぁああ!! このイケメンがよぉ……コメントの量がやべぇな。繁助様ァ〜! カッコイイ〜!! 結婚してください! って……クソォ!!!!」
「そうだったのか。まあ次から気をつけるとしよう」
俺は何に対して怒ってんだ。ただの八つ当たり……じゃねえか。情けねぇ。ハークには助けて貰ってばっかのやつが、偉そうに。
「……あぁ。俺もちゃんと説明してなかったしな。頼むわ」
♪〜 ♪〜 ♪〜 ♪〜
「ん?」
電話か……って……最悪だ。
俺は画面をスライドし、電話を拒否する。
♪〜 ♪〜 ♪〜 ♪〜
「あークソ!!!! しつけぇ!!!!」
「出ればいいだろう」
「出たくねぇ……」
「誰からだ?」
ハークこと狼は俺のケータイを覗き込む。あー……癒し。
俺は黙ってギュッと狼に抱きついた。
「っおい……はぁ。好きにしろ」
「……ありがとよ」
表示された名前は 阿形
俺が家を出た後もコイツは関わろうとしてくる。顔も見たくねぇから出たってのに……。
電話番号も、連絡先も変えた。なのに、すぐコイツに知られてしまう。会社勤めになる前にバイト先まで来たこともあった。会社員になってからはたまに電話が来る程度だったってのに。何がしたいのかわからねぇ。何を考えているのか……昔からそうだ。
電話に出ねぇと押しかけてくるようなやつだ。鳴り止まない電話を、ついに俺は取った。
「……」
『もしもーし。元気? 僕の弟くん』
「何の用だ」
『兄に対して冷たいなぁ〜。最近どうしてるかなって心配してるんだよ?』
「はっ……心配なんてされた覚えねぇけど」
『久々に会いに行ってあげようかと思ってね』
「俺は引っ越したぞ」
『知ってるよ』
「チッ……なんでもお見通しってか」
『来週の日曜日、行くからね』
「来んなっつっても来るんだろ……」
『ふふ、その通りだよ。待っててね〜』
ピッ
「クソ……」
「兄と何かあったのか」
「ありまくりだ……世界で2番目に会いたくねぇやつ」
「そうか。人間も苦労しているんだなァ」
「そうかもな。あーあ。気分が落ちちまった。料理して、夕食食べながら映画でも見るか?」
「えいが……それはなんだ?」
「ふっふっふっふっ。いいから楽しみにしとけ」
俺は軽く麻婆茄子を作り、ハークの分もよそって映画を見始めた。
ゾンビ映画だ。噛まれれば感染するというあれ。ハークが知らないって言ってたから、見せたかった。
結構こういうの好きなんだよなー。俺は洋画が特に好きだ。ダイナミックで、カッコイイからだ。
俺も映画の主人公になれたらーなんて、思っていた事もあった。懐かしい。
「ほぅ。これか。中々面白いな」
「だろ? 人間は娯楽がねぇと生きていけねぇんだ。莫大な金をかけて映画を作る。海外は特に金の使い方が桁違いなんだぜ。クオリティが高いのはそういう理由だ」
「人間とはやはりおもしろいな。行く末を見ようとここへ来たが……」
「そうなのか。ここにはお前しか上級悪魔はいねぇんだろ? ハークは相当悪魔の中でも変わってんだな」
「ふん。悪魔は人間を格下に見ているものが多い。俺様もそうだが、面白いのも事実だ」
「そうか。お前とこれからも仲良くやっていきてぇな」
「はっ、貴様も相当変わっている」
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
✦︎✧︎✧✦
主人公の兄が今後どう関わってくるでしょうねー。
次回もお楽しみに!!
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