アラン・フィンリー外伝 ~とある探偵の日常~(男×男女不問)

Danzig

第1話 とある探偵の日常


アラン:どうしたものか・・・こんな時に限って


アラン:(N)僕は少し焦っていた。 というのも、この三日間、僕に仕事の依頼が来ていないのだ


アラン:このままでは、まずいな・・・


アラン:(N)僕は、天井に目をやりながら、そう呟(つぶや)いた


コンコンコン


アラン:(N)その時、事務所の扉を叩く音がした


アラン:どうぞ、開いてますよ


扉が開く


レイモン:こんにちは


アラン:(N)扉を開けて入って来たのは、上品な男性だった


レイモン:よろしいですか?


アラン:ええ、アラン・フィンリー探偵事務所へようこそ。 どうぞ、お座りください


レイモン:では、失礼いたします。


アラン:(N)男性は静かな物腰(ものごし)で、ソファーに座った


アラン:今日は、どんなご用件でしょうか?


レイモン:お嬢様を、お屋敷に連れ戻して頂きたいのです


アラン:連れ戻す?


レイモン:ええ。 申し遅れました。 私は、シャルロット家で執事をしております、レイモンと申します

レイモン:連れ戻して頂きたいのは、シャルロット家のご令嬢、ミーア様です。

レイモン:もう、5日もお戻りになられず、奥様も心配なさっておいでで


アラン:家出・・ですか?


レイモン:ええ


アラン:行先に心当たりは無いのですか?


レイモン:いえ、今頃、街をフラフラなさっているかと


アラン:でしたら


レイモン:それが・・街でミーア様を、お見かけした時に、お屋敷にお戻り下さるよう、お願いをしたのですが、私の言う事は、聞いて頂けず


アラン:そうですか


レイモン:この写真に写っている方が、ミーア様です。


アラン:(N)そう言って、男性は写真をテーブルの上に置いた


アラン:この写真には、何人か写っていますが、そのミーアさんというのは?


レイモン:真ん中で、旦那様に抱かれていらっしゃる方がミーア様です


アラン:(N)写真の中の、ミーアと呼ばれているその子は、つぶらな瞳(ひとみ)をしていた


アラン:猫・・・ですか?


レイモン:ですが、奥様も旦那様も、娘のように


アラン:お気持ちは分かりますが、猫探しは・・


レイモン:お願いします! 報酬は「人探し」と同じだけお支払い致しますので


アラン:うーん


アラン:(N)猫探しは、僕の専門外だ。 いつもなら、即座に断るはずの仕事なのだが、僕には背に腹は代えられない事情があった


アラン:分かりました、お引き受けいたしましょう


レイモン:ありがとうございます。


アラン:(N)こうして僕は、レイモンさんと一緒に、ミーアと呼ばれる猫を探す事となった


アラン:(N)捜索中、僕達は何度もミーアを見かけたが、その度に、まんまと逃げられてしまう。

アラン:(N)まったく、猫の心理は、人間よりも、よほど難しいという事を、嫌という程、思い知らされた。

アラン:(N)そして、僕達が公園の中を探している時に、突然、僕の携帯電話が鳴った


アラン:こんな時に

アラン:はい、アランです。 あぁ、ジェームスさん。


アラン:そうですか、分かりました。 多分、大丈夫です。


アラン:その件については、近いうちに、ジェームスさんに、届けられると思いますよ。

アラン:それまでお待ちください。 僕は少し、別件で立て込んでおりますので、これで・・


電話を切る


アラン:あ!


アラン:(N)その時、僕は不用意にも、腕時計を見てしまった


アラン:しまった、まだ33分か、ちょっと早すぎだな

アラン:多分、このままでは僕は・・


レイモン:あ!、ミーア様! アラン様、ミーア様がいらっしゃいました、あそこです!


アラン:え? どこですか?


レイモン:ほら、あそこ。 あの木の上です


アラン:あんな所に・・きっと登ったまま降りられなくなったんですね。 僕が登って捕まえてきますよ


レイモン:あの高さを? 大丈夫ですか?


アラン:ええ、そういう事は苦手じゃないので


アラン:(N)そう言って僕は木に登り、怯えるミーアに手を伸ばした


アラン:ミーア、おいで


アラン:(N)僕は、細い枝の上で、ミーアに言葉をかけ続けた

アラン:(N)しかし、枝は、時間と共に僕の重さに耐えきれなくなり、僕とミーアを乗せたまま、ポキリと折れてしまった


レイモン:あぁ!


アラン:(N)僕はその瞬間、サッと手を伸ばしてミーアを掴むと、猫のように体をひねり着地をした


レイモン:アラン様、お怪我は?


アラン:なに、大丈夫ですよ。 言ったでしょ、こういうのは苦手じゃないって。ほらミーアも無事ですよ


レイモン:それは良かった


アラン:(N)その時、僕は時計の針が13時50分を指していた事に気が付いた


アラン:ははは、ミーア、どうやら僕は、君のおかげで命拾いをしたみたいだよ


レイモン:アラン様、それはどういう事でございますか?


アラン:いやいや、こっちの話ですよ


アラン:(N)そう言って、僕はミーアをキャリーケースの中に入れ、今回の依頼を終了した


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