1章(ダンジョン配信始めてみた)

第4話 初めてのダンジョン配信

「よーしよしよし」



 俺は今、片付けた家の中で犬に変身したバラハークを撫でている。犬といっても白い狼のような……。



「おい。動物扱いするな」


「だって俺、ペットずっと飼いたかったんだぜ?」



 コウモリにも変身できるのだが、俺はこっちの方が好きだと言うと狼のままで居てくれたのだ。

 狭い狭いって文句垂れてたけど。



「そんなの知らん! 俺様は上級悪魔様だぞ」


「はいは〜い」

(とか言って満更でもねぇんじゃ……?)


「そろそろ何かした方がいいんじゃないか」




 俺はあれから3日、片付けなどの家事以外何もしていない。ダンジョン配信が今流行っていて、それで稼いでるやつは結構いるらしい。大体あの組織に入っているのが引っかかるが……俺は1人でやれる。やってみせる!!!!




「ふっふっふっふ……よくぞ聞いてくれた。悪魔よ」


「おい、話し方を真似するなァ!」


「ダンジョン配信を今日しに行くぜ!!」


「ほぅ……やり方は知っているのか?」


「とりあえずアカウントは作った。配信は……まあ大体わかるだろ」


「はぁ……貴様は……」



 ハークとの日々が当たり前になってきた。目の前でため息をつくコイツが愛おしくなるとは。独り身が長くなっていたせいなのか。


 配信なんてやったことねぇけど、軽く調べたから大丈夫なはずだ。撮り始めてしまえば、後は話しながらモンスターを倒していけばいいだけ……だよな?


 喋りが上手い訳でもねぇし、見た目がいいこともない。ただこんなヤツでも一生懸命戦って生きてるんだってことを見せたい。誰かを勇気づけたい。

 あわよくば応援して貰えたら。



「おうよ! 服はやっぱりジャージだよな〜キャラ付けが大事みてぇだし?」


「赤か。血の色……悪くない」


「そういう意味の赤じゃねえんだが?! 情熱って感じだよ!!」


「髪も赤にしたらどうだ?」


「いや、もう俺は染めねぇって決めたんだ。ただでさえ見た目が恐ぇんだからな」



 小さい頃から目付きが悪かった俺は、睨んだだけで泣かせることもあった。何にもしてねぇのに、喧嘩を売られることもしょっちゅう。


 バイトでも『客を恐がらせるな』なんて注意をされたこともあった。なかなか生きづらい世の中だ。


 ハークは悪魔だからか、いい目をしてるなんて言ってくる。そんな言葉に救われたりもする。



「では早速行くか」


「 B級で頼む!!」


「S級にしろ」


「おい! 俺を殺す気か?!」


「死なんから安心しろ。俺様も手伝ってやる」


「え? 前は手伝ってくれなかったじゃねぇか!」


「前は貴様の力試しだったからな。あ〜あ〜つまらん!!」


「お願いだよぉ〜」


「気持ち悪い目で見るな! わかったから……さっさと行くぞォ!」



 「ありがとなぁ〜」と俺はハークに抱きつき、スリスリした。んん! もふもふ最高っ!!!!



 そのまま視界が歪み、いざ戦いへ──!!


 今度は普通の街の中にダンジョンがあった。ハークは人型悪魔に戻っている。残念……俺はもふもふが恋しいぞ……。




「おい、もしかしてダンジョンって……場所は関係なく何処にでもあるのか?!」


「その通りだ」



 周りを見てみると、建物の周りにツルが巻きついている。それも全部の建物がそうなっていて、これが現実、だと……?!



「まじで……変わっちまったんだな」


「ダンジョンの近くはこうなっているな。攻略されると消滅するが、次々に出現している。さぁ配信始めるんだろう? さっさと準備しろォ! 俺様を待たせるな」


「数日間ダラダラするのは許してくれたじゃねぇかよぉ〜」


「それはそれだ。汚い家は困るからな」


「手伝ってくれなかった癖に……」


「うるさい。汚したのは貴様だろう」



 痛いとこをつかれたな。



 俺が撮影する側になるとはな……えーっと……プロフィールとかは出来てるし、配信を開始する……これを押せばいいのか。最近モザイク機能とやらが付いたみてぇで、グロい映像は勝手にモザイクしてくれる。便利になったな。



「ハーク! 配信の間俺を撮ってくれ!」


「なんだと?! 俺様の手を煩わせるなど」


「だってぇ〜お前しかいないしぃ〜」


「くねくねするな気持ち悪い!」


「お願いだよぉ〜ハークぅ〜」


「あーもう!!!! 仕方ない……持ってればいいのか?」


「そうそう! 簡単だろ? あ、配信中はしゃべるの禁止! な?」


「あ〜わかったわかった」


「本当かよ。まあいい、始めるぞ! 配信開始〜お、始まったみてぇだ。ほらよ。映ってるか? 自己紹介だな。あ〜……よっ! 俺は堂真ってんだ。さっそく今俺は、B級ダンジョン入口の前にいる。ダンジョン攻略をしに行くぜ!! 今何人見てる?」


「喋るなと言ったのはお前だぞ」


 ハークは全く画面の見方がわからないようで、眉間に皺を寄せている。そんなに難しいのか?


 確かに悪魔界でスマホなんてものはないから、仕方ないか。ハークはいつも魔力で先進的な連絡手段を取っている。目の前にウィンドウのようなものを出現させるやつだ。あれはかっこいいな。未来を描くSF映画に出てきそうで。俺もやってみたいが、人間にはできないらしい。どうにか誰かが発明してくれることを願う。



「ちょっと貸してみろ。うーん……0……っておい!!!! なんでだ?! ダンジョン配信は今人気だって……100人くらいは来ると思ってたのによぉ!」


「とにかく進んでいけば増えるかもしれんだろう。さっさと行けェ!!」


 いつもいつも、せっかちな野郎だ。俺よりずっと長生きしているんだからよぉ。もっと余裕を持って生きろよ。なんて文句は言えねぇな。



 前回同様ブザーを持ちダンジョンの中へ入っていくと、何だかクセェ。なんて言うか、とにかくクセェんだ。死臭……ってやつなのか? 嗅いだことねぇからわかんねぇけど。




「何なんだよこの臭いは」


「ゾンビだろうな」


「おい……噛まれたら終わりじゃねぇか。感染して俺もゾンビになるだろ?!」


「何を言っている……人間はそうなのか?」


「知らねぇよ! 実在するはず無かったんだしな……って来たぞ!! とりあえず、頭だろ? 頭ぶっ潰すしかねぇか!!」


「あぁそうだ! 手足をもぎ取ってもいいが、それじゃあつまらんからなァ!!」



 ハークは戦いになると、急に野蛮になる。悪魔だったことを再確認させる。こいつは俺が死にそうになったら、本当に助けてくれるだろうか。答えは『わからない』だ。俺が居ないとここには居られないらしいが……ただの気まぐれだろ。時折恐ろしくなる。俺はお前にとって何なんだ?



 俺は拳を振りかざし、脳天をぶち抜いた。



 グシャッ



 うぇ……普通の人間より柔けぇんだろうな。でも……頭を潰す感覚は不快で、なんとも言えねぇ気持ちになる。



 って何体いるんだよ!! 暗くて見えづらいが、下手したら100体くらいいるんじゃねえか?! それは言い過ぎか……。とにかく中々の数だ。



「また大群かよ!!」


「コイツらは弱いからな」


「あ〜もう!!」



 グシャッグシャッグシャッグシャッ……



 RPGみてぇに地道なレベ上げのような……この現実ではレベルアップしねぇのが悲しいぜ……。



「っ……ちょっと手伝えるか?」


 魔導師ってのもあるらしいから、魔法を使っても問題ねぇだろ。ハークの方が長官の話してたことを覚えてるみてぇだし。



「お前ならっ……一瞬で終わらせられそうだな……っ! どういうのが出来るんだ?」


「一瞬で燃やすか、貴様を一時的に強化するか」


「まじかっ! 強化頼むわ」


「はっはっはっは! やっと力が使える。さあ、どんどん倒すのだァ!!」




 俺の拳が青い炎に包まれる!!

 不思議とその炎は熱くない。力がみなぎるような感覚になった。これが魔法か。初めて俺を手助けしてくれた。やっぱり俺のことを、大事に思ってくれているのだろうか。お前を信じていいだろうか。



「おお……?! 熱くねぇ! すげぇ!! おらぁぁぁぁああああ!!!!」


 ドガァァアア!!


 殴るとそのまま炎に包まれ、その勢いで次々となぎ倒していく……!



 これなら早く終わるんじゃねえか?!




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