第39話:感嘆と特例
国王陛下に会いたいと言われたら、臣下が断る事は難しいです。
まして王城に呼び出されるのではなく、既に屋敷の前まで来られているとなると、仮病も居留守も使えません。
「すまぬな、ダンジョンを守る騎士から、8人が鈦剣の山を持ち帰ったと聞いて、どうしてもこの目で見たくなったのだ」
左大臣と右大臣、左将軍と右将軍、他にも護衛の騎士を引き連れた国王陛下が、1番上の叔母の屋敷を強襲されて言われた言葉です。
単なる興味で家臣の家に奇襲しないで欲しいです。
迎える家臣の都合を考えて、最低でも1日前に知らせてください。
特に1番上の叔母は掃除が大の苦手なのです。
「陛下に御成り頂き、身に余る光栄でございます。
ダンジョンに潜った直後で片付いておりませんが、どうぞお入りください」
1番上の叔母が居直りました。
もう今からでは屋敷の中を片付けられないと腹を括ったのでしょう。
他人には見せられない散らかし放題の屋敷に陛下を案内してきました。
「な、これは、流石に驚く量だな」
国王陛下は1度息を呑むほど驚き、少し時間が経ってから、呑み込んだ息を吐くようにつぶやかれました。
文官の左大臣と右大臣は固まったままですが、武官の左将軍と右将軍は、国王陛下とほぼ同時に平静な息遣いに戻っています。
これは、国王陛下の実力は将軍級かもしれないです。
「長時間潜っていましたので、これくらいの量になります。
ただ、叔父上と叔母上たちが手に入れられた数が少ないです」
「なに、もう5人ともモンスターの武器を手に入れられるようになったのか?!」
「明日の指導時間がありますので、長くはダンジョンに潜っていられませんでした。
途中から5人にも実践してもらいましたら、帰る直前に成功していました。
私同様に休みでの狩りでしたので、大きな利益になりました」
「ふむ、では明日は大きな利益になりそうだな」
「はい、ダンジョン騎士の方々が手に入れられた武器は、全て陛下の物、国の物となりますので、鈦剣級のモンスターを狩れる方がおられれば莫大な額になります」
「ふむ、ハリーが狩った分も余の物になるであろう?」
「はい、私が鈦剣級のモンスターが出る深さに潜れるのならそうなりますが、教える騎士の方々の実力次第では、鉄剣しか出ないかもしれません」
「……それは、実力が低い騎士にも実践訓練をさせるから、鈦剣を落とすモンスターが出る深さまでは潜れないと言いたいのか?」
「それは明日教える騎士の方々の実力を見るまでは答えられません。
普段は1人で楽々鈦剣級のモンスター狩れる叔父上や叔母上たちが、技を使いこなせるようになるまで4時間かかりました」
「ふむ、全騎士が鉄剣を落とせるようにするのが先か、選抜した者たちに鈦剣を落とさせるようにするのが先か、余に決めろと申すのか?」
「家臣は主君の命に従うだけでございます」
「よく申しよる、若年とはとても思えない肝の太さだな。
それと、余のために鈦剣を集めるのは嫌なのか?」
「そのような事はありませんが、私のパーティー仲間の扱いをはっきりさせて頂きたいのです。
冒険者として4割の税を納めればすむのか、私の従者領民としてタダ働きさせる気なのか、決めて頂けないと扱いが決められません」
「ハリーに同行したとしても、冒険者として6割手に入れられるようにしろ、そう申しているのだな」
「この者たちはダンジョン騎士の地位を賜っていないのですから、領地持ち騎士家の嫡男としては、戦時でもないのにタダ働きさせる訳にはいかないと思っております」
「この者たちに冒険者としての権利を認めたら、深く潜って鈦剣を集めてくると言うのだな?」
「実力の伴わない者を一気にダンジョン深くまで同行させるのは危険ですが、陛下がどうしてもと申されるのでしたら、そのようにさせて頂きます」
「どのようにさせればその方は満足するのだ?」
「陛下ご自身が決められた通りにさせて頂きます。
先の謁見で、私は臣下として最も忠誠が尽くせる方法を進言させていただきましたが、それを否定されたのは陛下ご自身です」
「2人をダンジョン騎士に叙勲していれば、何の問題もなかったと言いたいのだな」
陛下がチラリと左大臣に視線を向けられました。
左大臣が進言したのを採用されたのか、或いは陛下の考えを否定して自分の考えを押し付けたのか、どちらにしても自分の考えではなかったと言いたいのでしょう。
ですが、それは無責任な考えです。
誰が進言したとしても、陛下の考えを激しく反対されたのだとしても、最終的に決定した陛下が責任を取らなければなりません。
「失われた忠誠心を取り戻す事はできません。
更なる失敗を重ねるような事があれば、忠誠心を失うどころか叛意を育てかねませんので、伏して熟考をお願い致します」
そう陛下に言上する私の後ろには、怒りに身体中に宿したソフィアがいます。
何時誰が襲ってきても迎え討てる体制のアーサーがいます。
私にはもったいない友達です。
「忠誠心の大切さは、ハリーの従者と領民を見ればよく分かる。
愚かな家臣の言葉に従ったのを悔いても遅いし、下手な事を口にしても行動しても、余の愚かさと恥を繰り返すだけだと分かっている」
陛下の言葉を聞いて左大臣が顔を真っ赤にしています。
逆恨みしているのは明らかですね。
こんな奴を左大臣の座に着け続ける王に仕えても、命を狙われ続けるだけです。
「臣から陛下に申し上げる事はもうございません。
恐れ多い事なのですが、今日の狩りで疲れ果てております。
明日からの指導に全力を注ぐには、もう休まなければなりません。
伏して陛下のご英断をお願い申し上げます」
家臣としてできる限り丁寧に、もうお前の顔なんて見たくないから、早くこの屋敷から出て行けと言ってやりました。
「そうか、明日からの働きに期待して帰る事にするが、その前に褒美をとらす。
これを受け取ってくれ」
陛下はそう言うと、抜き手も見せぬ早業で左大臣の首を刎ねられました。
その腕の確かさは、首が私の目の前に転がるように斬り飛ばしたので分かります。
「ここまでしていただけると、国を捨てて逃げる訳にも行きませんね」
「ハリーが明日の騎士指導に従者と領民を連れて行くのなら、2人が手に入れた武器は冒険者の分と認め、4割を税として納めるだけで良い。
ハリーの指導は2日に1度として、公休日に狩りで得た武器はダンジョン騎士として全て自分の物としてよい」
「有り難き幸せでございます」
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