第30話
「それじゃ、試作を始めるよ」
テーブルに向かってそう宣言すると、少し離れた場所に立ったリーリアが小さく頷く。
テーブルの上にはこれから作る物に必要な材料が所狭しと並べてある。
「それで、まずはなにを作るんですか?」
「とりあえず基本のポーションを作ろうと思う。水色と白と、それから緑色を順番に作ってみるよ」
言いながら必要な材料を手に取ると、それを全部手元の釜に投げ込んでいく。
ぐつぐつとお湯の沸き立つ釜の中に材料を入れると、お湯の色は次第に変色していった。
その変色のタイミングを見計らって、俺は手に持った棒で釜の中をぐるぐるとかき混ぜていく。
「えっと、確かこのままかき混ぜていれば……」
一定のスピードを保ちながら釜の中をかき混ぜていると、変色したお湯はさらにゆっくりと色を変えていく。
「わぁ、凄い……。なんだか綺麗な色になってきましたよ」
さっきまで警戒して俺から離れていたリーリアも、いつの間にか近寄ってきて釜の中を覗き込んでいた。
瞳はキラキラと輝いていて、その姿はまるで理科の実験を見学する小学生のようだった。
まぁ、その気持ちは分かる。
俺も実験は大好きだったし、今だってかき混ぜながら心の中でちょっと興奮している。
しかし俺のスキルが、この作業は慎重にしなければならないと警告してくる。
だから興奮して早くなってしまいそうな手を意識的に抑えながら、釜の中をしっかりと観察する。
そうやって十五分くらい混ぜ続けていると、釜の中の液体にも変化が表れ始めた。
さっきまでサラサラだった液体は少しずつ粘度を増していき、それに伴ってかき回す棒もだんだんと重くなっていく。
と言ってもそれほど抵抗もなく、そのうち液体はトロッとした粘りのあるものへと変化していった。
「よし、ここで一気に仕上げるぞ」
スキルから教えられた最良のタイミングで棒を釜から引き抜くと、火力を上げて一気に液体を沸騰させる。
ぐつぐつと煮立った液体を注意深く眺めて、たっぷり三十秒で火を止める。
そうして出来上がったのは、釜いっぱいの水色のポーションだった。
「あとはコレを瓶に詰めていくだけだから、リーリアも手伝ってくれる?」
「はい! 任せてください!」
元気いっぱい返事をしたリーリアと一緒にポーションの瓶詰め作業をしていくと、あっという間に十数本の傷を癒すポーションがテーブルに並んだ。
「よし、とりあえず試作品は完成だ。どれどれ? 品質はどんな感じかな?」
その中の一本を手に取ると、鑑定眼を使ってその品質を調べてみる。
『回復のポーション。品質:87/100』
鑑定すればなんだか今までとは違うイメージが頭の中に浮かんでくる。
「もしかして、武器と消耗品で鑑定のイメージも変わるのか?」
もしくは、俺がさらに理解しやすいようにイメージが変化したか、だ。
まぁ、そんなことはどっちでもいい。
「87ってのは、いったいどれくらいの品質なんだ?」
店で売っている普通のポーションがどれくらいなのかを調べるのを忘れたから、これがいったいどれほどの物か分からない。
悩んでいると、隣のリーリアが懐から一本の小瓶を取り出した。
「そうだと思って、ドロシーのお店でポーションを買っておきました。これと比べてみてください」
「おお、ありがとう!」
そう言って差し出されたポーションを受け取ると、俺はさっそくそれを鑑定してみる。
『回復のポーション。品質:43/100』
鑑定の結果は俺の作ったポーションの半分くらいの品質だった。
「やっぱり、俺が作ると普通よりも品質の良い物ができちゃうみたいだ。もしかしてこれも、武器の時みたいにこの街では商品にならないなんてことはないよな……?」
「その心配はありませんよ。武器と違ってポーションは、所詮は消耗品ですから。むしろ品質が良ければ、冒険者の方は喜んで買ってくれるはずです」
「そうか。だったら、これはこの街の道具屋に卸しても問題ないな」
もしも無理ならまたノエラに頼もうと思っていたけど、その心配はなさそうだ。
「それじゃ、この調子で他のポーションも作ってみるか」
釜に再び水を張ると、さっきとは違う材料をその中へ投げ込んだ。
それをさっきと同じようにかき混ぜて、新たなポーションを作っていく。
その行動を繰り返して出来上がったのは、白と緑色の二種類のポーションだった。
『魔力のポーション。品質:81/100』
『解毒のポーション。品質:89/100』
それぞれの鑑定結果も申し分なく、その結果に満足した俺は大きく頷いた。
「凄い! こんなに品質の良いポーション、この辺りの道具屋さんでは売ってませんよ。これならきっと、どこでも買い取ってもらえますよ」
「そうだったらいいな。まぁ、もう少し作ってみないといけないけど」
一回で作れるのはたった十数本だから、店に卸すのならもう少し在庫が欲しい。
それに品質だって、同じように作ったはずなのにポーションによってバラバラだ。
もっと安定して高品質の物を作れるようにならないと、完ぺきとは言えない。
妙なところで凝り性な俺は、もっとポーション作りを極めることをこっそりと心に誓うのだった。
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