第68話

 ソーハと豆太郎が真っ青になっていたその頃。


「やーっ!」


 リンゼは1人大立ち回りしていた。

 対峙するのは3体のアースゴーレムだ。

 リンゼは水球を放って距離を詰められないように注意して戦っていた。


(大きい敵だからな、懐に入られて一撃喰らったらまずい)


 リンゼは機動力に優れているが耐久力は低い。太い土の腕で殴られたらたまったものではない。

 アースゴーレムの一体が地面を殴る。舞い上がる砂埃に、一瞬視界を奪われた。

 気がつけば、ゴーレムはリンゼを中心として3方向に散らばっていた。


(しまった、囲まれた!)


 ゴーレムたちが一斉に襲いかかってくる。

 リンゼは慌てることなく、大きな水球を作って1体目に放った。水球はゴーレムの頭部を包み込み破壊した。

 さらに2体目のゴーレム目掛けて跳躍し、杖の先端を敵の足元に向けて、0距離で発射。

 至近距離の攻撃に、2体目のゴーレムの短い足が崩れ落ちた。そのままバランスを崩して倒れ込む。

 水球を爆発させた勢いで空中に跳ね上がり、最後の3体目の突進をかわした。


「これでとどめだ!」


 小さな水の弾丸達が3体目のゴーレムに風穴を空ける。

 土埃を撒き散らしながら、ゴーレム達は戦闘不能になった。


 リンゼは大きく息をついて汗を拭う。

 ゴーレムは土でできたモンスターだ。魔力が満ちればまた動き出す。とはいえ当面は安全だろう。

 安心したらお腹が減ってきた。もうそろそろお弁当の時間だ。

 小屋に戻ろうと歩き始めたとき、背後で地面が揺れた。

 慌てて振り返ると、2体目の足を崩したゴーレムが上半身を引き摺るように向かってきた。

 まだ動くのか、と杖を構えた時だった。


「きゅー!」


 という珍妙な声と共に、2体目のゴーレムの頭上から流水が降ってきた。


「!?」


 水びたしになったゴーレムが、体をたもてず地面に倒れる。今度こそ起き上がってはこなかった。

 リンゼの視線はゴーレムから、上に。

 水を降らせたなにかが、ぱたぱたと空から舞い降りてきた。


「きゅ!」


 小さい体を反らせて「どうよ?」とばかりに鳴いたのは──黒い龍。


「新手か!」


 杖を構えて、ふと気づく。

 龍の尻尾に何やらくっついているのだ。

 それは、見覚えのある小さなリュックサック。


「あ……、もしかして、魔人の子のダンジョンの魔物?」


 リンゼが指差すと龍がうんうんと頷いた。


(加勢はいらないといったのに、龍を寄越したのか)


 実際は勝手に着いてきたのだが。

 龍はちゃっかりとリンゼの肩にのり、尻尾についたリュックを差し出した。

 リンゼは小さなリュックを抱えて、その持ち主のことを考える。

 魔人はみんな、凶悪な生き物だと思っていた。

 けれどソーハは自分の命を助けた。そして今日も自分の手伝いを申し出てくれた。


(私の知る世界は、もしかしたらとても狭いのかもしれない)


 魔人の元で平然と料理をする豆太郎を見ているとそう思う。

 善悪の判断をするには、自分はまだまだ未熟なのだ、と。


(ししょーの傍にいると、学びが多いな。魔人とか、もやしとか)


 その2つを同列に並べるのはいかがなものか。

 リンゼはもっと豆太郎の傍で学びたい、と思った。そのためにも、今日の貢ぎ物を頑張らなければ。


「よし、戻るぞ、子竜!」

「きゅー」



 □■□■□■



 その頃の山小屋。

 龍が行方不明になったことに気づいた2人は、大慌てだった。


「急いで探しに行くぞ、ソーハ!」

「分かってる!」


 リンゼに見つかる前に龍を確保する。

 そう決意して小屋から飛び出した。


「帰ったぞ」

「きゅー」

「ああっ、恐れていた事態がすでに起きている!」


 肩に龍、腕にリュックを抱いてリンゼが帰ってきた。

 どう説得しようかと、豆太郎は無駄に手を動かす。


「り、り、リンゼ。あのな」

「ああ、ししょー。魔人の子の魔物が助っ人にきてくれたんだ。一緒に連れて帰ってきたぞ」


龍の両脇を抱えて、はい、とソーハに差し出した。


「助力に感謝する」

「あ、ああ」


ソーハは戸惑いつつも龍を受け取る。

事情も分かっていない龍は「役に立ったよ、褒めて」と言わんばかりに首をソーハの方に傾けてきた。


「えーと、リンゼ。気づいてない?」

「? 何が?」


リンゼはきょとんとした顔で首を傾げた。

ソーハと豆太郎は即座にアイコンタクトを交わし、1つの結論に達した。

すなわち「このまま誤魔化しちゃおうぜ」だ。


「いや、なんでもない! 魔物の掃討、ありがとう! さすがリンゼだ、よっ、冒険者!」

「そ、そうだな。人間にしてはよくやった。褒めてやろう」

「そ、そうかな。へへ」


2人分の賛辞を浴びて、リンゼは硬い表情を崩してちょっとだけはにかんだ。


「よし、それじゃあリンゼが休憩したら山菜採りだ! 本腰入れるぞー!!」

「おー!!」


3人はスオーロの山小屋を休憩地点にさせてもらいながら、山の幸探しに熱中したのだった。

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