【07】
日常は、続いていく。
【07】
「抱っこ」
「あ、はい」
靴を脱ぐ前にせがまれて、ちょっと待ってと指示をする。手洗いうがいをすませ、リビングに向かう。留守番してた子犬ぐらいひっついて回る夜詩くんは、今日も泣いたあとの顔をしている。
暇な土曜日。家にいるのも退屈で、気晴らしに叔父のところへ赴いてみた。
「夜詩くん」
「…………うん」
ソファの上で思いきり抱きしめられる。人に甘えるより強がりたい年頃の僕は、我慢してじっと耐える。普段の僕と、叔父の求める僕とは、微妙に違うのだ。僕はぬくもりを感じながら、徐々に叔父の求める僕に変色していく。それは精密な計算を要とするふりをして、呼吸数回で変更可能ではある。
こちらの気分とは真逆に、夜詩くんは充足の吐息を漏らす。
「…………ねえ、夜詩くん。今日天気いいよ。どっか出掛けない?」
「出掛けない」
「お散歩しようよ」
「怖い」
夜詩くんらしい返答だ。
「お外、気持ちいいよ」
「…………だろうねぇ」
僕の頭を撫でながら、夜詩くんが窓のむこうに顔をむける。
「やだ?」
「…………………………………………要らない」
再び夜詩くんは僕をめいっぱい抱きしめる。何かを我慢するように。外界から僕を守るように。
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