第45話:帰領

 ソフィアとアーサーの3人で話し合って、そのまま銹武器が確実に手に入る階層で狩りを続ける事にしました。


 国王が馬鹿ではなく、多くの密偵を使って周辺小国群や大国の様子を調べさせ、何とかして国を守ろうとしているのが分かりました。


 そんな国王が、国を豊かにするために私を前将軍にしたのです。

 逃げなければいけなくなるまでは、できるだけ助ける事にしたのです。


 それがよかったのかどうか、90日経った今でも分かりません。

 元々我が国を攻め取る気だったピアソン王国が宣戦布告をしてきたのです。


 私たちが大量に手に入れて、国王が輸出した銹武器を購入できたからです。

 ピアソン王国軍に銹武器を装備させた事で、必勝を確信したのだそうです。


 何故そう言い切れるかというと、売った本人、ハービー商会のドミニク会長が、我が国の密偵として調べてきたからです。


 ピアソン王国軍が攻め込んできるのなら、のんきにダンジョンで狩りなどやっていられません。


「国王陛下、私たちをグリフィス騎士領に出陣させてください」


 ピアソン王国は、銹武器を持った1万以上の軍勢を送って来ました。

 途中にある小国群は、自分たちが攻撃されるのを恐れて中立を宣言しました。

 我が国の領地持ち騎士家は、グリフィス騎士家を除いて一斉に裏切りました。


 分かっていた事ですが、凄く腹が立ちました。

 代々仕えてきた王家を裏切るとは、恥知らずにも程があります!


 領民が大切だと言うのなら、領民を連れて逃げればいいのです!

 これまで他国の軍勢を撃退してきたのと同じように、富と食糧を持って王都に逃げて来る事だってできるのです。


 そんな恥知らずな連中に、愛するグリフィス騎士領を襲わせません!

 父上達なら騎士館を守り切ると信じていますが、わずかでも手伝いたいのです。


「お前達に行くなと命じても無駄なのは分かっている。

 無理に止めようとしたら、余をぶちのめしてでも行くだろう。

 ただ、お前たち3人だけだ、他の者は王都に残れ」


 許可をもらったので、急いでグリフィス騎士領に戻りました。

 ドミニク会長の情報が早かったので、まだピアソン王国が国境を越える前でした。


 卑怯で憶病な裏切者たちは、自分たちだけで攻め込む勇気がなかったようです。

 もしかしたら、ピアソン王国に勝手な事をしないように言われているのかもしれません。


 ピアソン王国は、勝った後で領地持ち騎士たちを処分するはずです。

 僕にだって分かる、あまりにも簡単な話です。


 領地持ち騎士たちに手柄を立てさせたくないはずです。

 卑怯だとか手柄がないとか再寝返りする心算だったとか言って、処分します。


 ただ、自分たちの手で処分すると世間体が悪いので、王都を攻める時に死んでくれた方が、自分たちの手で処分しなくてすみます。


 何より大切な自分の騎士や兵士を死なせずにすみます。

 我が国の人間同士を殺し合わせて、楽に国を奪いたいのです。


 こんな簡単な事も分からず、目先の利を機につられて国を裏切り、名誉を失うのですから、馬鹿ほど可哀想な生き物はいません。


「ハリー様、よくぞお戻りくださいました」

「将軍に任じられたとの事、うれしく聞かせていただいておりました」

「ハリー様と一緒に戦えると思うと、腕が鳴ります」

「俺の弓の腕をまたご覧に入れてみせます」


 馬を駆けさせるよりも、身体強化を重ねた自分たちで走る方が早いので、3人だけで急いで領地に戻ってきました。


 城のような村の城門に入ると、領民たちに歓迎してもらえました。

 みな幼い頃から知っている顔です。

 一緒に狩りに行った事のある者は、敵を射る気満々です。


「父上とお爺様に私の役割を聞いてくる」


 私はそう言って騎士館に向かいました。

 小さな村なので、村の城門から領主館までは直ぐです。


 領主館は、敵に村の城壁を超えられた場合に、領民全員を入れて最後まで戦うので、かなり大きく頑丈に造られています。


「父上、お爺様、ただいま戻りました」


「よくぞ戻った、その誇り高い行為を父として誇りに思う」


「お帰り、将軍に任じられたそうだな、祖父として誇りに思うぞ」


「全ては父上とお爺様に幼い頃から御指導していただいたお陰です。

 子として孫として、そのご恩を返すと同時に、グリフィス騎士家の者として、誇り高く戦いたいと思っております」


「よくぞ申した、それでこそ我が息子だ」


「その決意天晴である、籠城戦は儂たちに任せて、好きに戦うがいい」


「好きに戦って宜しいのですか?」

 

 私がそう言うと、父上をお爺様が目配せされた。

 2人で確認された後で父上が話された。


「国王陛下がお前たちを無理矢理王都に籠城させる可能性は低いと思っていが、領地には帰さずに、遊撃兵としてピアソン王国軍を迎え討たせる事は考えていた。

 その心算で籠城の御準備をしていたから、今になってお前たちを籠城させるよりは、遊撃兵として自由に戦わせた方がやりやすいのだ」


「それは『ピアソン王国軍が領地に来る前に、全滅させろ』と言われているのですか?」


「そこまで難しい事をやれとは言っていない。

 私たちが望むのは、ここに来るピアソン王国軍をできるだけ減らしてくれる事だ。

 減らせないのなら、寝られないようにして、疲れさせてくれてもかまわない。

 敵を殺せなくてもいい、戦える人数さえ減らしてくれればいい。

 もちろん、全滅させられるのなら、それが1番だ」


「分かりました、微力ながら全力を尽くさせていただきます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る