俺と彼女とお互いの秘密

@kana_01

第1話 俺と彼女とお互いの秘密


 俺、神崎龍之介(かんざきりゅうのすけ)。大そうな名前だけどただのサラリーマン。今年で三年目を迎える。


 俺には、今付き合っている人がいる。同じ会社で営業事務をしている女性西島まどか(にしじままどか)。同期で入ったけど、営業と技術職ではオリエンテーション以外は顔を合わす機会もないので始めは知らなかった。



 俺の仕事は会社が受けた仕事を発注元のお客様の所に行って一緒に開発する事だ。だから普段は会社にはいない。


月に一度帰っても午前中、顔を出すだけで直ぐに作業場所へと向かうから会社の人の顔は同じ作業をしている仲間以外知らない。



 入社して一年目の年末、部内で忘年会をすると言うので久しぶりに会社に戻る。ビルのゲートを社員証で通り、エレベータに乗って自分の部署のあるフロアのボタンを押す。


 エレベータの中には何人かいたが、一応入社したてなのでエレベータボタンのある隅に立って、各フロアに降りて行く人にお辞儀をしていたら、最後に女性と俺が残った。ショートカットで少し丸顔、目がクリっとしていて少し背の高い女性だ。



「ねえ、君、この会社の人?」

「はい」

「さっきから降りる人にお辞儀していたけど、あの人達業者の人よ」

「えっ?!お、俺、会社に戻るの久しぶりで誰か分からないから年配者はみんな挨拶しておけば間違いないなと思ったんだけど…。そっか業者さんか」

「あははっ、面白い人。何処の部署の人?」

「第一開発本部第二開発部技術課です。あっ、名前は神崎龍之介って言います」

「私は西島まどか。第一開発本部第二営業部よ。結構近かったね」

「そうですね」



 俺は、自分の降りる階に着くとそのままエレベータを降りた。西島まどかさんか。結構可愛かったな。



 俺は、エレベータを降りると顔認証で第一ドアを開け、更に社員証兼用パスカードと指紋認証で第二ドアを開けた。


 久々の本社だ。でも周りがあまり知らないのでキョロキョロ見てしまう。取敢えず自分の席に着くと隣に座る同僚が声を掛けて来た。




 忘年会は、大会議室を使って行われた。皆立食だ。今年は第二営業本部と合同でやっている。その事にはあまり考えずにいると


「神崎君」

「えっ?」

 声を掛けられた方を振り向くと


「あっ、西島さん」

「ねえ、この後、二人で食事に行かない。どうせここではお腹膨らまないでしょ」

「えっ?」

「君、えっとしか言えないの」

 入社して初めて会社の女性から声を掛けられて緊張してしまった。


「いや、そんな事はないですけど。いいですよ。食事」



 そんな事からまどかと俺の関係が始まった。



 毎週土曜日は、彼女と会った。

 でも最初の日は三十分遅れ、二回目は四十分遅れ、三回目も二十分遅れ。でも彼女はごめんの一言も言わない。


 その後も約束の時間に間に合う様な事は一度も無かった。だからこの子は、俺の事を単に顔見知り、都合の良い男友達程度に思っているんだろうと思って、俺から遅刻した事をとやかく言うつもりはなかった。


 可愛いから、それだけだった。午前十時に表参道で会うとか、渋谷で会うとかしても午後六時には帰る彼女を見て、まあこんなもんかと思った。だって、誘うのはいつも俺からだ。彼女から誘われる事はなかった。


 そんな日には俺が住んでいるマンションの近くのスナックで一人飲んで午前零時になる前に帰るという習慣が付いた。


 いつもの様にカウンタに座ろうと思ったら一杯だった。仕方なくマスターを見るとテーブル席の端を見たのでそこに座って一人で飲んでいると

「あの、ここに座っていいですか?」


 

 目の前に俺と同じ二十代半ば位の女性二人が声を掛けて来た。俺はマスターの方を見ると頷いている。

「いいですよ」



 ここではあまり人とは話さずに飲むのでちょっと驚いたけど、仕方ないと思って飲んでいると

「あの、いつも土曜日とか偶に週中にここに来ていますよね?」


 何この人?誰?全然知らない人からそれも女性から声を掛けられたのでジッと顔を見てしまった。相手の女性も俺が睨んだ様に見えたのか不安な顔をしている。


 マスターが近付いて来て

「神崎さん、この人達もここの常連さんなんだ。話をしてあげて」

「えっ、はい」


それを聞いた女性は

「すみません」

「いえ、こちらこそ。突然話しかけられたのでちょっと驚いてしまって」


 良く見ると何となく似たような雰囲気の二人。俺に声を掛けて来たのは、少しぽっちゃりとした肩まで髪の毛がある女の子。もう一人は細めで背中まで髪の毛がある女の子だった。


 その日は、何となく言葉を合わせて午前十一時位にはスナックを出た。


 部屋に戻ってシャワーを浴びながら、そう言えば連絡先も知らないな。まあ今日だけだろう。そう思って気にもしなかった。




 次の週は、普通に出先で仕事をして帰った。土曜日まどかと会おうと思ったけど、何となく止めた。

 まどかは可愛いし、会っている時はとてもいい子だけど、俺が気にしているだけで、向こうは俺をただの男友達位にしか思ってないんだろう。まあいいや。




 私、西島まどか。会社の自分のデスクで仕事をしている。今日は金曜日。いつもなら神崎君から連絡が有るはずなのに、今週は来ない。どうしたんだろう。


彼は私に好意を寄せているのが良く分かる。私も彼の事は好き。でも夢中なるのも悔しいし、君と付き合っているんだよ、大切なお友達としてって感じでいる。


初めて会った日は、寝坊して本当に遅刻してしまったけど、彼は何も言わないからこの位は良いのかと思ってしまった。


 二回目も本当に遅刻したけど彼は何も言わなかった。彼は私の事が好き。だから待っていてくれんだ。


じゃあ、少し位遅刻しても問題ないか。それからというもの会う時、いつも遅刻する私に必ず待っていてくれる彼に確信した。


彼は間違いなく私の事が好き。だから告白してくれたら、待ち合わせ時間より早く行く事にしよう。でも明日どうしようかな?



「西島、明日空いているか?」

「あっ、渡辺先輩。明日ですか。うーん」


 もしかして当日神崎君から連絡来るかも知れないけど。でもいつも木曜日までには来るから、今週は来ないかな?


 渡辺先輩はちょっとイケメンの三十半ばの男性。結婚している。確か子供もいるはず。何で私に声を掛けたんだろう。


 でもいつも色々教えて貰っているし、一回位いいかな。もし神崎君から連絡有ったら断ればいいだけだし。


「いいですよ。明日空いてます」


 次の日は渡辺先輩と会った。渋谷午前十時。勿論遅刻なんかしない。十分前には待合せ場所に着いた。


 渡辺先輩は大人の雰囲気で私を楽しませてくれた。神崎君とはしない夕食もご馳走してくれた。そして午後九時には別れた。



 次の週は神崎君から連絡が有った。表参道駅午前十時に待合せ。私はいつもの様に?午前十時半に待ち合わせ場所に行った。


彼は何も言わない。昼食食べたり散歩したり、美術館見たりして午後六時には別れた。彼は夕食を食べようと言ってくれない。




 西島さんは今日も三十分遅れで待ち合わせ場所に来た。当たり前の顔をしている。なんか俺を下に見ている気がして来た。会ってやっているんだって。でも俺の心はこの子に向いているから怒るに怒れない。


 そしていつもの様に午後六時には別れた。本当は夕食にでも誘いたいけど、初めて会った日に夕食誘って断られているからな。


 俺は、いつもの様に行きつけのスナックによるとカウンタが空いていたのでそこに座ると

「神崎さん、あっちで一緒に飲みませんか?」

 振り向くと先週会った、女性二人が居た。


「いいんですか。俺で?」

「だから声掛けました」

 テーブル席に行くと


「ゆう、先に聞いときなさいよ」

「でも…。あの連絡先教えて貰えませんか?」

 何でだろう。でも特に問題ないかな。同業他社って感じでは無いし。


「いいですよ」

「やったね、ゆう」


 俺はスマホを取出して連絡先を二人と交換した。

「あの、私、武石優香(たけいしゆうか)といます。宜しくお願いします」

「俺、神崎龍之介」

「良かったね。ゆう。私は高坂瑞希(こうさかみずき)。ゆうの学生時代からの友人。彼女まだ処女だから」


 ブフッ!

 吹き出しそうになってしまった。武石さんが顔を真っ赤にして下を向いている。


「ゆう、言いたい事有るんでしょ」

「あ、あの明日空いていませんか?」

「えっ?!」

 じっと俺の顔を見ている。まあ明日はなんの用事も無いしな。


「空いてますけど?」

「じゃあ、明日会ってくれませんか?」

 なんて答えればいいんだ。スナックで会って二回目で誘ってくるとは。



「ねえ、神崎さん、空いているなら会ってあげて」

「まあ、いいですけど」

「やったぁ」

「良かったね。ゆう」



 その後、話を聞くと武石優香は、俺がここに通い始めてから少しして土曜の夜とか偶に週中も来ているらしい。でもその時は何故か必ず俺がいるらしくて毎回見ている内に興味を持ったそうだ。


 そこでマスターに相談した所、俺がまだ彼女が居ないと知って近付いて来たらしい。俺のどこが良いんだろう?



 翌日曜日。俺は渋谷で武石優香さんと会った。話をして映画を見て夕飯食べて、その足でスナックに行って別れた。彼女も近くらしい。まあそうだよな。こんな時間までスナックに来れるんだから。



 それから、日曜日は、武石さんと会うようになった。土曜日は、西島さんと会っている。



 そしてそれが二ヶ月位続いた夜、

「あの、神崎さん、今日はあなたの部屋に行きたいです」

「えっ、でももう午後八時ですよ」

「だからです」

 どういう意味で言っているんだ?



 スナックには寄らず俺の部屋に来ると取敢えず

「コーヒーでも淹れようか」

「要らないです」


 そういうと俺の背中に抱き着いて来た。

「あの、私では駄目ですか」

「えっ?!」

 これってあれだよな。でも俺この子の事友達位にしか思っていないし。


「あの、もしまだ神崎さんにお付き合いしている人がいないなら、私が…。だから今日はそのつもりで来ました」



 俺は、彼女を落ち着かせる為にダイニングの椅子に座らせると

「俺は、武石さんの事、仲のいい友達だと思っている。でも、だからってするって事には…」

「いいんです。でも誰もお付き合いしていなければ、私を好きになって貰えるチャンスも有るって事ですよね。だったら今日、お願いします」

「でも」

「お願いします」


 もう、彼女は必至な感じだ。このまま何もしないで帰らせる方が危ない気がする。

「分かった」



 彼女にはシャワーを浴びて貰った。もしそれで気持ちが冷めればという思いも有ったが、風呂場から出て来た時の彼女の上気した顔を見て俺は諦めた。



……………。


「っ!」

「止める?」

「いえ、大丈夫です」


 彼女は本当に初めてだったらしく、相当我慢したようだ。だから俺は無理せずに一回だけして止めた。勿論出していない。

 

「神崎さん、こういう事色々瑞希から聞いています。私の中で最後までして下さい。今日は大丈夫です」

「分かった」


 そこまで言ってくれるならと思い、最後までさせて貰った。彼女の反応はさっきとは少しだけ違った。




翌週も日曜日に会った。土曜日は西島さんと別れた後、スナックで会っている。



そして翌週の土曜日、西島さんは待ち合わせの時間に来ていた。どうせいつもの時間には来ないと思ったから俺は十五分遅れで来たんだけど。

「神崎君、遅いよ」

 えっ、どういう事。なんで彼女が先に来ているの?


「ごめん。でもいつも西島さん、遅れて来るから」

「…そ、それはごめんなさい。本当は…。ねえ、今日夕飯一緒に食べない?」

「えっ、いいけど」

 どういう事だ?


「神崎君、全然夕食誘ってくれないから、我慢出来なくなった」

「でも最初に会った日、夕食誘ったら、嫌な顔して断られたから、俺なんかじゃ嫌なのかなと思って」

「嫌なんかだったら、毎週君と会わないよ。あの時は本当に体調が悪かったの。でも神崎君と会いたくて」

「えっ!」


「もう、神崎君が言うまで待っていたけど、もう我慢出来ない。神崎君、私と付き合って」

「えっ、でも西島さん、俺の事、友達位にしか思ってなかったんじゃ、だから遅刻しても平気な顔しているのかと思っていたんだけど」

「ごめん、本当は神崎君から告白されるの待っていたの。そしたら待ち合わせ時間前には来るつもりだったんだけど。西島君が中々告白してくれないから」

「そうだったの。でも何となく」

「だったら、いまから行こう」

「何処へ?」

「来れば分かる」



「あのここって」

「いいの、入るよ」



 信じられない気持ちで一杯だった。あれだけ片思いだと思っていた西島さんが、本当は両思いだったなんて。


俺は彼女が初めてだと思い丁寧に優しくしてあげた。でも初めてじゃなかった。痛がってはいたけど最初の抵抗はなく入った。


これだけ可愛いんだから当たり前だよなと思いつつ、何となく残念な気持ちになった。

勿論、そんな事はかけらも顔に出さないけど。それに彼女は目を閉じて大きな声を出しているから分からないだろう。



……………。



「ふふっ、これでやっと恋人に慣れたね。ねえ、もう名前呼びで良いよね」

「いいよ」

「じゃあ龍之介。もっとして」

「分かった」


 龍之介と結ばれている。本当に私が望んだ事。本当は初めてを彼に上げたかった。あんな事が無ければ。



 一週間前。私は渡辺先輩に誘われて夕食を食べた時、少し飲み過ぎてしまった。普段飲まない私は、先輩に支えられながら、部屋に入った。そこまでは覚えている。気が付いたのは


「っ!、い、痛い」

「ちょっと我慢して」

「いやー!」

 結局最後までされてしまった。


「渡辺先輩酷いよ。何でこんな事するんですか?家族が居ますよね?」

「今、妻とは別居中なんだ。それに西島さんが魅力的だから。男だったら我慢出来ないよ」

「最初からこれが目的だったんですね」

「そんな事ないよ。俺は西島さんの事が好きだ」

「私は、こんな事をする渡辺先輩が嫌いになりました。それに私は好きな人がいます。付き合っている人がいるんです」


「えっ、それ本当。でもこうやって会ってくれているじゃないか。本当は居ないんだろう」

「います」

「まあ、そんな事どうでもいいよ。偶にはこうして会ってくれ」

「駄目に決まっているでしょう。私帰ります」

「終電無いよ」

「タクシーで帰ります」


「そうか。でも会ってくれないなら、この事会社に広めるよ。西島は誰にでもやらせてくれるビッチだって」

「何を馬鹿な事言っているんですか」

「馬鹿な事じゃないさ。事実なんてどうでもいいんだよ。噂というのは、それが立ったこと自体が問題なんだ。そんな噂がある君を人事がいつまで会社にいさせてくれると思うのかね」

「そんなぁ」




「どうしたのまどか。何か険しそうな顔をしているけど。やっぱり俺とした事後悔しているの?」

「そんな事ない。そんな事ない。龍之介。今日は一杯私を抱いて。思い切り抱いて。告白してくれるのが遅かった龍之介の所為だから」

「俺の所為?」



 全然、龍之介の方がいい。優しいし、無理しない。あいつなんかよりよっぽどいい。あの事龍之介に話した方がいいかな。でも会社辞めさせられるのも困るし。



 その日は、結局ずっとそこにいた。延長費用が掛かったけど、そんな事全然気にしない位良かった。


 午後九時になって

「まどか、毎週会ってくれるよな」

「もちろんだよ。龍之介、もう遅刻しないから。ねえ、今度龍之介のマンションに行きたい」

「えっ、構わないけど。あんまり綺麗じゃないし」

「だったら私が綺麗にしてあげる」



 翌週、渡辺先輩に誘われたけど断った。そして朝から龍之介と会って、ちょっと早めの夕食も摂って、思い切りして貰った。とても気持ちいい。これで良いんだ。




 俺は、土曜日にまどかと会う様にしているので土曜の夜はスナックには行かない事にしている。まどかと会った後の余韻を壊したくなかったからだ。


 マンションの自分の部屋に戻って、シャワーを浴びようとした時、スマホが震えた。画面を見ると優香さんからだ。


『はい、神崎です』

『龍之介君、先週も今週も会えていないですよね。スナック来ないですよね』

『すみません。用事が立て込んでいたので』

『そうですか…。会いたいです。明日会えませんか』

『分かりました』


『じゃあ、龍之介さんの部屋で良いですか?』

『えっ、いや俺の部屋はちょっと。最近掃除していないし』

『良いです。私がしてあげます』

 流石にそれは不味い。


『外で会いましょう』

『…分かりました』


 龍之介さんの部屋には行っている。男の人の部屋って感じだった。あの時は夢中だったからあまり見ていなかったけど、女性がいる様な形跡はなかった。彼は単に恥ずかしいだけなんだ。


 可愛い。龍之介さん。まだ私の事、好きになってくれているか分からないけど、こうして連絡すれば会ってくれるんだから大丈夫だ。




 私は、龍之介と別れて自分の家に戻った。少し遅くなったけど、もう社会人になって三年目。それにお年頃。両親も大目に見てくれているみたいだ。


 出来れば龍之介を両親に紹介したい。彼だって私の事を好きだと言ってくれた。彼がプロポーズしてくれれば、あんな奴がいる会社も辞める事が出来るんだけど。



 翌週、木曜日に渡辺先輩から声を掛けられた。

「西島さん、先週は会えなかったけど、今週は良いだろう。流石に今回断るとあれするぜ」

「何でそんな事するんですか?いいじゃないですか。あの時だけで」

「おまえがいいからだよ」


 この女は自分の体が分かっていない。俺が開発して俺だけの女にしてやる。こんな口をきけるのも今の内だけだ。


「嫌です。会いません」

「分かった。そこまで言うなら、後一回で良い。そしたら声も掛けない」


 本当だろうか。もしまた同じ事されたら。そうだ、いやいやさせられている証拠を作ればいいんだ。



 私は、仕方なしに龍之介と会った次の日曜日、渡辺先輩と会った。この前は酔わされてされてしまったけど。今回は嫌という事をも思い切り言いながらさせてやればいいんだ。


 そう思っていた。



 ゆっくりと触るか触らないかしながら私が感じやすい所を弄って来る。なにこれ。


 気が付くと何回も意識が遠のく位にやられてしまった。


「ははは、随分気持ち良かったみたいじゃないか。どうだい。もっと気持ち良くしてあげるよ」

「や、止めて…」


 もう、分からなかった。ただ翻弄されていただけだった。そして意識を失った。


 ふふふっ、気絶してしまった様だ。これで体に染み込んだろう。



 段々、意識が戻って来た。まだ私の大事な所にあいつが入っている。

「これが最後だ」

「あうっ」




「今日はこの位にしておこう。またすればいい」

「もう絶対に会いません」

「どうかな。君の体が忘れられればね」



 渡辺先輩は、シャワールームに行ってしまった。私も入らないと汗とあの匂い気持ち悪い。

 あいつが出て来たので、私も急いでシャワールームに入って、中から鍵を掛けた。



 シャワールームから出るともうスーツをしっかりと着込んでいた。

「さあ、早く帰ろうか。お腹空いただろう」

「結構です」


 私は急いで下着と洋服を着ると急いで外に出た。もうあいつなんて知らない。



 気持ち悪さが残って、外に出ると直ぐに龍之介に連絡した。

『龍之介、明日会って』

『えっ、どうしたんだ。明日月曜日だよ』

『会いたい、絶対に会いたい。何時でもいい。龍之介の部屋に行くから』


 どうしたんだ。まどか。


「じゃあ、明日、渋谷駅の傍にある喫茶店で午後八時で良いか。それより早い時間はちょっときつい」

「分かった。待っている」



 翌日、俺は仕事が終わると急いで渋谷の喫茶店に行った。十分遅れている。

「まどか、ごめん」

「あっ、龍之介。行こう」

「えっ、あ、うん」



「俺のマンション、初めてだよな」

「うん」

「どうしたんだ。会えるのは嬉しいけど」

「理由は部屋に着いたら」

「分かった」



 部屋に着いて玄関を開けながら

「綺麗じゃないから」

「いいそんな事」


 玄関に入って、部屋に入った所でいきなりまどかが抱き着いて来て。

「お願い、龍之介。抱いて思い切り抱いて。お願いだから」


 龍之介、忘れさせて。お願い思い切りして忘れさせて。



 夕食も摂らずにまどかがひたすら求めて来た。時計を見るともう午前零時近くになっている。


「まどか、帰らないと」

「嫌、帰らない。今日は泊まる。明日の朝までして」

「どうしたんだ。一度シャワーを浴びよう」

「うん」


 二人でシャワーを浴びてから、冷凍スパをチンして食べた。それを食べ終わると、またまどかが抱き着いて来た。


 もう午前三時だ。このままだと明日仕事に行けない。でもなんでここまで。まどかは初めて抱いたのは三週間前だ。何か有ったんじゃ。


「まどか、何か有ったのか?」

 首を横に振っている。


「でもまどか、初めてした時からまだ三週間だよ」

「いいの。私が龍之介にして欲しいから」

 あいつからされた事がまだ抜けていない。このままでは不味い。


「やっぱり、なんか有ったんだ。顔に出ているよ」

「龍之介」


「まどか、俺はお前の事が好きだ思い切り好きだ。だから何でも聞く、話してくれないか?」

「話したらもう別れるなんて言わない」

「何言っているんだ。そんな事言う訳無いだろう」



「土曜日龍之介に会ってして貰ったけど、別れた後もなんか、むずむずしてしまって。だからこうしている。ねえ、明日休もう。私を抱いて」

 渡辺の事は流石に言えない。何とかして龍之介に忘れさせて貰うしかない。


 俺、もしかしてとんでもない性欲女を好きになったんじゃないのか。


「まどか、とにかく少し寝よう。またするにしても、流石に」

「そうだね。じゃあ、少し寝ようか」



 次の朝、目が覚めたのは午前十時を過ぎていた。まどかはまだ寝ている。このままだと無断欠勤になってしまう。

 俺はベッドを静かに抜け出すとスマホを手に持って寝室を出た。


「神崎です。急ですみませんが、体調が悪いので今日休ませて下さい」

「神崎君か、そうか仕方ないな。分かった、メンバには伝えておく」

「ありがとうございます」


 俺は連絡が終わると寝室に戻った。ゆっくりベッドの横に座った。とても可愛い俺の彼女まどかが一糸まとわぬ姿で寝ている。

 それにしてもどうしたんだろう。この前の事と言い、今回の事と言い、絶対に何か有ったんだ。


 寝顔を見ているとゆっくりと目を開けて来た。

「あっ、龍之介」

「目が覚めた、まどか」

「うん」

「会社に連絡しないと無断欠勤になるよ」

「あっ、そうだ。私のスマホ取って」


 俺はベッドの横に置いてある彼女のスマホを取ってあげると彼女は直ぐに会社に電話した。


「龍之介は連絡したの?」

「ああ、さっき連絡した」


「じゃあ、今日はずっと一緒に居れるね」

「そうだけど」

「何か都合悪い事あるの?」

「そうじゃなくて」

 俺は素直にまどかに俺の疑問をぶつけた。


 まどかは黙ったままだ。やっぱり何か有るんだ。

「まどか、昨日も言ったけど、まどかから何を聞いても怒らないし、別れるなんて言わないから」

「ごめん、今は言えない。お願い、もう少し私の横に居て」

「分かった」



 その日は、結局午後三時までまどかとしていた。午後六時にまどかを送って渋谷まで行くと

「龍之介、お願いがある」

「なに?」

「もし、もしもだよ。私が会社を首になったら、私を養ってくれる?」

「はぁ?何言っているか分からない。きちんと説明してくれないと分からないよ」

「そうだよね。ごめんね。変な事言って。じゃあ、私帰るから。あっ、また月曜日泊りに来るかもしれない。その時は宜しくね」

「あ、ああ」

「じゃあ、また」


 彼女はそう言うと改札の中に入って行った。



 この週の土曜日、まどかと会って、映画を見たり、食事をしたりした後、あれをして午後九時に別れた。


 翌日、優香さんが俺のマンションを訪ねて来た。約束してなかったので驚いたけど、追い返す訳にも行かないので、その日はおうちデートになった。


 その夜はまどかから連絡はなかった。



 そして次の土曜日、まどかと会ったにもかかわらず、月曜日俺の所に来た。今度は着替えもしっかりと持って。その日もまどかは激しく俺を求めて来た。どうしたんだろう。




 そんな時間が一ヶ月位続いた日。仕事現場でお昼休み中に仲間から変な話を聞いた。

「神崎知っているか。西島まどかって営業事務の子が会社辞めさせられたんだって」

 一瞬、箸を落としそうになったけど


「へえ、なんで?」

「なんでも、会社の中で西島さんがヤリマンビッチだって噂が流れて。誰でも股開く女って噂が立ってさ。実際、何人かの男としたって噂もある位だ」

「え、ええ、ええーっ!」

「お前、何でそんなに驚いているんだ?」

「いや、いきなり凄い事聞いたから」

「まあ、神崎には女っけないからな」

「…………」


 俺は、食事を先に終わらせてその場を離れると直ぐにまどか連絡した。


 あっ、龍之介だ。私は直ぐに出た。

「龍之介!」

「まどか、今日会えるか?」

「うん」

「そうか、じゃあ、渋谷のいつもの所で午後八時で良いか?」

「うん」


 やっぱりまどかの様子がおかしい。彼女がヤリマンビッチなはずがない。そう信じたい。



 午後八時、少し前に俺は渋谷に来た。まどかは待っていた。

「まどか、俺のマンションに来い」

「うん」

 彼女は下を向いたままだ。



 マンションの部屋に着くと床に一緒に座って

「まどか、会社くびになったって聞いた」

「首じゃない。自主退職」

「どういう事か教えてくれ」

「分かった」



 私は、少しずつ正直に話した。龍之介と恋人になる前、渡辺先輩と会っていた事。一ヶ月した後、夕食中にお酒を飲み過ぎて初めてを奪われた事。


そしてそれから脅されて何回も会ってしまった事。意識が無くなるまで何回もいかされてしまった事も素直に全部話した。


 でも流石に龍之介の事をこれ以上裏切る訳には行かないと思い、会わなくしたら、あの噂が流れた事も話した。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい」


 だから初めて月曜日会った時、あんなに乱れたのか。


「なんで、最初にここに来た時、話してくれなかったんだ?」

「もう、無いと思っていた。渡辺なんかともうしないと思った。でも脅されて」

「何回も俺に言う機会あったよな。なんでこんな事になるまで」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

「謝って済む事じゃないだろう。ところで聞くけど、最初は本当に渡辺が強制したんだよな、まどかが同意した訳じゃないよな」

「絶対に違う」

「あと、その後も脅されてされたんだよな」

「うん」

「分かった、明日仕事休むぞ。まどかもだ。弁護士と相談する」

「分かった。ねえ、今日泊まっていい」

「…………」


 どうすればいいんだ。明日弁護士と相談すると言った手前、彼女が居ないと困るけど、俺は今とても彼女と一緒に同じベッドに入る気はしない。


「いいよ、シャワー浴びて来なさい」

「ありがとう」


 彼女が出てくると、何回か泊りに来て置いてある彼女の下着と俺のTシャツを渡した。身長差は二十センチ以上ある。シャツが彼女の膝の側まで来ていたから問題ないだろう。


「俺もシャワーを浴びて来る」

「うん」


 シャワーを浴びて出てくるとまどかはベッドに座っていた。俺の顔をジッと見ている。


「まどか、ごめん。今日だけは一緒に寝れない。ベッドで寝てくれ。俺は下で寝る」

「やだ!龍之介が下に寝るなら私も下に寝る」

「まどか!」

「龍之介、お願い」

「分かった」


 俺はまどかと一緒にベッドに入ったが、とても体を合す気に慣れず彼女に背を向けて寝た。


 龍之介が背を向けるの当たり前だよね。やっぱりあの時、龍之介にきちんと言っておけば、あの時彼は

『まどか、俺はお前の事が好きだ思い切り好きだ。だから何でも聞く、話してくれないか?』


あの言葉のままに話をしていれば。もう後悔しても遅すぎる。でも彼は私と一緒に弁護士の所に行くと言ってくれた。まだ私を捨ててはいないんだ。



俺は、まどかに背を向けながら、頭の中がパニックになっていた。

えっ、初めては営業の渡辺に取られて、会うたびに気絶するまで何回もいかされた。なにそれ?


じゃあ、俺は何なの?確かにまどかは一杯感じているけど、気絶するとかじゃないし、行くなんて偶にだけ。

俺より渡辺って奴のが上手って言っているんだ。じゃあ、俺は何なの?もうめんどくさくなって来た。寝よ。



 翌日、俺は日本弁護士会を通じてこの手の専門弁護士を紹介して貰い直ぐにまどかと一緒に会った。

 聞けば不同意性交罪は非常に思い罪になると言う。でもその後の脅しや強制は、まどかの対応からして、渡辺に罪を問えるか難しいかも知れないと言われた。


 俺は、直ぐに弁護士の初回手数料を払うと動いて貰った。


 弁護士はまどかの証言から会社の人事に連絡して事の経緯を説明し、人事部長やコンプライアンス委員会のメンバと会って、事情を説明したらしい。


 会社は直ぐに渡辺を呼びつけ事情を聞いたらしいが、彼は同意の上だと言い張ったらしい。


 しかし、社内調査を行った所、彼女の酷い噂の出所は渡辺だという事が判明してからは観念したらしく、全て白状した。


 渡辺は別件で自分の浮気で妻とも係争中らしく、それに今回の事が重なったようだ。会社側は直ぐに渡辺を懲戒解雇した。


 まどかの弁護士は、多額の慰謝料を渡辺から取ってくれた。その間、まどかは自分の実家にいて、偶に俺と連絡を取り合った。


 随分時間がかかったけど、全部が終わった時、俺は、まどかとどうすればいいか考えた。


彼女と別れる。


彼女と元に戻る。


どちらも難しい。別れるのは簡単だ。普通は別れるだろう。それに俺は優香もいる。まどかに固執する理由はない。それに会社は俺とまどかの関係を知らない。

じゃあ、別れるか。


スマホが震えた。まどかからだ。

『龍之介、まどか。会いたい』

 別れるにしても元に戻るにしても会う必要はあるだろう。


『分かった』

『そっちに行ってもいい?』

『外で会いたい』

 部屋で会えばなし崩しになる可能性もある。


『分かった。じゃあ、明日の土曜日朝からでもいい』

『ああ』


 龍之介の声を聞いて、もう関係が戻れない事を悟った。当たり前だよね。


 次の土曜日、渋谷のいつもの所で会うと

「まどか」

「なに?」

「まどか、前に言っていたよな。私が会社を首になったら、私を養ってくれる?って。あれ覚えているか?」

「えっ、一度も忘れた事ない」

「そうか」


 彼は、それだけ言うと

「俺の部屋に来るか?」

「いいの?」

「ああ」



 俺は、まどかから昨日連絡有った後、優香に連絡した。日曜日会いたいと。彼女の気持ちをもう一度聞いてから判断するつもりだった。でも彼女から

『最近全然会ってくれないですよね。龍之介さん、見ましたよ。渋谷で別の女の人と会っている所。あの人誰ですか?』

 そうか、見られていたのか。でも別に驚きもしなかった。いずれ分かる事。


『答えられないんですね。浮気者。死ね』

 それで会話が終わった。あっけなかった。



 それから一年後、俺はまどかに婚約指輪を贈った。


―――――


 いきなり思い付きで一日で書いた短編です。もし評価頂ければ連載にしてもいいかなと思っています。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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