11

翌日、ルフェルニアは父オットマーの執務室で、サイラスと向き合っていた。


(きっと、昨日のことを怒られるんだわ。当然だけれど…。)


「サイラス様、この度の娘の発言について、大変申し訳ございません。」


オットマーも部屋に控えていた侍女から一部始終を聞いていたため、硬い表情で頭を下げた。ルフェルニアも「ごめんなさい…。」と掻き消えそうな声で告げる。


「ふたりとも、頭を上げてくれないか。ルフェルニア嬢の発言に、感謝をしているんだ。

恥ずかしながら私たち夫婦が諦めてしまっていたのに、ルフェルニア嬢はユリウスが生きることを諦めなかった。

そこで、相談なのだが、ルフェルニア嬢が見つけた知見を私に預けてはいただけないだろうか?」


オットマーとルフェルニアは想像と異なるサイラスの発言に目を丸くする。


「娘の知見というのはいったい何のことでしょう?」


「昨日、ルフェルニア嬢がユリウスに、ユリウスの瞳の色に”創った”花をプレゼントしてくれたんだ。植物に、動物と同じような交配のルールがある可能性があること、そして土壌の魔力を介して間接的に植物に影響を与えることができること、これらを総合的に組み合わせて、有効な薬草を急ピッチで”改良”すれば、まだ道はあるのではないか。その奇跡にかけてみたくなったんだ。」


ここ最近、ルフェルニアの話しを十分に聞けていなかったオットマーは全くの初耳で、すぐに何かを言うことができなかった。


「もし、この現象が科学的に証明されれば、ルフェルニア嬢の植物学への貢献は多大なものだ。そのときは私の名前をもって、ルフェルニア嬢に不利にならないよう成果を公表することを約束したい。一刻を争うので、契約書の細かい内容は後で詰めることにしたいのだが、良いだろうか?」


「それは…、もちろん。私はサイラス様を信頼していますから、諸条件の交渉は後でも構いません。ただ、ルフェ、君は良いのか?」


「…ユリウスの病気のお薬ができるってことですか?」

「そうさ、君の知識がユリウスの病気を治してくれるかもしれない。」


話の半分がわからなかったルフェルニアは、サイラスの答えを聞いて、目を輝かせた。


(やっぱり!まだ諦めなくていいんだ!)


「ユリウスが治ってくれれば、何もいりません!」

「ルフェルニア嬢、心からの感謝を君に。それでは、早速関係各所との交渉を始めなくては!オットマー、子爵領の管理で大変だろうが、君にも補助をお願いできるだろうか…?」


「貴方の思い付きに振り回されるのは、学生時代のころから慣れっこです。もちろんお任せください。ルフェルニアが頑張ってくれた分、私も頑張らなくては。」


サイラスとオットマーが立ち上がって固く握手を交わすところをルフェルニアは胸が熱くなる想いで見ていた。きっとこれから良い方へ進んでいく、そんな予感がしたからだ。

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