無能なほど強くなれる?! 拳で戦ってダンジョン配信!〜脳筋だけど明るさでなんとか乗り越えてみせる〜

やーみー

序章

第1話 俺は強くなったらしい

 社会で雑用担当みてぇに扱われている俺だが、きっと頑張っていれば認められる世の中だと信じてる。



 

 そんな俺は今、初めて部長と対面している。

えっと、何が起きてるんだ……?


「なぜ呼び出されたのか、わかるな?」


 いや、わかんねぇっす。


「俺がなにか……?」


「これを見なさい。君は重大なミスを犯した」




 部長の机に置いてある書類を見ると、これは先輩のを……って名前が……阿形あがた 堂真とうま? 俺じゃねえか! なんでだよ!! 





「おぁ?! こ、これなんで俺の名前……」


「君は3年間一生懸命働いてくれた。だが、君の上司と君、どちらが会社にとって必要だと思う? それに君は背が高い上に目つきが悪いから、恐がられるだろう?」


「それって……」


「わかってくれ。すごい損害を被ったんだ。今回の事もこれからの君の給料もちょっと……な。で、どうする? この仕事、君には向いてないんじゃないか?」




 嘘だろ? 俺は毎日残業して、頼まれたことは全てやった……雑用だとしても。頑張っていればいつか誰かが認めてくれると信じていたから。部署内は優しい人達ばっかで、俺を褒めてくれていたし……。




 人一倍頑張るのは誇れることだと思っている。

 俺はそんな人間でありたい。そしてそうあり続けたつもりだ。





 なのに頑張った結果がこれ……だと?






「クソ……こんな仕事、辞めてやるよ!!!!」



 俺の3年間はなんだったんだ。今までバイトばっかやってきた俺が、初めて会社員になった場所。


 認められる場所があるっていいもんだな……なんて思っていた。

 もう、人が信じられなくなってきた。何もかも嘘だったのかと思うと、全身から力が抜けていくようだ。そのまま崩れ落ちてしまいそうになる。



 まだ帰宅時間では無い帰り道は、ほとんど人がいない。そのせいで、俺のことを『無職のダメ人間』として見ているんじゃないかと怖くなる。


 俺はスーパーへ駆け込み、今まで控えていた酒をカゴに次々と放り込んだ。



 ああクソ……こうなったら、好きなだけ呑んでやる!!!!


 家に帰った俺はスーツを脱ぎ捨てジャージに着替え、早速酒を喉に流し込む。




「ぷはぁっ!!!! あー……これからどうする……やめだやめだ! 今は何も考えたくねぇ」




 

 俺をよく褒めてくれた先輩は、味方してくれただろうか。その先輩のミスのせいでこうなっているんだが……そうであって欲しい。


 先輩にメッセージを送ってみる。まだ仕事中だし、返ってこないだろうが……。




 酒を呑みながら、動物の癒し動画で現実逃避する。

 動物は裏切らねぇよな。あー、俺に無条件の愛をくれ。この愚かで惨めな人間に……。



「可愛いなぁおい!」


 一気に飲んでしまったからか、酔いが早くも回ってきた。

 テンションが無駄に高くなり、声が大きくなる。

 叫んで発散したい気持ちは……押し込んだ。代わりに枕を口に押さえつける。


「ああああああああ!! このクソ〇〇ピー音がよぉおおおお!!!!……はぁ」



 幾らか発散できた。本当はもっと叫び散らかしたいが、ここは都会から少し外れている。家賃も安いワンルームマンションの一室だ。壁は薄いし近所迷惑になってしまうから、こうするしかないのだ。




 最近疲れて家は寝る場所と化していたため、部屋は散らかり放題だ。それでも今はとにかく何もしたくなくて、ひたすら酒との時間を過ごした。










 それからどれだけの時間が経過しただろうか。




「やべぇ……飲みすぎた……うぅっ……」



 重い頭を持ち上げメッセージが来ていないか見てみるも、先輩は既読もつけず返事もない。もう仕事が終わった時間なんだが……見てないだけか。


「いつもありがとう」と言って笑いかけてくれた先輩の顔が浮かぶ。優しかったあの人が……そんな訳ねぇよな。




 あ、そういえば……玄関の鍵閉めてねえ。

 フラフラと壁伝いに歩いていく。


 俺はそのまま玄関へ向かう途中で意識が薄らいでいき、廊下の途中で倒れ込んでしまった。






 ✦︎✧︎✧✦



 目が覚めると俺は……ここ、どこだ……?








「んぁ……? ここは……?」



 白くて何も見えねぇ。



 確か……先輩のやべえミスが俺のせいになって、やけ酒してたんだったよな。もうあれはリストラ同然。



 俺は立ち上がり、周りを見渡した。何もねえ……ここはどこなんだ。



 今までのことを脳内で振り返っていると、急にブラックホールのようなものが現れ、そこからヒョイっと男が現れた。




「おお、来たか。貴様、少しは強そうなヤツだなァ」


「おぁ?! お、お、おま……お前は?!?!」




 尻もちをついて思わず後ずさる。そいつに向かって指した指が震える。どうなってやがる?!


 ここは天国じゃないのか?


 悪魔が目の前にいる。これは夢か?!





「なんだ、指を指すな人間」


「お前、人間じゃねえ!!!!」


「そうだが? 貴様と一緒にするな。上級悪魔様だぞォ!」




 金目に、白髪の間から見える大きな黒い角! コウモリのような羽に、尻尾。俺は黒い短髪を毎朝丁寧にセットしているのに、こいつはただのショートカットが様になっている。イケメンなのが腹立つなぁクソ!!


 どこまでも俺を惨めにする気かよ。顔がいいヤツは決まって性格が悪い。俺は何度そんなヤツに嫌な思いをしてきたか……!!



「俺は死んだのか?!」


「いや、生きているからここにいる」


「お、俺を……どうする気だ!!」


「なんだと? お前を強くしてやろうとこの場を設けたのだぞォ!」


「はぁ……? 何でそうなる?!」


「そんなの後でわかる。説明は嫌いだァ! とにかくここでは、無能なほど強くなれるってわけだ」


「なっ、俺は無能じゃねぇぞ! 全然状況が掴めねぇ……」


「チッ……めんどくさい」


「なんだと?! 俺はこれからどうなるんだよ!!」


「今ダンジョンが現れていることは知っているな?」




 目の前の上級悪魔とやらは、3ヶ月前にダンジョンが生まれたと言った。


 確か……丁度3ヶ月前だったか。スマホに魔王と名乗るヤツが映ってそんなことを話していた。赤い髪と目は現実味がなかったし、あの時俺は酔っていた。たまたまだ。酔うと俺は時折記憶を飛ばす。なんだよ……まじかよ。



 ニュースも見ねぇしSNSもやってねぇし、仕事場で仲良いヤツもいねぇ。そのせいなのか……? 俺には友達くらい、いるぞ!! そういえば最近連絡も取ってなかった。



「今、弱い人間を覚醒させ、ダンジョン攻略させている」


「そんな……まじかよ……覚醒……ダンジョン……」


「こうなったのは貴様ら人間のせいだ。魔王様が直々にだな」


「魔王……か。はは、地球は終わりだな」




 やっぱり。魔王が世界をこんな風にしたのか。漫画じゃあるまいし……人間のせいって、ますます意味がわからん。




「我々は自然界の中に生きている。貴様らよりもな」


「つ、ついていけねぇ……」


「今理解しようと思うな。人間共は頭が悪いからな」


「な、なんだと?!」


「言い争っている場合ではない。とにかく貴様を強くしてやる。感謝するがいいっ!!」




 明らかに好意的な態度ではない。なんだよ、人間が嫌いなのに、どうしてこんな事をしているんだ……? なんの恨みがあるってんだ。いきなりこの世界へやってきて、強くしてやるなんて。魂を食べる気か?!

 あークソ、俺は頭が良くないんだ。悪いわけでもないが、考えるのはやめよう。




「強く、なれるんだな?」


「貴様はここに選ばれた。無能だからここに来たのだァ!」


「はぁ?! な訳ねぇだろ……」




 無能……だと? 俺は認められないだけで、決してそんなことはない。事実は違っても、周りがそう思っているから? はは、なんだよそれ。そんなの、俺をこんな目に遭わせた会社がおかしいだろ。俺は被害者だ。何も悪くない。寧ろ褒め称えられるべきだ。



「受け入れ難いのは仕方ない。とりあえず強くなってみればいい」


「はっ……それが終わらねぇと、ここから出られねぇのか?」


「そういうことだ。強くなるだけで犠牲は伴わん。なんとも気に食わんが……魔王様の言う事だから仕方なくな。さあ、早速武器を選ぶとしよう。武器はランダムだぞォ〜」




 なにやらゲームのウィンドウのようなものが表示されている……。それで武器を選ぶのか? できるなら勇者みてぇな剣がいい。カッコよく敵をなぎ倒していく……中々いいんじゃね?



「っと。あー、武器は……無しだァ!!」


「お、おいふざけんな! 強くする気ねぇだろ!!」


「うるさいうるさぁああい!! 戦い方は色々あるだろう……貴様は拳で戦うのだァ!!!!」


「な……それだったらナックルとか」


「そんなもの要らん! さあ、肉体そのものを強くしてやろう。それはそれで面白い……ほぅら、どうだァ?」




 俺の身体に力がみなぎるような……って終わり?

 もっとなんか……あるだろ?! 詠唱して……ぶわぁぁっ、とか!!!!




「えーっと……それで?」


「終わりだ」


「お、終わり?! 本当に強くなったのか?」


「強くなったか今から試すがいい! 阿形あがた 堂真とうまァ!!」


「お、おいなんで名前知って……ってうぉぉああ!!!!」







 ――――――――――


 1話を読んでくださり、ありがとうございます!

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 15話まで毎日投稿で公開予定です。頑張るぞー🔥

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