第2話 初めてのダンジョン攻略

 視界が歪んでどこかに飛ばされたであろう俺は今、異世界にいる。目の前には洞窟のような入口にファンタジーチックな門……のような……? って今は朝か?! 昼か?! もう明るくなってやがる。



「おい……今流行りの異世界転生ってやつか?!」


「馬鹿か貴様は。現実世界に決まっているだろう」


「じゃあなんでこんな……異世界みてぇな建物があるんだよ!」


「さっきも言っただろうがァ! 現実世界にダンジョンが出現したと!!」




 上級悪魔によると、ダンジョンのランクは下からFからE、Cといったように上はS級になっているらしい。ここはC級。じゃあ俺にピッタリだな。多分。


 ダンジョンを攻略すると消滅する。能力者は山ほどいて、俺がその中でどれくらい強いのかはわからないだと。試してみねぇとわからないのはめちゃくちゃ意味がわからん。まだ死にたくない。




 目の前の看板には、【⠀C級ダンジョン。ここから先は命の保証はない 】と書かれている。



 その手前に何やら変なものが……。



「これは何だ?」




 防犯ブザーのようなものがカゴの中に大量に入っており、貼り紙がしてある……。


【⠀ダンジョンに入る方へ

 これは命綱になります。ダンジョンへ入る際は1人1つお持ちください。命の危険を感じたら、このブザーを引き抜いて下さい。

 これには発信器が付いており、引き抜くと位置情報が送られるシステムです。国連ダンジョン対策機関 '' UNLCO '' より、救援に向かいます。


 ⚠帰る際はここへ戻してください。窃盗罪にあたります。ちゃんと戻せば美少女の音声が流れます 】





「ダンジョン……対策機関? そんなのがあるのかよ……俺は何も知らねぇで……」


「ほう、人間は面白いものを作るなァ」


「お前も知らねぇのか……」


「貴様、さっきからお前お前などと……俺様には立派な名があるのだぞォ!!」


「名乗ってねぇのはそっちだろ!」


「あぁ、そうだったか。我が名はバラハーク。バラハーク様と呼べェッ!」



 謝りもしねぇのかよ……さすが悪魔……だな。

 名前もカッコイイとかずるすぎるだろ!




「様……? 誰が呼ぶかよ」


「なんだとォ?! 人間如きが……」


「お前だって人間とか貴様とか言ってんじゃねえか!」


「うるさい。俺様はいいんだよォ!」


「長ぇしハークでいいだろ」


「俺様の名を省略するだと……?!」


「人間ってのはな、尊敬する奴の名前は省略して呼ぶんだよ」

(うっそぴょぉ〜ん! どうせ分からねぇだろ)


「そうか……ならそれで良い。では入るぞ人間!」


 まじか、コイツ頭が良いのか悪いのか……人間のことは全然知らねえようだな。俺に会うまで一体何をしてきたんだ。人間界を見てきたんじゃないのか?

 よく分からん。それは後々聞いていくとしようか。今はそんなこと気にしてる場合じゃねえ。俺の命がかかってんだ。


「はぁ……わかりましたよぉ〜……」



 俺はブザーを持って中へ入ると……本当に異世界、というかゲームの中に入ったみたいだな……。洞窟のようだが、異質な感じ。今は秋だから割と涼しいのだが、中はヒンヤリとしている。


 ん? 何やらカサカサと虫が移動する音がするぞ……。


 おい待てよ、虫だと? 俺、虫苦手なんだが?!?!



「……おい……もしかして……ここの敵は虫……なのか?」


「そうみたいだな」


「……嘘だろ?! 俺、虫無理なんだよ!!!! 何でよりによって虫なんだよぉぉおお!!!」


「あぁうるさい……仕方ないだろう。苦手なものを克服するチャンスだなァ!! はっはっはっはっ! せいぜい苦しむがいい人間!!!!」


「本当にお前は仲間なのか……? もっと応援してくれよ……」


「俺様にそんなものを求めるな」


「はっ……その通りだな……」




 そんなことを話していると目の前に現れたのは、俺よりデカイダンゴムシのような……もっと気持ちわりぃ虫の大群!!!!



「ギャァァァァアア!!!!」



 気持ち悪すぎる!! 俺は思わず外へ向かってダッシュする。



「おいどこへ行く人間! このまま外に出れば魔物が放たれるぞ!!!!」


「はぁ?! そこは出れば安全……だろぉぉ!!!!」




 クソ、どうすりゃいい!! ここは一か八か試してみるか……俺の肉体強化がどんなものか……!



 俺はダンジョンの中の壁を蹴り、そのまま一回転してダンゴムシモンスターを思いっ切り踏みつけた。




 グシャッ




 ウェェ……潰れたぞ……。


 モンスターの汚ねぇ緑色の体液が、俺のジャージを汚した。


 マジで最悪だわ……。



 周りを見てみると、ダンゴムシの大群が一斉に丸まって、ゴロゴロと俺に向かって体当たりしてきた!!



 もう、どうにでもなれ!!!!



 俺は壁を蹴りながら次々と向かってくるダンゴムシモンスターを殴って、蹴って、潰して、ひたすら戦った。



 グシャッグシャッグシャッグシャッ……



 倒す度にビシャビシャと体液を浴びる俺。



 死にたくねぇ……ただそれだけで我武者羅に戦った。



「くそ、多すぎるだろ! おい、ハーク助けろよ!!」


「貴様の力試しだろ? 俺様は手を貸さない」


「ほんとに……仲間かよ?!?!」



 10分以上経ったのかよくわからねぇが、やっとの事で倒し終わった。


 周りにはダンゴムシモンスターの残骸と……体液……。



「はぁ……地道すぎるだろ……」


「大群と戦うとなればそうだろうな。貴様は拳で戦わねばならんしな……ぷぷぷぷっ」


「おい……馬鹿にしてんじゃねぇぞ!! オェエエエエエ」



 あまりの気持ち悪さにそのまま吐いてしまった。ハークは汚物を見るような目で俺を睨んだ。苦手な虫をこの手や足で潰しまくったんだ。仕方ないだろ……。



「あー……これどうにかしてくれや……」


「仕方ない。このままでは俺様が耐えられん」



 魔法とやらで体液が蒸発する。……って、虫の死骸はそのままなのかよ?!?!



「おい! 死骸は?!?!」


「自然に帰るんだからこのままでいい」


「はぁ……まじか」


「いいから次へ行くぞ人間」


「ちょっとくらい休ませろ……」



 実はダンジョンに入ってから、あんまり疲れねぇ気がする。だが精神的な疲れと、このおかしな状況に戸惑う自分がいる。



「1分でいいな」


「短ぇ!! 5分だ5分!!!!」


「はぁ……強くなった癖に体力はないのか全く……」


「そういう問題じゃねぇ……」





 俺はその場に腰掛けた。



 それからダンジョンの中を進み、さっきと似た見た目だが鉄のように硬いモンスターをなぎ倒す。鉄みたいな見た目だったけど、意外と硬くなかった。見せかけってやつだろう。


 その後も難なく虫を倒していき、遂にボスモンスターを目の前にした時だった。



 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ!!!!





「なんだ? うるせぇ……ってもしかして!!」




 俺は音のする方へ走り出す!



「あ? なんだ人間。急にどうした!」




 ブザーの音だろう。小学生の頃、ランドセルに付けていたあのブザーの音と同じだった。誰かが危ねぇってことだ!!


 救援がいつ来るか分からねぇし……間に合ってくれ!!!!

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