14 国を亡ぼす接吻と股間を蹴られる青年③
驚愕し、身が固まる青年。その青年の眼前に、再度、かなりの速度で何かが突進してきた。思わず、右手で防御する。続く衝撃でドアノブが破壊され、ドア板も破壊され、更なる衝撃の後、玄関であったものは形を失っていた。
何が起きたのか分からず、固まる青年。だが、先に防御した右手が、何かが掠ったのであろう右膝が、鋭い痛みが刻まれたことを青年に訴えた。
“あれ、、これ、なんかやばいやつ?”
直後、大きな衝撃で青年の身体が後ろに飛んだ。痛たっ、との言葉を漏らすこともなく。床に転がりながらも、反射的に壊れたドアの方を確認する。そこに立っている、影。風貌も何もが黒く染まった影。その影が、先に振り下ろしたものを引きずり、近寄ってくるのを知る、、そこで、改めて青年は認識した。自分が襲われていることに。右手の甲、右の膝がざっくり切れて出血しているを。
“な、、なんだこりゃぁ、”
突然の出来事に頭が追い付かず、肉体を上手く動かせない青年。その混乱の原因が、ゆっくりと近寄ってくる。影は、大きな斧のようなものを振りかざし、青年の頭部めがけ振り降ろそうとする。何かを叫ぼうとする青年だが、上手く言葉がでない。鈍く、暗闇に反射する巨大な刃が落ちてくる。スローモーションで、青年の頭をめがけて、落ちていく。思わず、強く眼を瞑る、、
、、が、衝撃が感じられないことを不思議に思った青年は、恐る恐る開眼した。
そこには、自分の身体の数センチ脇に、巨大な刃が突き刺さっていた。自分の頭の2倍はあろう、大きな斧の刃が、暖炉の炎で鈍く光る。
「!!!―――――!」
反射的に絶叫する青年。形のない絶叫を上げ、必死に身を捩じり、床を這うように逃げる。立ち上がろうにも、腰が抜けて足が動かない。先に受けた痛みから動かないのかもしれないが、青年は転がるように逃げた。必死に、仰向けの亀のような恰好で、錯乱し、逃げた。そして部屋の壁に頭をぶつけて止まる。無様に頭部を押さえながら、止まった。
ぶつけた頭の痛みが良い具合に落ち着きをもたらしたのか、青年はそこで、ある程度冷静に影を見据えることができた。大きな斧のようなものを振り下ろした相手を、認識することができた。自分の身長と同じぐらいに長さがある太い柄と、人間の頭部よりも巨大な刃がついた斧が床に深く刺さっている。今、影はそれを抜くのに苦労している様子だった。
“、、なにしてるんだ?”
フード付きの外套で顔と上半身を隠しているそれ。中々抜けない斧に梃子摺っているようにも見える。身体の殆どが外套で隠れているが、その切れ目から伸びる皮の長手袋が見て取れる。外套から伸びた足にはハイカットブーツのようなもの見える。何か小さく呟き、床に刺さった、巨大な斧の刃を抜くのに苦労している影。
その様子に、青年は四つん這いになりながらも屋外へと逃亡を試みる、、
が、その動きに気づいた相手の蹴りが阻害した。素早い、獣のような動きで青年へと駆け寄ると、その腹部へ、強烈な蹴りを数発入れた。芋虫のように身を縮める。青年の背から嘔吐するような音が漏れる。それでもなんとか逃げようと蠢く青年を見下ろした相手は、、
青年の股間を蹴り上げた。
悶絶し、身を丸める青年。だが、その様を冷静に見据えた影は、再度青年の股間に蹴りを入れた。箇所を確認し、足の甲で、冷静に金蹴りした。
気を失いそうになる青年。股間を押さえたまま身動きできない状態になる。動きが止まった青年にひと息ついた影は、なんとか床から引き抜いた斧を手にし、次に、青年の横顔を踏みつけた。獲物を逃がさぬよう、ブーツで頭を踏み固定した。見知らぬ相手に横顔を踏まれ、靴の下、未だに何がどうなっているのかが分からない青年だが、その斧が振り下ろされた瞬間、自分が死ぬことだけは理解した。自分も斬首される。ゴゼク同様、首を斬り落とされる、と。
その青年に唾を吐きかけ、相手が言葉を吐き捨てた。「手間取らせやがって、クソ野郎が、」と。そして、大きく斧を振りかざした影は、一気に刃を降ろし、、
、、たのだが、斧の刃は青年の髪と額を翳める程度の箇所に落ち、再び床板に深く突き刺さった。見知らぬその相手は、再び狙いを外したのだった。
信じられない青年ではあったが、命がまだあることを確認する。首はつながっている。涙目になっている青年だが、自分がまだ生きていることを知ると、気力を振り絞り、相手の靴を顔から押しのけた。すると、、思っていたより軽い身体だったのだろう、反動で相手は飛ぶように倒れ、小さな悲鳴が聞こえた。
“え、、今のって?”
青年は知った。身の丈に合わない、漫画でしか見たことのないような巨大な斧で自分を襲撃してきた影が、女であることを。青年の股間を蹴り、顔をブーツで踏みつけ、唾を吐き、死ねと呟いた相手は女だった。
“小柄な女、いや、声だけが女の男の娘かもしれないけど、僕よりも身体は小さい”
多少落ち着きを取り戻す青年だが、命を狙われており、自分の人生が見知らぬ女の手によって終わる危険に面していることに何等変わりはなかった。どうするか?どうやってこの危機を乗り切るか?を、、
そんな青年に、一つの案が浮かんだ。あの時、森の中で獣に襲われた時みたく、魔法が突然発動し、氷の槍が無数に発生するのではないかと。ひょっとしたら、この危機的状況は魔力覚醒イヴェントなのではないか?この状況は自分に秘められた能力が発動するきっかけイヴェントなのでは、、などなど考えが落ち着く前に、青年は叫んだ。必死に、手の平を女に向け。大声で、あの時と同じ、引き籠り時代に何度も使ったコマンドを。
「◎●●×!!!!!!!!!!!」
「◆□□×!!!!!!!!!!!」
「・・・・・・・」
「・・・・はぁ?」
暖炉の薪が弾けるだけの静寂が、2人を微妙な沈黙で包んだ。そ静寂が告げる。これは青年の特殊能力覚醒イヴェントではないことを、、
やはり、ダメか、と嘆く青年だが、途端、左肩に鋭い痛みを覚え、鈍い声を漏らした。見ると、鋭利なナイフが左肩に突き刺さっていた。一気に、全身を激痛が走る。大きく悲鳴を上げる青年。同時に、左の腋窩が血で濡れていくのが分かる。かなりの出血を覚悟する。冷たい汗が背筋を駆け、状態の危険性を知らせる。
「なんだ。初めからこっちで刺せばよかったんだ、」
何が良かったのかは分からぬが、そう呟いた女は皮手袋で額の汗を拭うと、外套の内側から2本のナイフを取り出し、それを両手に持ち青年へと近寄ってきた。殺意を剥き出しにし、何かの決意を全身に漲らせ、女は青年との間合いを詰めていく。
“やばい、、これは本当にやばい、、”
警報が頭の中で鳴り続ける。間違いなく死ぬ、と。痛みから、意識が薄れる。血圧の低下があるのか、視界もぼやける。上手く体に力が入らない青年は、このまま、、死ぬのかと呟いた。
“このまま、死ぬのか?僕は異世界に来ても女性に殺されて死ぬのか?惨めに、情けなく、童貞のまま死ぬのか?童貞のまま、、童貞の、、まま、、
そんな諦めが心を支配していく
だが、トルのあの言葉が叱咤した。
“本当に童貞を捨てたいと心から願うなら、戦え、海上。戦う以外に、童貞を捨てる方法はないんだよ、”
、、そうだ、嫌だ。同じ死ぬにしても、童貞のまま死ぬのは、絶対に、嫌だ、、
「くっそ、、オーバー・ザ・レインボー、、してやるよ!!!」
叫び、意を決した青年は、勇気を振り絞り、それに体当たりを試みた。過剰な痛みのお陰か、抜けた腰にも力が戻っている。体格なら自分の方が上だ、と一気にダッシュする青年。その行動の根底は「殺されるにしても相手が女性であるなら抱き着いて●●ぐらいしてやる」といった不純なものだったのかもしれないが、青年は女に体当たりを試みた。雄としての、不純な体当たりを、、
だが、それを予想していたかのように女は身を翻し避けた。闘牛をかわすような身のこなしで、青年の不純をかわした。そして、あっさりとかわされた青年は、勢いそのまま暖炉脇の壁に激突した。無様な声を漏らして壁を壊す青年。そこは脆い部分だったのか、青年は崩れた壁に身体ごと埋もた。
「ちくしょう、なんで壁がこんなに脆いんだよ、これじゃぁ、、あれ?」
破片を払い、痛みを抑えながら身を起こす青年、、だが、その手が、崩壊した土壁の奥、鈍い光に気づく。どこか記憶の端にある、昔の映画で見たことのあるようなそれは、20㎝ほどの長さの棒だった。ボルトのような形状のそれを自分の記憶に照合する、、
だが、そんな照合を待つことなく、ナイフを握った女が自分の心臓を狙い飛び込んできた。反射的に、その大きなボルトのようなそれを握る青年。目を瞑りながらも、握ったそれを、女に向けた、、
大きなボトルに導かれるように。
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