第46話:打合せ

「ハリー様、どうするお心算ですか?」


 アーサーが決意のこもった目で聞いてきました。

 私が命じたら、命懸けでピアソン王国軍に突撃してくれるでしょう。

 お母さんに、私の盾になって死ねとでも言われたのでしょうか?


「私は死にたくありませんから、できるだけ安全な方法で敵を捕らえます」


「え、殺さないの、向こうは殺す気で来ているんだから、殺していいじゃん」


 ソフィアの言う事も分かります、向こうはこちらを殺す気で来ています。

 いえ、殺す以上に酷い事をやる気できているでしょう。


「ソフィアの言う事も正しいと思います。

 彼らはこれまでも多くの人を苦しめ殺してきました。

 そんな極悪非道な者たちに情けを掛けたら、また多くの人を苦しめ殺すのは間違いありません」


「分かっているならサクッと殺しちゃおうよ、魔境で狩りをするのと同じだよ」


「まあ、まあ、殺したらそこまでですよ、何の利益も得られない」


 アーサーがソフィアをなだめようとしてくれています。


「身代金でも取るつもりなの、そんな事をしても手間なだけだよ。

 サクッと殺して武器や防具だけ奪おうよ、狩りの成果はそれで十分だよ」


「ソフィアにかかったら大国の遠征軍もただの獲物なのですね」


 単純明快な所もあるソフィアらしい言い分です。

 色々考えしまうアーサーは、あきれ半分うらやましさ半分なのでしょう。


「殺そうと襲って来るのも、狩ったら何か落とすのも同じだよ」


「僕は人殺しをソフィアほど簡単には割り切れません」


「アーサーに人殺しはさせないから安心してください」


「ありがとうございます、ハリー様」


「それで、どうやって捕らえるの?」


「暴れる人間を捕らえる方法は決まっています。

 卑怯下劣な連中を捕らえるのは初めてではないでしょう?」


「ああ、王族を名乗った馬鹿たちを捕らえた時と同じで良いのね?

 睡眠と麻痺と硬直の魔術で動けなくするのは良いけど、全員に効くの?」


「確かに、私たちを超えるレベルの者がいたら抵抗されるでしょう。

 その時は、3人同時にかかれば大丈夫だと思いますよ」


「まあ、ドミニク会長が集めてきた情報が正しいなら、抵抗できるような奴はいないだろうけど、魔境の狩りだと何があるか分からないからね」


「そうですね、魔境の狩りでは、想定以上の強い魔獣に遭遇する事が何度もありましたね。

 ドミニク会長が偽の情報をつかまされている事も、我が国の国王を超える策士がピアソン王国にいる事も、考えておかないといけませんね」


「だからさ、獲物を狩るチャンスを逃さないように、捕らえるのではなくサクッと殺しちゃおうよ、人質を運ぶのも管理するのも面倒だよ。

 狩り損ねた魔獣を見た妹が、可愛いから飼うと言い出した時は、本当に大変だったんだから」


「いや、人間とウサギ型の魔獣を一緒にしないでください。

 それにあの時は、妹さんがソフィアのお父さんが厳しく叱られたから、それほど大変な騒動にはなっていなかったでしょう?」


「アーサーは妹のしつこさを知らないからそんな事が言えるのよ。

 家に帰ってからが大変だったんだから。

 あの子がアーサーを好きなのは分かっているんでしょう?

 あの程度で済んだのは、アーサーがいたからよ、家では泣き喚いて大変だったの」


「ソフィア、それをアーサーに聞かせてどうするんですか?

 アーサーがソフィアから聞いたと言ったら、また貴女が困るのですよ」


「だいじょうぶ、アーサーは告げ口なんてしないから」


「話が横道にそれていますよ」


「申し訳ありません」


「ハリーが面倒な事を言いだしたのが悪いのよ」


「狩りに手間をかけてでも、少しでも良い状態で獲物を得るのは常識ですよ。

 狩った後の獲物を状態を考えずに殺すのは、猟師ではありません」


「ちぇ、そう言われると捕らえるしかないわね。

 でも、最悪の場合にも備えておいてよ。

 ハリーがリーダーで、狩りに加わる猟師全員の命と、家族の生活がかかっているのよ!」


「分かっていますよ、3人同時に睡眠と麻痺と硬直の魔術をかけるのは、抵抗する奴が現れるまでです。

 3人同時の重ね掛けに抵抗する奴がいたら、即座に攻撃か撤退の判断をしますから、それに従ってください」


「分かったわ」

「分かりました」


「攻撃を決断したら、私がそいつの相手をします。

 まだ敵全員を無力化できていない時は、2人で睡眠と麻痺と硬直を重ね掛けして、他に抵抗する奴がいないか確かめてください」


「ええ、そんな面倒な事をするの、やっぱりサクッと殺しちゃおうよ」


「ソフィアとアーサーに人殺しはさせられません。

 人を殺すのは領主一族である私の役目で、ソフィアの役目は魔獣を狩る事ですよ」


「家族や領地を守るためなら、人殺しくらい軽くやってやるわよ!」


「僕も、お母さんを守るためなら人殺しもやって見せます」


「私だけで重ね掛けに抵抗した奴を殺せない場合は、人殺しを手伝ってもらいますが、そうでない限り、2人に人と殺しはさせません。

 これは領主一族としての命令です」


「分かったわよ、領主一族の命令なら聞いてあげるわよ」


「ご配慮くださりありがとうございます」


「次に絶対に勝てないと分かった時は、即座に逃げます。

 その時は、狩りの時と同じですから、覚えていますね?」


「もう長く使ってないから忘れちゃった」


「僕は覚えている心算ですが、念のために確認しておきたいです」


「分かりました、今から確認します。

 この合図をしたら、最速で逃げながら罠を仕掛けます、良いですね?」

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