6 マスクをしているとそうみえてしまうんだよ③

「海、入るぞ、」


 窓が開く音と共に屈強な肉体が、NFLのオフェンスラインでも活躍できそうな肉体が、前を隠すことなく、堂々と浴室に入ってくる。


「お前、風呂に浸かってる時間が長いんだよ。お前は異世界人だから分からないだろうが、この世界では感覚が違うんよ。風呂は短い方が良い。サッと洗って、サッと泡を流し、サッとあがる。それがこの世界の入浴なんよ、」


 長く湯に浸かる風習はない。その言葉に何かしらの回答を得た青年は、チャンドがいないことを問うた。するとトルは短く『野暮用だ』とだけ答えた。


「野暮な用ですか、」


 野暮な用。取り立てて説明するまでもない、仕事やお付き合い上の用事。そう説明するトルではあるが、青年はその用事についての憶測を“試しに”口にした。


「もうあの2人、結婚して一緒に暮らせば良いんじゃないですか?僕が見ていても夫婦感たっぷりな感じですよ。今日だって、」

「はは、そうだな。俺もそう思うよ、」


 と手桶で身体の汗を流すトル。青年は、憶測が正しかったことを踏まえ、キソーラとチャンドの関係について更に話を進めていった。


「僕が知ってるぐらいですから、他の人たちも、」

「あぁ、もう公然の関係だよ。街の連中も知ってるし、」


 ムポア病患者専用となる特定疾患者養護施設。


 その施設の長であり、国の公共金(税金)、街からの寄付品を扱うこともあることから、役人や商店街の人々とも幅広い交流をもっているキソーラ。彼女は、街ではちょっとした有名人であった。細身で爬虫類顔の美人は、日常的に修道女のような服を着て暮らしているが、遠くにいてもその姿は人目を惹く稀有な存在であった。そんな彼女の横にいる借金と賭博で有名なチャンド。ダメな意味で有名なチャンド。その2人の関係は、この狭い街では噂になって当然なものであった。


「まぁ、チャンドさん、外見は渋いちょい悪おじさんですからね、」

「ちょい悪ってなんだ?」

「あぁ、すみません。少し不良っぽいおじさんって意味です、」

「少しねぇ、、まぁ、たしかに旦那、今は【少し】かもしれないけど、」


 昔は相当に荒れたおじさんだった。洒落にならないほどにな、とトルは洗髪を始める。


「そんなに酷い人だったんですか?」

「まぁ、酷いといっても無謀に人を殺す悪人って意味じゃなく、なんだ、厭世主義者、破滅主義者って感じかな、」


 余り他人の過去を勝手に話すべきではないかもしれないが、と前置きするトルだが「まぁいいか」と笑い、続けた。チャンドの過去を。この数年の話を、、



「旦那とは、6年この施設で一緒に働いているが、初めの頃の旦那は借金して博打する、負けて借金取りと喧嘩する、そして仕事を休むってサイクルを繰り返す人間でな、」

「それ、完全なダメ人間ですけど、、でも、今と何が違うんですか?」

「借金の額が二桁ぐらい違うんだよ、」


 チャンドは元傭兵として何度も死線上を彷徨い危険を潜り続けてきた。だがその分、相当な報酬金額を得てきており、故に金銭感覚が一般人とは違う、と。


「あの頃は、毎日施設前に借金取りがたむろしていて、旦那が連中と喧嘩するのがある種の定期行事だったんだよ、」

「よくクビにならなかったですよね、」

「当時、ここが擁護施設ってのは名ばかりで、実際はムポア病患者の隔離施設だったのは知ってるか?」

「えぇ、勝手に行政が措置として施設に入れてたって話は、」

「そう。だから、働いてる人間も俺や旦那みたいな粗野な連中ばかりでな、」

「擁護施設じゃなく監獄だったと?」

「そんな感じだったな、、それに、今より施設の経営状態は悪く、人員も少なくってな。そんな旦那でも雇い続けるしかなかったんだよ。」


 労働条件とか定期賃金なんて無いに等しく、それに加え、ムポア病患者への偏見もあって街の連中の態度も冷たかった、と当時を振り返る。


「そんな背景もあって旦那は【特殊な副業】の方に時間を割くことが多くてな、」

「特殊な副業?」

「旦那、元傭兵だろ?その辺の腕と技術だけは神の域だからな、」

「やばい仕事をすることで報酬を得て、借金を返していったと?」

「まぁ、旦那の中で一定の基準はあったようだけど、それでも、あまり気持ちよいとは言えない内容が多かったな、、それに、副業で大金を稼いで、一旦借金を返済しても、直ぐに賭博で負けて再び借金をして、再び喧嘩をし、再び特殊な副業をする。そんな負の連鎖を繰り返してたんだよ、」

「完全にギャンブル依存症ですね、」

「まぁ、旦那の人生を振り返れば、仕方ないのかもしれないがよ、」


 仕方ない、との言葉を噛み締めるトル。その無言に何かしら妙なひっかかりを覚える青年ではあったが、そこは受け流し続きに耳を傾けた。


「そんな状況を変えたのが、キソーラさんなんだよ、」


 4年ほど前、新しい施設長として就任したキソーラは、それまでの隔離施設としてのイメージの払拭を始めた。まず、隔離閉鎖された施設ではなく、入居者を主体とした「開いた」施設に方向性を変えた。そこで働く職員に、仕事は「患者隔離」でなく「介護と擁護」であることを意識させ、自分の仕事に誇りを持てるようにしていった、、


 、、経営面でも多くを変えた。寄付金と入居者の財産、家族からの支払いだけで運営していた財務を改善し、役人と交渉し国からの助成金を受けれるようにし、更に福利に理解のある貴族からの『援助金』も取り付け、それら収支報告も一般公表するようにしたんだ、」

「資金の安定が、仕事の安定に繋がるってことですね、」

「更に、商工ギルド、手工芸ギルドとも協力関係を築いていったんだ。施設内の実情や理念を説明し、様々な消耗品を安価で購入できるよう求めていった。収支バランスも整え、納入業者との癒着も止め、前の施設長の【使い込み】も回収した、」

「癒着?使い込み?」

「以前、この施設に入居するには、初めに結構な額の入居費をもらっていたんだ。保証金としてな。帳簿を洗った結果、前施設長が、それを結構な額で着服してたんだよ。」

「え?前施設長はどうなったんですか?」

「、、未だ、行方不明だ、」

「それ◎んでるってことですよね?」

「それは分からんが、、だがキソーラさんが施設長になって以降、色々施設も変わってな、、


 、、当時の施設には、この国の貴族連中が数名『理事』とい名目で存在していた。何等仕事もせず、時折、貴賓室の椅子に座って酒を呑んでいるだけの連中だったが、、そんな連中、甘い汁を吸っていた連中と、改革を進めるキソーラとは必然のように衝突し、様々な圧力と妨害を受けたが、、、


 キソーラさんは強い信念をもって改革を進めていった。そして、最終的には理事連中全員を退任へと追い込んだんだ、、あぁ、凄いよな、、でも、当時は相当大変だったと思うぜ。」

「すごいやり手のコンサルタントって感じですね。」

「、、『子ザルさん』ってのが何かは分からないが、、その辺りを境に施設の雰囲気も良くなっていってな、定期賃金や労働時間も明確になったおかげで労働意欲のある人材を集めることができた、」


 それでも常時この職業は“人で不足”だけどな、と笑うトルは、世間のムポア病への偏見は深いからな、と付け加えた。


「でもそんな有能で美人のキソーラさんが、どうしてチャンドさんと?」

「言っただろ。旦那は、ある方面では突出した才能があるって、」


 当然だが改革を快く思わない連中も多く、何度かキソーラが襲われることもあり、命に危険が及ぶことも少なくなかった。それを悉く防ぎ、救ったのが、、


「じゃぁ、初めは用心棒的な存在だったんですか?」

「まぁ、そうとも言えるが、それだけでは旦那の日常に変化はなかっただろうな。」


 トルは、キソーラが施設長としてチャンドに対し真摯に向き合ったこと、チャンドが抱える孤独に向き合ったことが大きかった、と続けた。


「まぁ、キソーラさんが進めたい改革には『強力な抑止力』も必要だから、旦那の傭兵としての力が欲しかったのは事実だろう。だが、当時の旦那はなかなか心を開かなくってな。それで、キソーラさん、結構大胆な手段に出たんだよ、」

「大胆?」

「あぁ。当時旦那が抱えていた借金、全額立て替えたらしいんだよ、、


 自腹でな、とその額を小声で伝えるトル。その額に驚く青年。


「そんな額を?チャンドさんのために?しかも自腹で?」

「全部自腹で支払ったらしい。で、それをもって旦那と色々交渉したんだ。生活内容の改善と、仕事として自分の護衛をするようにって。当然、初めは旦那も反発したよ。勝手なことをするな、俺に関わるなってね。でも、キソーラさんは根気強く説得していってな、、


 説得内容?さぁな。その辺りは俺にも分からんよ。どんな話が2人のあいだにあったのか、深い部分は分からないが、キソーラさんが上手く旦那の心の空白を埋めていったんだろうな。先も話したが、当時の旦那は本当に自暴自棄で、なんていうか、、破滅型っていうのか、、ギャンブル依存も危険な仕事を受けるのもその衝動の結果なんだが、、


 きっと、それは旦那の過去に関係しているだろうけど、そこは、、俺にも、、、


 、、まぁ、次第にその熱意が通じたのか、自暴自棄で、破滅的な言動が多かった旦那も、少しずつ変っていってな。1年後には精神的にも肉体的にも安定するようになって、何時の間にか正常な関係が保たれるようになったんだよ、」


 まぁ、殆どキソーラさんの尻に敷かれている関係だがな、と笑う。


「なんか、有能だけど違反しまくりの刑事と、それを助ける女警視って感じですね、」

「啓示?軽視?なんだそれ?」

「いえ、こっちの話です。でも、互いに信頼する関係になったってことですよね?」

「そうだな。互いに助け、求めあう存在になったってことかな、」


 トルは付け加える。よく誤解されるが、2人が所謂男女の仲になったのは3年前ぐらいからいであり、決してキソーラが改革を進めるため、肉体を餌にチャンドを躾けたわけではないと。同様に、チャンドもキソーラの肉体を目的に行動した訳ではないと。キソーラがチャンドを変化させたのは、チャンドの心の闇に正面から向き合った結果であり、キソーラが、チャンドの孤独を共有し理解しようと努力した結果であると。


「犯罪者や依存症の人間を改善させるには、そいつらが抱える孤独を取り除くのが最も効果的な薬だって言うからな、」

「孤独を取り除く、か、」


 今も常に借金があり賭博場で遊ぶチャンドだが、トルに言わせれば、言葉使いや生活態度、借金の額は大きく改善されていき、表情も笑顔が増え、穏やかな雰囲気をまとうようになったとのことだった。


「それに伴って、旦那、随分モテるようになってな、」

「え?女性にモテるってことですか?」

「旦那の元傭兵としての【強さ】はこの街のみならず、他国の裏社会の連中ですら恐れるほどのレベルだからな。その【強さ】を求める女性は少なくないんだよ、」

「キソーラさんとの関係を知った上でも、ですか?」

「知ってるから、だよ。」


 その言葉の意図を余り深く捉えなかった青年だが、女性から「モテる」というチャンドに対し、歪んだ嫉妬を抱く青年は嫌味半分で言葉を漏らす。


「でも、今日の運搬の時、”独りで生きてるからって不幸じゃない””結婚したからって幸福だなんて言えない”って話してましたよね?」

「そうだな。まぁ、それも事実なんだろうが、俺は独りより2人で生きた方が良いと思うぞ、」

「そう、、ですか、、


“、、なんだ、チャンドさんの発言は「リア充」の上から目線か。結局、自分が幸せな立場だから言える発言か。容姿も魅力的で、戦う力もある。その気になれば金も稼げる。そんな恵まれた人間が底辺の人間を見下ろす言葉でしかないのか、”


 青年は、その捻くれた視線でトルを改めて見据えた。肉体の泡を流すトル。酒飲みで女好きではあるが、チャンド同様に穏やかな性格の人物は、丸太のように太い腕で身体を拭いていた。鉄板のような胸板。極度に隆起する広背筋と僧帽筋。テニスボールをつけたような腹直筋。絶対に喧嘩をしてはいけないと思わせるその浅黒い肉体を見て、青年は更に捻くれていった。


“普段はチャンドさんと一緒にいるから気にならないけど、この人も怒らせたら相当やばいんだろうな、”


 そんなことを呟く青年。その視線を不思議そうに見返す深緑の双眸。濡れたドレッドの髪をかき上げる。どこか幼さの残る表情とは反する肉体。そのアンバランスが不可思議な魅力を与える。


“僕にも、こんな肉体と容姿があったらな、そうしたら、もっと、”


 不貞腐れ、顔の半分を湯に沈める青年。それを横目で見ていたトルは、青年が浸かる傍に座り、何か考えを巡らせた後、言葉をかけた。



「なぁ、海、」

「はい?」

「お前、あれをする時、何を思ってしてる?」


 あれ???


「あれ」とは、恐らく、それであり、あれであり、言葉として明確ではないが、それは、男同志なら直観で分かる、恐ろしいほどの速度で理解できる「あれ」であった。


「ななにっって!!!何って、あれって、」

「お前ぐらいの年齢なら、毎日するだろ?」

「まっま毎日は、」

「するだろ?」

「、、はい」


 と、引き籠り生活の影響で、卑猥な雑談もあまり経験したことのない青年は、焦り、挙動不審気味に答えた。


「はは、別に、俺が聴きたいのは毎日かってことじゃなく、何を思ってするか、だ。ひょっとして、、俺やチャンドを想ってしてないよな?」




「いやおやいやいやぁぁあああ、決して、決してそんな妄想は、、じょっ、じょっ、女性です。成人の、法的に引っかからない成人女性との、き、き、清く、正しく、美しい、規制に引っかからないものを想像してます!」


 と、浴室に響き渡る声で青年は答えた。その反応を楽しんだトルは、同性同士の世界も十分素晴らしいこと、理解を示すべき世界であることを話した上で、再度青年に問うた。女性への性欲はあるんだろと。


「ありますよ、、僕にだって、、でもそれは、」

「素直に性欲を認めて良いんじゃないか?好意を抱く対象と性交を妄想する。お前ぐらいの年の雄なら、不思議なことではないと思うが。」

「でも、、僕のそれは、つまり、、やりたいだけであって、彼女たちを穢すだけの欲望だし、」

「欲望の何が悪い?欲望こそ最大の美であり、生命の根源だぞ?好きな対象を抱きしめたい。肌を、心を交えたいと思うのは普通のことだ。」

「そうですけど、でも、、僕のそれは、、


【醜い欲望】しかない、、との言葉を風呂に沈めた青年は沈黙した。そして、そのまま浴槽から身を上げ、逃げるように脱衣場へと向かった。その青年の背に、トルが投げかけた。


「海、上手く欲望と付き合わないと、【歪曲した欲望】で身を亡ぼすぞ。」


【欲望】は悪ではない、と言葉を投げたトルに対し、曖昧な笑みを残し青年は浴室を後にした。そして、トルの告げた【歪曲した欲望】がどういったものかを考えたくない青年は、早々に服を着て逃げるようのその場を後にした。トルの深緑色の双眸が、青年の全てを見抜きそうで、どこか怖かった。




 ****




 寝具と燭台、少しの小物があるだけの埃っぽい部屋。建物の屋根板と梁が露出し、隙間風や雨漏りもする空間。元々は資材置き場だった場所。引き籠っていた時の部屋とは比較にならないほど殺風景で寒さが染みついている部屋。青年が勤務する「特定疾患者擁護施設」。難病とされる「ムポア病」罹患者のみを扱う施設の屋根裏。そこが、この世界における青年の部屋であった。


 2年ほど前、あの森を抜け、青年が漸く辿りついた人が住む街。身寄りもない、この世界について何も分からない青年を雇い入れてくれた施設。青年は、その施設を中心とし、この世界で生活していた。


 “よく生きてこれたな、、我ながら少しは逞しくなったのかも。”


 電気もガスもなく、定期的にずれていく振り子時計が時を刻む世界。コンビニも労働基準法もなく、義務教育もない世界。常識や価値観などで多く共通する点もあるが、異なる部分も多く苦労の多い異世界。だが、なんとか森を抜け、必死の思いで辿りついたこの街で、青年は辛うじて生き延びていた。


 そんな青年、異世界で暮らす青年だが、よくある、神のような特殊な存在から特殊能力を与えられることもなく、心優しい異性と遭遇するといったイヴェントの訪れもなく、以前同様、他人と上手くコミュニケーションを図れない性格のまま、異世界で暮らしていた。


“でも、、以前のような引き籠り生活よりはましだよ。やっぱり、生きているって実感は労働と賃金あってのものだよな、”


 お金はまったく溜まらないし、異世界でも女性から嫌われ続けているけど。と苦笑いする青年。耳を澄ますと、降り積もる雪の音がする。その静寂の音が、街全体を覆っていくのが分かる。平穏な暗闇に包まれた夜。そんな異世界での生活を始めて2年が経過しようとしている夜。蝋燭の揺れる灯りに話すかのように、自分へと話かけていく、、


“2年たってもこの世界に来た経緯や理由は分からないままだな。もう考えても無駄なんだろうな。でも、意外と僕はとてつもない幸運の持ち主なのかもしれないな。チャンドさんの話では、あの森を一人で歩いて抜け出せたのは奇跡だって言ってたし、”


 噂では、森は魔獣や危険植物も多くて、今も未踏な箇所が殆どであり、街の住人も冒険者たちも簡単には足を踏み入れない場所で、自然の迷宮みたいな森とのこと。そこを抜け出て街に辿り着けたことは、相当な幸運だったとのことであった。


“幸運か、、それはそれでありがたいけど、、どうせなら、、”


 青年はベッドから身を起こし、南窓となっている板をずらすようにして開けた。颯と、外気が雪風と共に駆けていく。燭台の炎が燃焼音をあげ、驚くように揺れる。施設と切り立つ崖の隙間から見える僅かな夜空。雪山らしい、藍色の雲が勢いよく流れていく。飛沫のように頬につく雪の結晶。


 青年は再び誰かに語りだした。見知らぬ自分に向けて、、


“しかしなぁ、異世界に来てまでこの状況ってどうなんだ?ここでも女性から嫌われる縛りって、どうなんだ?異世界に来ても女性とは会話できないなんて、どんな設定だよ?仕事場にいる女性はマスクで表情とかよく分からないし、視線が怖いし、、


 あぁ、ヤンデレ、僕少女、ドジっ子、ツンデレ、清楚な仮面の腹黒女、妖艶熟女、、なんでも構わないけど、もう少し女性と知り合いたいなぁ。僕が最強の勇者とか、最強の魔法使いとかだったらモテモテになってたのかなぁ?最強の力、絶対的な力で弱者を救い、美女に慕われ、街の権力者たちからも尊敬され、国王や貴族ですら無視できない存在だったら、、折角、異世界に来たのだからそんな設定にして欲しかったよなぁ。あぁ、感謝されてぇ、、褒められ、尊敬されて、、ハーレム状態で、、”




“そうなる約束だったじゃないか?”


 ふと、微かな光から、そんな言葉が聞こえた、気がした。


 不思議そうに周囲を見渡す。警戒する鳥のように首をカクカクと動かす青年だが、それが自身の心が生み出した願望としての幻聴であると気づくと、無駄な自問自答を止め、窓板を閉め、蝋燭の灯りを消してベッドに身を沈めた。そして、暫くベッド上で楽な姿勢を求め蠢いた後、自身の陰部へと指を伸ばし「あれ」を始めた。【歪んだ欲望】を吐き出す行為を。そうすることが自然であるかのように、経験したことのない衝動を想像し、、清くもない、美しくない、【醜い】妄想を続けていった。

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