第9話

私は書籍部屋にある古い新聞を読み漁った。

メイシー…メイシー…。

あっ…

数年前に父、セルゲイ・ケルディア伯爵の奴隷営業が見つかり爵位剥奪。セルゲイ・ケルディア元伯爵と共にセレーナ・ケルディア元伯爵夫人がメイシー・ケルディア元伯爵令嬢を1人残し姿を消す。


これ…メイシーだ。


セルゲイ・ケルディア伯爵の奴隷営業発覚のセルゲイに雇われていた薬師達はシャンドラ・カルノス公爵が引き継ぐことになった。


これって元々伯爵とシャンドラは関わりがあったってこと?

じゃあやっぱりメイシーはシャンドラの手下なの?

よく分からない…。

でもシャンドラはメイシーが伯爵令嬢だった頃からの知り合いだったのね。



メイシーにはシャンドラの言うことを聞かざるを得ない人間ってわけね。


そんな立場なだけに失敗したら私みたいに怒られちゃうのかしら…


それならメイシーは自分の立場を守らないといけないし 。

といいように考えてみる。


だけど…やっぱりあの時はシャンドラの怒り方は何か違った。

何故あなたはシャンドラと違う思考で動いているの。

メイシーは私の思い込んでるような人間じゃあないんだ。

そう思う他なく少し希望が見えたような気がしたんだけどなぁと落胆する。



古い新聞持ち出し、引き出しに片付けて一息つく。


コンコン「お嬢様~そろそろかと紅茶と先程のクッキーをご用意しました」


「まぁ、ありがとうメイシー。このクッキーとっても美味しかったから楽しみにしていたのよ。メイシー、あなたも食べて」


メイシー。私1人で薬草クッキーなんて食べないわよ。

メイシーはどう出るのかしら?


「あ…ありがとうございますお嬢様。ですがこのクッキーはお嬢様が楽しみにしてらっしゃったので私なんかが貰っては…」

「いいのよ。私は貴方と食べたくて頼んだんですもの」


「まあ…ありがとうございます。」


クッキーを口に運ぶ素振りをみせるメイシー。

「あっお嬢様!このクッキー少し傷んだ臭いがしますわ…あのお店最近お客が少なくなってるようで…せっかくお嬢様が

お好きになったクッキーなのに。あそこはもう行かない方がいいかもしれません!」


「…そう。残念だわ」


「お嬢様のお口に合うような違うお菓子屋さんを探しておきますね」


「ありがとう。」



"悔しそうな顔して出ていったわねー。ナーシャあなたも強くなってきたわね"


"ふふ。でもどうしてもメイシーがこんなことする理由が分からないの"



"んーなにか嫉妬されるようなことしたの?"


嫉妬…毎日シャンドラに怒られる日々を送ってる私に嫉妬なんてされることないはず…。

誰かメイシーを知ってる人はいないのかな…。


シャンドラやメイシーの年頃の人で私が気軽に聞ける相手はラベル先生くらいね。今度聞いてみるかな。



コンコン「ナーシャ…」


「お母さまどうしたの?」


「実は…さっき※ラミフォンでお義父さまから連絡が来たんだけど…着いてすぐの頃は5人ほどだったのに隔離しても疫病の人がどんどん増えてるらしいの…それで当分家に帰れないけれど、ここまで広がるのは時間の問題だから外出を控えるようにしなさいって」


※ラミフォン…魔法石を使って相手の姿を見ながら話せるテレビ電話みたいなもの



当分帰ってこないんだ。それって私にとっては平和の訪れじゃない。

「大変ね。レティシャにも外でないようにしないといけないだろうし私もレティシャと遊ぶ時間を作るね」


「ええ…。助かるわ…。」


お母さまはきっとお父さまが亡くなった時みたいにシャンドラが死んでしまったら…って怖くて仕方ないのね…。


「その疫病は…まだ原因が分かってないの?」


「そうみたいなのよ…お義父さまは天才だものきっと原因が見つかるハズよね 」


「ええ。きっと」


不安そうなお母さまを落ち着かせてあげたくて

私はジェノシーでよく飲んでいたフルーツ入りの紅茶を作った。

「まぁ。とっても久しぶりだわ。美味しい。娘から紅茶を作ってもらえるなんて私は幸せね。ありがとうナーシャ。」


数日、シャンドラも居ないためレティシャとお母さまとの距離が縮まっていくような日々を過ごせた。


この時間をメイシーに邪魔をされたくない。と思っていたけど意外と何も起こることはなかった。


ただ疫病はあっという間にこの辺まで広がりだし

お母さまはより一層不安が増したようで時間が来るとラミフォンの近くでソワソワするようになった。


お母さま…また自分の旦那様が亡くなったらと思うとそりゃあ怖いわよね…。


数日後、疫病の原因が分かったみたいで飲み水が原因だったらしい。

西の方は物作りで成り立っていて工場地帯。

その工場の一部がきっちり破棄しなければいけない液体を川に流していたらしい。


その川がどんどん荒んで行き飲水に影響出てしまったようだった。


"ソラン…ソランならその水も綺麗に出来ちゃうの?"


"ああ。まあ簡単なことだぞ"


"ソラン…1度お忍びでその川に行きたい。"


"いいけど。放っておけばナーシャの敵が1人居なくなるのも時間の問題だろ?"


"だけど…シャンドラ1人のせいで多くの人が死んでしまうのはいやなの。それにシャンドラは私の敵よ。だけど他の人を助けに行ってるんだもの…。私は助ける力を持っているのにシャンドラ1人のために放っておくなんてことは出来ないわ"


"なら散歩がてら久しぶりに俺の上に乗って空でも飛んでいくか"


"'うん!!"


その日の日中はお母さまやレティシャと一緒に過ごした。

もしも普通に過ごせたら…こんな日々を過ごせたんだろうな。なんて思う。


その日の夜みんなが寝静まった頃合を見て

ソランに背中に乗せてもらい西へ向かった。


「わああ。夜の空ってこんっなに綺麗なのね」


"寒くないか?"


「うん!綺麗すぎていやなことも全部忘れちゃいそうなくらい。それにソランがふわふわで温かいしへっちゃらよ」


"はは。そりゃよかった"


"こらー私を置いて抜けがけなんて許さないわよ"


"ティエラ!抜けがけなんてしてないだろ"


"私に黙ってナーシャと2人で出かけるなんて抜けがけ同然よ"


「ふふふ3人で一緒に行けるなんて嬉しい」




___________


「これは……」

問題の工場の液体が流された川のそばは草木も枯れ、水の流れも悪くなって悲惨な状態だった。


"ナーシャ。この空気吸わない方がいいわ。口に布を当てておきなさい"


私は口に布を当てソランに尋ねる


"ソラン…これは直せそう?"


"ああそれは簡単だ。だがさすがにこの水の流れを直しても人間がまた同じことをすれば数年後にはまた元通りだぞ。今直してはまた同じことを繰り返すだろう"


「たしかに…何もせずに直せばまた同じことになるのは目に見えてるわ…1度工場に行ってみましょう」



「どうしたものか…液体を破棄する場所も見つからないまま川に流したせいでこんなことになるなんて…このままじゃ俺は……どうすれば…」


近づこうとすると工場長らしき人が工場のまえで埋まっていた。


流す場所がなかったのから…

そんな理由で川に流すなんて…


"その場がなんとかなればいいなんてほんっと人間の考えることはどうしようもないわ"


…この液体って全て分離できないのかしら…

ほら…飲み水を作るみたいな方法で

そこに魔法石を使って同じものを作れる人間がいれば出来ないこともないかもしれない…。



"ねぇソラン、ティエラ。2人ってずっとこの世界と精霊界を行き来してたのよね?"


"ああ"

"ええ"


"魔法石でラミフォンを作った人ってこの世界にいるの?"


"いるわよ…すっごく変わり者で有名らしいけど "


"この世界が好きな魔法使いだとは聞いた事あるが…気に入らない人間ならどんなに金を積んでも絶対に何も作らないらしいな"


"私、その魔法使いに会いたい!"


"…まぁナーシャなら…魔法使いに気に入られるかもしれないわね…"


1度家に帰り魔法石を取りに行き、魔法使いの元へ向かった

"魔法石なら会いに行くついでに取りに行ってあげるのに"


「家にあるのに新しいものを取りに行くのは勿体ないでしょう?ほら、鉱山の中にある方が石も育つだろうし」


"ナーシャのそういうところが好きだわ"

"ナーシャ、魔法使いの名前はフレア・テミ二エルだ。まずはテミニエル様?お話を聞いてください。って言ってみな

。初めから「お願いが」とか言うと頑固だから絶対聞く耳も持たないからな"


「教えてくれてありがとうやってみる」




ある飲み屋さんに入り2階の部屋の前に着いた。


…コンコン


……………


居留守かしら?


コンコン


「夜分遅くごめんなさい…初めまして。私ナーシャと申します。テミニエル様にお話を聞いていただきたくてここまで来ました」

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