第42話:公休日

 王国のダンジョン騎士に完全殺を教えるという、私には何の利益もない、嫌な役目がようやく終わりました。


 ソフィアとアーサーは、4割の税は取られましたが、ダンジョン騎士が無料で宝物を運んでくれたので、効率的に莫大な利益を手に入れられてニコニコ顔です。


 可哀想なのは家の大半を私たち3人に奪われて、宝物の監視役をさせられている1の叔母上と旦那さんです。


 まあ、明日からは、国王陛下がこの屋敷を守るために騎士たちを派遣してくれるそうなので、それなりに楽になるでしょう。


 陛下は今日の莫大な利益を目の前にして、私たち3人に逃げられないように、安心して狩りができる環境を整える気なのです。


 当然と言えば当然の話です。

 ソフィアとアーサーが手に入れた宝物の量は言えませんが、私が手に入れた分と2人が税として納めた分は話しても良いでしょう。


 小まめに休憩を挟みましたが、それでも実働5時間は狩りをしていました。

 5時間、1分間に2回は狩りをしました。

 3人別々に勝っていたので3倍になります。


 5時間×60分×2回×3人で1800回です。

 

 1/3は武器を落とさないゴースト系ですから、残り1200回です。

 鉄長剣を落とす奴が3/6なので900回×21振りで18900振りです。

 鈦剣を落とす奴が1/6なので300回×21振りで6300振りです。


 陛下が今日1日で手に入れた武器は、鈦剣3789振りと鉄長剣1万1340振りに、大鈦貨2680枚という莫大な額になります。


 こんな金の卵を産む配下を逃がす訳がないのです。

 どのような手段を使ってでも引き留めようとします。

 同時に、完全殺の技が外部に漏れないようにするでしょう。


 嫌な事は考えても仕方がないので、体を休めるために眠りました。

 雑用は全て陛下と王国に丸投げです。

 

 新たなダンジョン騎士を叙勲するので、全冒険者に王命で動員がかけます。

 既にダンジョン騎士に叙勲されている者の勤務表を変更します。

 左右の将軍まで動員しての、荷運び役を大増員するのです。


 流石に左右の将軍に荷運びはさせられませんから、王都や王城の現場警備をやらせれる事になるでしょう。


 今日は2日に1度の公休日です。

 ダンジョン騎士は、戦時以外は基本1勤1休になっています。

 無給で働かせているので、休みの日にダンジョンで狩りをして生活費を稼ぎます。


 その分1日の勤務時間は長く16時間になっていますが、1時間で飯を食って7時間眠った後でダンジョンに潜れるのです。


 これを8時間の2勤1休に変更するのなら、条件がそれほど悪くなったわけではありませんが、8時間の5勤1休になると極悪な変更になります。


 ダンジョンで今まで以上に稼げるようになりますから、本質的な意味では変わらないのかもしれませんが、拘束される時間的には条件が悪くなります。


 ★★★★★★


「閣下、前将軍閣下、陛下の命によりご教授を願う騎士たちを連れて参りました」


 朝も早くから、陛下の命令で集まった騎士たちが屋敷の前に集合しています。

 私たち3人が屋敷の表に出て確認すると、騎士たちだけでなく、冒険者、労役や兵役で集めてきたと思われる王都の民までいます。


「確認するが、労役や兵役の民までダンジョンに入れてしまって、王都や王城の警備は大丈夫なのですか?」


 私は代表を務めている騎士長に聞いてみました。

 国王陛下が目先の利益に目が眩んでしまうと言う、最悪の状況を想像してしまったのです。


「その点はご心配いりません、城門や城壁の警備は万全です。

 王都の労役や兵役は日頃から余っている状況だったのです。

 普段は王都周辺の直轄領で働かせたり、王都の清掃をやらせたりしているのを、今日はダンジョンに入れるだけです」


「貴君がそう言われるのでしたら信じましょう。

 昨日に続いて、公休日にもかかわらず参加してくれている騎士の方がおられますが、無理をしているのではありませんか?」


 私は昨日に続いて参加している騎士に聞いてみました。

 

「心配してくださってありがとうございます。

 今日は昨日に続いて勉強させていただきたいと思いました。

 その上で、浅い階層で実践してみようと思っています。

 それと、荷運びをすると日当を頂けることになっています」


「そうですか、陛下が日当を支払われるのなら、もう何も言う事はありません。

 ソフィア、アーサー、71階まで駆け下りますが、途中どうしても発現するモンスターにも完全殺をやります」


「小銭も稼ぐのね、分かったわ」


「分かりました、お任せください」


 私たちは最速でダンジョンを駆け下りました。

 私たちと同じ早さで下りられる者は限られていますが、しかたありません。

 1番遅い人間に合わせていると狩りの時間が減ってしまいます。


 それに、各階から次の階に下りる時には必ず境界線を越えないといけません。

 その時に完全殺で狩って手に入れた武器は、最も弱い者に運ばせます。


 それを見た公休で参加している騎士は、同行している者にひと声かけて隊列を離れていきます。


 モンスターが3体しか現れない階層で完全殺を試すのでしょう。

 ですが、棍棒や石剣で襲って来る階層では意味がありません。

 最低でも銭製の武器で襲って来る階層でないと、金銭的価値がありません。


 利益を考えるのなら、最低でも鉄短剣を9振りは落として欲しいですね。

 9体同時に急所を弱点の属性で貫き斃す、よく考えれば凄く厳しい条件です。


 金銭的な利がなくても、3体同時から練習したいと考えるのも当然です。

 或いは最初から諦めて普通に狩りをするかです。


 大鈦貨を落とす階層で確実に狩りができるのなら、成功するかどうかも分からない完全殺を練習するよりも、堅実に狩りをした方が儲かります。


 地下71階層にまで到達できる猛者なら、自分の得手不得手、戦い方の適正くらいは理解しているはずです。


 などといった、どうでもいい事を考えながら71階層まで来ました。

 ここに来るまでに、30人は隊列を離れて王城に武器を運んでいます。


 最速で下りてきましたので、駆け抜けるよりも完全殺をした方が早いと判断したら、迂回せずに直行したから銭製や鉄製の武器が大量に手に入りました。


 残り70人を遊ばせておく気はありません。

 1分あれば63kgの武器を手に入れることができます。


 鉄長剣を落とすモンスターが揃ったら、1分で126kgです。

 1時間で60人とは言いませんが、30人は王城に向かわせてやります!


「ソフィア、アーサー、今日は最短記録を作りますよ」


「自分の利益なる日だからと言って張り切り過ぎるなよ」


「はい、昨日のお話し通り、利益最優先で狩らせていただきます」

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