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「ルフェは明日の授賞式があるだろう?その前に一緒に授賞式に出る研究所の皆さんに会いに行かない?」


ミネルウァ一家とシラー一家が談話室でひと息ついているところで、ユリウスから提案があった。

ルフェルニアとしても、明日の授賞式のときに緊張しすぎないよう、事前にできるだけ顔見知りを作っておきたかったので、願ったりかなったりだ。


「ありがとう!ぜひお願いしたいわ。…でも、アルも一緒で良いかしら?」

「はい、僕もお姉さまと一緒に行きたいです。」


ルフェルニアはユリウスのキラキラに慣れず、思わず隣に座るアルウィンを見ると、アルウィンもすぐに、同行の意思を示した。

ユリウスはまた張り付けたような笑みで固まると、少しため息をついてから、了承の意を告げて出かけるために立ち上がる。


3人が部屋を出ようとしたところで、ユリウスの母アンナが「良いけれど、帰りは早くね。」とユリウスに注意した。


「ルフェルニア嬢の明日の衣装合わせもあるのよ。サイズをちゃんと聞いて作らせたけど、手直しが必要なら今晩中に直してしまわないと。」

「えっ。明日の服装は一応手持ちのドレスを持ってきているのですが…、」


ルフェルニアは、明日の授賞式は受賞者の中に平民もいると聞いて、背伸びの必要がないと安心していたので、急なことに目が点になる。


「あら、ユリウスの命の恩人を王都に招いたのだから、公爵家の名に懸けて、当然すべてを用意させていただくわ!事前にユリウスから色々と好みの確認があったでしょう?」


思い返せば確かに、最近のユリウスとの手紙のやり取りで、雑談交じりに色の好みや好きなレースの柄などを数か月前から巧みに聞き出されていたような気がする、とルフェルニアは思わず恨めし気にユリウスを見る。


「直接言うと、君は遠慮するだろう?最初は僕がすべて用意しようと思っていたのだけれど、最終的な役割はすべて母上が持って行ってしまったんだ。」

「そんな!用意って、私が行かないと言ったら、どうするつもりだったの?」

「君は僕が誘ったら、僕に会いに来てくれるだろう?」


出発前に父オットマーとしたやり取りを、本人にも同じように返され、ルフェルニアは図星なだけに真っ赤な顔で口をパクパクさせる。

ユリウスがルフェルニアの表情を見て満足げに瞳を弓なりにするので、ルフェルニアはますます恥ずかしくなった。


「お姉さま、早くお出かけに行こう?」


全員から生暖かい目で見られて居たたまれなくなっていたルフェルニアは、アルウィンのこの一言に飛びついた。


「そうよね、早くいきましょう。私の味方は可愛いアルだけよ。」

「お姉さまのことは、僕が嫌なことからすべて守ってあげる。」

「「「まぁ!」」」


アルウィンにはルフェルニアがユリウスに困らされているように見えたのだろう。

アルウィンの可愛らしい発言に、その場の女性陣はときめきで思わず声を上げてしまう。


「ルフェは恥ずかしがっているだけさ。」

「いいえ、お姉さまは嫌がっています。」


ユリウスが機嫌の良さそうな笑顔のまま反論すると、アルウィンは仏頂面でユリウスとルフェルニアの間に身を滑り込ませた。

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