第38話:時間制限

 叔父と叔母たち5人は、ダンジョン騎士の中でも群を抜いた実力者です。

 グリフィス騎士家の出身なので当然と言えば当然です。

 冒険者たちは誰1人近づいてきませんでした。


 地下71階層に潜るまでの間に、完全殺の方法を詳しく教えました。

 私たちの性格と実力を知ってくれている叔父と叔母たちです。

 どれほど信じ難い事でも飲み込んでくれます。


 現れるモンスターによって完全殺と瞬殺に分けます。

 これまで通り、3人で順番にモンスターを狩ります。


 どうしても私の方が多く武器を手に入れる事になりますが、現れるモンスターと属性と、私たちが使える魔術の属性が原因なので、しかたありません。


 1時間2時間3時間と、8人で持ち運べる限界まで狩ります。

 私たちはまだ体が完全にできていないので、前回と同じ73kgまでにしますが、叔父や叔母たちは体ができていますし、専用の背負子を持って来ています。


 縦に入れるなら鈦剣が底を突き抜けないようにしなければいけませんし、横に重ねるのならバランスを崩さないようにしなければいけません。


 最初叔父に試してもらいましたが、200kgまでは担いで歩けました。

 私たちも専用の背負子があれば軽く100kgまで運べるかもしれません。

 叔父に、背負子を作ってくれると職人を教えてもらう事になりました。


 私たち3人だけでも219kg担いで戻れます。

 叔父叔母たち5人が1000kg、1トンも担いで戻れるのです。

 自然とダンジョン内で狩りを続ける時間が長くなります。


 200kgの鈦剣が集まるごとに、1人2人3人と順番に持って上がってもらう事はできますが、それでは危険だと判断しました。


 200振り、200kgもの鈦剣には人を狂わすほどの価値があります。

 国によったら、領地持ち騎士家どころか男爵位と領地まで買える金額です。

 8人揃って地上に戻るべきだと判断しました。


 4時間5時間6時間と、狩りを続けました。

 国王陛下と約束した明日の指導時間があります。

 私たち3人だけで狩りを続けると時間切れになると判断しました。


「叔父上と叔母上たちにも試して頂きます。

 最初は安全最優先で、無理だと思ったら総掛かりで瞬殺してください。

 決して命を危険に晒してまで完全殺に拘らないでください」


「分かった、ハリーたちには悪いが、こちらも時間が限られている。

 明日5人だけで試すのも不安だ、この場で試させてもらう」


 叔父叔母たち5人も私たちと並行してモンスターを狩り始めました。

 1人で完全同時にモンスターの急所を貫くのは難しいので、最初は完全殺を途中で諦めて、5人の瞬殺に切り替える事も多かったです。


 ですが、5人が狩りを始めて1時間過ぎる頃には、完全殺はできていませんが、1人で21体のモンスターを狩れるようになっていました。


 2時間過ぎる頃には、効率を考えて2人と3人に分かれて狩り始めました。

 3時間過ぎる頃には、叔父が完全殺に成功して、1人と2人組2つに分かれて狩り始めました。


 4時間を過ぎる頃には、5人全員が1度は完全殺に成功しました。

 都合10時間狩りをして、1219kgを超える鈦剣が手に入りました。


 レベルアップもしていたようで、最初に試した以上に背負えるようになっていましたので、高価な鈦剣を置いて行かずにすみました。


 私たち8人は、隠れる魔術を使うことなく、堂々と地上に戻りました。

 途中で出会う冒険者たちは、私たちが山のように背負う鈦剣を見て、目を剥いて驚いていました。


「てめぇらが坊主たちに迷惑かけたからこんな事になったんだ!

 責任を取って酒の1杯くらい奢りやがれ」


 正確の良い冒険者たちが、私たちをつけ回していたのであろう冒険者達に、蹴りを入れて文句を言っています。


 彼らのような性格の良い冒険者でなければ、血を見るような報復になっていたでしょうから、酒の10杯や100杯は奢るべきです。


 私たちは予定通り冒険者組合に寄らずに、結婚している叔母が購入した貴族街の屋敷に向かいました。


 叔父と叔母たちは公休をもらっていますが、叔母の旦那さん2人は役目があるので屋敷を空けています。


 結婚している2人の叔母たちは従者も使用人も雇っていませんでした。

 夫婦2人が家を空けても、一騎当千のダンジョン騎士夫婦の屋敷に盗みに入る馬鹿はいなかったからです。


 ですが、鈦剣の山が置いてあると話が変わります。

 命を賭けても惜しくない莫大な富なのです。

 貴族街にいるのは貴族と従者、使用人だけですが、彼らを豹変させる富なのです。


「叔父上と叔母上たちには申し訳ないのですが、5人揃って、連続して公休を取ってもらわないといけません」


「まあ、流石に、これだけの鈦剣を置いて仕事には行けんのは分かる。

 城門をくぐる時に門番騎士が目を剥いていたからな。

 明日以降は公休の取り合いになるが、今日は大丈夫だろう」


 叔父上が疲れ切った表情と声色で言いました。

 命懸けの緊張する狩りも疲れたのでしょうが、明日以降の大騒動を考えて、うんざりしているのでしょう。


「ここは、女の中で1番年下の私が将軍の所に行って、公休をもぎ取って来るしかありませんね」


 私の父の下には4人の叔母がいて、更にその下に叔父がいます。

 1番目の叔母と2番目の叔母に旦那さんがいて、3番目の叔母と4番目の叔母が独身なのです」


「私も行くわ、貴女1人に交渉させて時間をかけるよりは、数を揃えて短時間に話しを済ませた方が良いわ」


「だったら家主を残して4人で行こう。

 ハリーたち3人がいるなら、誰が襲ってきても大丈夫だ」


 叔父上は私たちの実力を評価してくれているようです。

 

「分かったわ、将軍や大臣がガタガタ言ったら、口に鈦剣を突っ込んでやるわ。

 ダンジョン騎士を馬鹿にする舌も、固まって動かなくなるでしょう」


 1番過激な4番目の叔母は、大臣や将軍に文句を言われる事が多いのか、日頃の鬱憤を晴らすように言い捨てました。


「失礼します、国王陛下が屋敷に訪れたいと申されています。

 失礼します、家に居られるのは分かっています。

 国王陛下の使者として参りました、表を空けていただきたい」


 1日に2度も3度も国王陛下に会いたいとは思わない。

 いや、そもそも、本来ならもう眠る時間だぞ!

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