第41話:理想と現実
私たち3人は、国王陛下が選抜された騎士たちに完全殺を教えました。
実際にやって見せてから言って聞かせてやらせました。
ですが、その通りにできる者はほとんどいませんでした。
強い騎士なのは間違いないのですが、使える魔術や神聖術が1つしかない騎士が大半だったのです。
ランダムに出現するモンスターの中に、騎士が使える魔術や神聖術で完全殺をできるモンスターがいる確率が、1/5から1/10になります。
陰陽と木火土金水の魔術属性と神聖術を加えると、1つしか属性や神聖術を使えない騎士だと、8人で1パーティーを組まなければいけません。
騎士は1人の騎士長に4人の平騎士がつけられています。
10人の騎士長を将軍騎士が率いています。
遊軍や近衛は別にして、左右の将軍で100人に騎士を率いています。
戦時には、12歳の義務を終えた王都の民を総動員しますが、総数5000人少しの王都では、常備騎士100人が限界なのです。
いえ、ダンジョン騎士は無給なので増やそうと思えば増やせるのですが、増やし過ぎると王国に税を納める冒険者がいなくなってしまうのです。
12歳の義務を終えた国民たちの中では、最強層と言えるダンジョン騎士たちですが、完全殺を成功させる人材としては、優秀とは言い切れませんでした。
レベルアップした体を使って戦う事には秀でていますが、魔術や神聖術を正確に使うと言う点では劣っていました。
国王陛下から見ると残念極まりない結果となりましたが、私たちには関係ない話しなの、25人を荷物係として利用させていただきました。
ダンジョン騎士たちにはレベルアップした体力がありますので、3人で手に入れた武器を渡しては、地下71階と王城を駆け足で往復させました。
「国王陛下からお言葉を預かっております」
私が舞うようにモンスターを狩っていると、往復2度目の騎士が、申し訳なさそうに話しかけてきました。
国王陛下の機嫌が悪くなっているのかもしれません。
「何ですか、ちゃんと聞いていますから、そのまま話してください」
「はっ、騎士団では完全殺ができないのかと聞かれておられます」
「叔父上と叔母上たちなら可能だったので、不可能ではないです。
ただ、敵を斃す力優先ではなく、魔術か神聖術を巧みに操れる騎士や冒険者の方が向いていると伝えてください」
「はっ、そのようにお伝えします」
「ああ、待ってください、そのまま戻ると陛下の機嫌の悪い顔を見る事になります。
鈦剣を多めに担いで戻った方が良いですよ」
「御助言感謝いたします、そのようにさせて頂きます」
「ああ、それと、ダンジョンで武器を落とさせる専任のダンジョン騎士を、新たに叙勲する方法もあると陛下に伝えてください」
「え、あの、どういう事でしょうか?」
「王城や王都の警備ではなく、常にダンジョンに潜らせる騎士を叙勲するのです。
2日に1回休みを与えるのか、5日に1回休みを与えるのかは陛下の御考え次第ですが、確実に鉄剣を落とせる騎士がいれば、王国の財源になります。
国民の半数を騎士に叙勲してもやっていけますよ」
「はい、自分には良く分かりませんが、そのままお伝えさせていただきます」
この騎士は考えるよりも戦う事の方が得意なのでしょう。
小国の哀しさで、限られた数しか雇えない騎士は、分かりやすい強さを基準に叙勲してきたのでしょう。
私に国王陛下の伝言を持って来た騎士は、直ぐにたまった鈦剣を担いで王城に戻って行きました。
それにしても、鈦剣に限らず鉄長剣まで含めると、ひっきりなしに手に入ります。
3人で手分けして狩っていますので、それも勝負の早い完全殺で狩っていますので、1分間に63振りもの武器が手に入ります。
25人もの荷運びがいても、荷運び騎士が運びきれない武器が、71階の通路に山と積み上げられていきます。
まあ、息を止めるギリギリの早さで狩っていますので、直ぐに魔力が減ってしまいますから、小まめに休憩を取って魔力回復をします。
軽く食事を取ってから魔力回復薬を飲むのです。
正直な話、私たち3人が手に入れる武器の量に比べて、騎士たちが運べる量が極端に少ないです。
早く運べるように120kgを目途に王城に向かわせていますが、それでも地下71階と王城までの往復となると、3時間は必要になります。
小まめに休憩はしていますが、それでも1時間半分の武器が通路に積み上げられてしまっています。
直ぐに荷物を運ぶ人数を増やして欲しいと伝えてもらいましたが、71階まで潜れる冒険者はほとんどいません。
ダンジョン騎士に守ってもらえると分かっていても、できる事なら潜りたくないと思うのが人情です。
国王陛下が強権を発動して50人ほどの冒険者を動員してくださいましたが、ダンジョン騎士に守らせて往復させないといけないので、まとまっての移動になります。
通路に積みあがった武器は無くなりましたが、また直ぐに積みあがります。
ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ
「へいかからのことばを、ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ」
「ゆっくり休んでから話していいですよ。
どうせ王城に戻るまでに2時間かかるのです。
ここで10分や20分休んでも大丈夫です、私が許可します」
「ありがとうございます、ですが、もう大丈夫です。
陛下の御言葉は、新たなダンジョン騎士は、前将軍閣下が見極めてくれるのかとのご下問でございます」
「最適の冒険者がいるかどうかは分かりませんが、できるだけ可能性のある者を選ばせてもらいますと言上してください。
それと、私たちが2日に1回潜るだけでも、王国はピアソン王国を超える収入を得ることができますから、安心してくださいと伝えてください。
そうすれば貴男が怒られる事はないですよ」
「ありがとうございます、前将軍閣下!」
2度も国王陛下の使者に選ばれてしまった運の悪いダンジョン騎士は、少し休んでから王城に向かいました。
背負子に背負った山のような武器がとても重そうです。
私が新しい基準のダンジョン騎士を選ぶことになるのですか。
叔父上と叔母上たちは最優先で選ばないといけません。
騎士長にして配下の教育も任せられますね。
可愛そうですが、ソフィアとアーサーにも騎士長をしてもらわないといけません。
騎士長が7人だと、28人のダンジョン騎士を叙勲する事になります。
普通に考えれば結構な権限を得た事になります。
冒険者に見どころのある者がいればいいのですが、いなければ領地から若い猟師を連れて来るべきでしょうか?
ですが領地の戦力を奪い過ぎるのは良くないかもしれません。
う~ん、どうするのが最適でしょうか?
左将軍や右将軍と張り合う気はないのですが、バランス的には50人の配下がいた方が良いでしょうね。
1人でも2人でも、左将軍と右将軍の配下から適正のある騎士を引き抜けたら、40人3組、総数120騎の騎士団にする事もできるのですが……
「ハリー、ちょっと休憩しない?」
「ハリー様、また通路に武器が積みあがっております、休憩しましょう」
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