第40話:資金切れと悪態
嵐のようにやって来られた国王陛下は、叔母上の屋敷に血の海を残して帰られましたが、残された私たちはたまったモノではありません。
遺体は残らず持って帰られましたが、流れ出した血までは掃除してくださらず、私たち8人で壁に飛び散った血や床に流れた血を掃除しなければなりません。
私たち3人が原因なので、掃除が大の苦手な1の叔母上に任せる訳にはいかず、血が奇麗に落ちる魔術水を出しては壁と床を磨きました。
まあ、人の血だから少し嫌な気分になるだけで、魔境で狩りをする私たちは血を見る事には慣れています。
人に害を与える魔獣とはいえ、私たちは命を奪って生きています。
殺した魔獣の肉を食べ、素材を売って生活しています。
命の大切さは誰よりも分かっている心算です。
一生懸命掃除をしていると、人の血だけでなく、長年手付かずだった屋敷の汚れが気になります。
私やソフィアはそれほどでもないのですが、奇麗好きなアーサーは我慢できないようで、率先して掃除してくれます。
ゴミ屋敷同然だった叔母上の屋敷が、見違えるように奇麗になりました。
「こんなに奇麗になったら落ち着かない」
1の叔母上の言葉にアーサーがガックリしています。
一生懸命掃除して手に入れたのが悪態なのですから、当然ですね。
ただ、私たちの宝物を置いておく場所と考えれば、掃除するのは当然の事なので、叔母上に文句を言われても気にする必要もありません。
叔母上のために掃除したのではなく、自分たちのために掃除したのです。
今回手に入れたお宝は、叔父上と叔母上たちの分が鈦剣189振りです。
ソフィアとアーサーの分は秘密です。
私の分が鈦剣618振りと大鈦貨532枚です。
掃除が終わるのを待っていたかのように、ハービー商会のドミニク会長がやって来て、私たち8人分の鈦剣を全て買って行ってくれました。
叔父と叔母たちは、もう銹剣を持っていますので、今日手に入れた鈦剣を手元に置いておく必要はありません。
私も早く銹剣を手に入れたいです。
明日のダンジョン騎士の腕が叔父や叔母たちよりも上なら、銹剣を落とすモンスターが現れる階まで潜ってもいいですね。
売った鈦剣を大鈦貨に換算すると37080枚です。
大鈦貨として手に入れた532枚と合わせると37432枚です。
大銹貨に両替すると1871枚です。
前回手に入れた大銹貨と合わせると2374枚になります。
以前は大国の男爵位と領地を買える金額でした。
今回の額を加えたら、子爵位と領地を買えるだけの金額になりました。
ただ、ハービー商会で買い取れる鈦剣はこれが最大だと言われてしまいました。
買い取った鈦剣が売れるまでは、これ以上買い取れないと言われてしまいました。
まあ、全て売れれば3倍4倍になるのですから、ハービー商会が危険を承知で全資産を継ぎ込むのも当然です。
それと、平民のドミニク会長が、貴族街にこれだけ多くの馬車を連れてこられたのを不思議に思いましたが、理由は簡単で、国王陛下直々に許可がもらえたそうです。
それ以前に、国王陛下の使者が来て、買取に行くように命じられたそうです。
私たちの忠誠心を取り戻そうと必死です。
後でこんな事をするくらいなら、最初に左大臣の提案を認めなければよかったのにと思いましたが、直ぐに本当の理由が思い浮かびました。
陛下は、左大臣を処分するために、最初の提案を受け入れたのです。
私が聞いた話では、ダンジョン騎士の中にも裏切者がいると言う話でした。
左大臣がその1人だったのでしょう。
文官になったとはいえ、元々はダンジョン騎士だったはずです。
いえ、違うのでしょうか、文官だと、ギリギリ12歳の義務を終えたような者でも、大臣に任命される事があるのでしょうか?
一晩グッスリと眠って、ダンジョン騎士たちに指導する時間が来ました。
私たちの忠誠心を得たい国王陛下は、叔父上と叔母上たちの連続して休暇を与えてくれました。
私とソフィアとアーサーの3人は、国王陛下が選んだ騎士25人を率いてダンジョン奥深くにまで潜りました。
陛下の選抜を信じて、一気に地下71階まで潜りました。
全員に背負子を背負わせていますから、叔父上叔母上たちほどではなくても、1人100kgから150kgは持ち帰られるでしょう。
荷物が軽い状態で往復させるなら、常に荷役が側にいる事になります。
「ソフィア、アーサー、今日は3人別々にモンスターを狩ります」
「いいねぇ、たまには独りで狩りをしたいと思っていたのよ」
「僕も望むところです」
「それと、今日は荷役が多いので、獲物を鈦剣に限りません。
鉄長剣も狙って完全殺を決めてください。
毎回完全殺を狙う事で、見学している騎士が学ぶ機会を増やします」
「でもそんな事をしたら直ぐに魔力がなくなっちゃうよ?」
「そのために騎士たちにご馳走を運ばせています。
宿の料理長が腕を振るったご馳走を運ばせています。
足の早い料理もありますから、さっさと魔力を使ってしまいますよ」
「やったね、魔力を回復させるだけのご馳走があるのなら文句はないよ」
「僕も小まめに魔力を回復させながら狩る事にします」
高級ホテルの料理は、叔母上の旦那さんを通じて陛下に要求しました。
陛下には完全殺の方法を伝えていますから、絶え間なく魔術を使えば、直ぐに魔力を使い切るのは分かって頂けます。
魔力を回復させるために魔力回復薬と食事が必要な事は、実力を伸ばすためにダンジョンで実戦経験を積まれた陛下もご存じです。
私たちの忠誠心を買いたい陛下が、僅かな費用を惜しまれるわけがないのです。
鉄片級までの冒険者なら、高級宿の保存食は高すぎて買えません。
ですが、1回戦うごとに21振りの鉄長剣が鈦剣を手に入れられる私たちには、とても安い食事代になっているのです。
私たち3人が71階で別々に戦うと、武器を持たないレイスや、ソフィアとアーサーが属性を使えないモンスターでない限り、1度に63振りの武器が落ちます。
2度で126振り、最低でも126kgの武器が落ちます。
実際には2回に1回は武器が手に入らない戦いになります。
ですが、鉄長剣だと鉄剣の倍、2kgもの重さがあるのです。
1度に出会う全ての敵が鉄長剣を落とす奴だと、それだけで126kgになることがあるのですから、アッと言う間に背負子が1杯になります。
「……信じられない、嘘だと言ってくれ!」
「武器を落とす事も信じられないが、こんな事をやれること自体が信じられない」
「俺たちが同じ事をしなければいけないのか?」
「1つ間違えれば簡単に殺されてしまうぞ!」
「何も最初から1人で完全殺を成功させろと言っている訳ではありません。
5人組で挑んで、完全殺に失敗したら全員で倒せばいいのです。
それに、手本はここでやりましたが、貴方方もここから始める必要はありません。
最初は6体や9体のモンスターしか現れない階から始めればいいのです」
「6体や9体で始めればいいだと?」
「馬鹿な事を言わないでくれ!」
「3体だって、急所を狙って魔術を同時に当てるなんて不可能だ!」
「こんな事ができるのは、あんたらグリフィス騎士家だけだよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます