20
王都の中心部から少し外れたところに、薬草学研究所はあった。
「薬草学研究所は国内にいくつか拠点があるけれど、ここが本部だよ。ここで行われているのは成分解析と本部機能の事務管理がメインだから、圃場は少ないんだ。」
ユリウスは先に来客を知らせておいてくれたのか、スムーズに建物の中に入ると、「研究3課」と書かれた扉の前で立ち止まった。
「ここが、ルフェの見つけたことを研究しているチームだよ。」
ユリウスが先に入室すると、中に居たひとりがものすごい勢いで近づいてきた。
当人は癖毛がひどいのか、髪の毛が頭を2倍近くの大きさに見せている、それに目にもかかっていて、前が見えづらそうだ。
「貴女がルフェルニア・シラー様ですね!僕はロビンソン、ロビンと呼んでください!
貴女に会うのをずぅっと楽しみにしていたんだ!光栄です!!」
サッと両手を差し出し、ルフェルニアに握手を求めたので、彼の出で立ちに驚いていたルフェルニアも反射的に手を差し伸べた。
「ルフェルニア・シラーです。こちらこそ、お会いできてとても光栄です。あなたがヴィアサル病の薬を作ってくださった方ですか?」
「僕は変異個体の検出がメインでしたから、確かに有効な薬草を見つけたのは僕だけれど、この研究に関与した全員の成果です。もちろん貴女も含めてね!」
ロビンソンが嬉しそうに握ったルフェルニアの手を上下に振る。
ロビンソンはどうやら平民の家庭のようだが、王立学園を優秀な成績で卒業して、この研究所に入ったらしかった。
「ロビンさん、そろそろ中へ入らしてもらっても?」
雑談中もずっとルフェルニアの手を握っているロビンソンの手を、ユリウスがやんわりと離す。
「なんだ、ユリウス様、いらっしゃったんですね。入口で足止めしちゃってすみません。中へどうぞ。」
ロビンソンの後に続いて中へ進むと、10人くらいがそれぞれ作業をしているようだった。
「ここにいるのは3課の一部で、今日は地方の圃場に出張に行っている奴もいます。僕も明日の授賞式がなければ、地方の圃場へ行っていることが多いです。」
ロビンソンが中にある機材などを説明しながら奥へ進むと、突き当りに扉があった。
ロビンソンがノックもなしに無遠慮に扉を開けると、中にはひとり壮年の男性が座っていた。
「ロビン、入室の際はノックをするように何回も言っているだろう。」
その男性はロビンソンを窘めるように言った後、ルフェルニアの方を向いた。
「初めまして、ルフェルニア・シラー嬢。私はリヒラー・ソウェル、この3課の課長を務めている。この度は貴女の植物学への貢献に、心より敬意を示したい。それから、ようこそ、アルウィン君。」
ソウェル、という名前は田舎貴族であるルフェルニアも知っている伯爵家の名前だ。何でも代々子だくさんで大家族の家系だと噂で聞いたことがある。子供の扱いも慣れているのか、アルウィンの目線までかがんで、アルウィンの頭を撫でてやっていた。
「初めまして、ソウェル様。こちらこそ、子どもの思い付きに応えてくださった研究所の皆様に心から感謝しております。」
緊張気味にルフェルニアが礼を取ると、リヒラーは人の良さそうな笑顔を見せて言った。
「固くならないでください。私は貴族とは言えども五男で、貴族社会にも慣れずに、こうして好きなことを研究して生きているのさ。」
リヒラーに話しを聞くと、明日の授賞式で授与を受けるのは、リヒラーとロビンソン、それから土壌の魔力と植物の生育について論文をまとめたベンジャミンという男性らしい。
リヒラーに連れられて、研究所の中をひととおり案内してもらうと、今日のところは解散する流れとなった。
「今日はお忙しいところありがとうございました!研究が進んでいるところを実際に見ることができてとても面白かったです。」
リヒラーとロビンソンの明るい性格に、帰るころにはすっかりルフェルニアの緊張も解けていた。
アルウィンも出発前はどことなく不機嫌な様子だったが、今は顔を緩めて喜んでいるようだ。
「こちらこそ、ルフェルニア嬢。それでは明日、王宮でお会いしよう!」
ルフェルニアらは迎えの馬車に乗り込み、帰路へ着いた。
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