第37話:初の謁見と交渉

「おお、そうだ、住む場所だが、城内にある部屋を自由に使うが良い。

 何なら貴族街に空屋敷を買ってくれても構わないぞ」


 国王陛下は、私たちが国を捨てる事を考えていたのを、知っておられるようです。

 私たちの話を直接聞くのは、優秀な密偵が沢山いても無理です。


 陛下か側近が、私たちの立場に立って、自分たちならどうするか考えられたのでしょうが、油断なりません。


「度々質問させて頂くのは失礼だと重々承知しているのですが、パーティーを組んでいる従者や領民をどうすれば良いのか心配でなりません。

 我が家は代々領民を守る事を誇りとしてきました。

 ダンジョン騎士に叙君されたからと言って見捨てられません」


「うむ、領地持ち騎士らしい誇り高い言葉を聞けてうれしく思う。

 余も従者や領民を見捨てろとは申さん。

 城内の部屋に連れて来る事は許せんが、貴族街の屋敷で使う分には自由だ」


 やれ、やれ、手に入れた宝物で屋敷を買えという遠回しな命令ですか。


「承りました、空いている屋敷を教えていただければ幸いです」


「右大臣が資料を用意しているから見ていくがいい。

 今日はよく来てくれた、ダンジョン騎士への指導は明日からでいいぞ」


「はい、過分なご配慮、心から感謝いたします」


 ソフィアとアーサーにもダンジョン騎士の地位をくれるかと思いましたが、意外とケチなのかもしれません。


 まあ、与えると言われても、領内で1番の猟師を目指しているソフィアは迷惑だと言うでしょうし、母親を大切にしているアーサーもいらないと言うでしょう。


 右大臣と名乗った中年男性に空いている屋敷の地間取り図を見せてもらいました。

 本気で買う気があるのなら、現物の屋敷を見せてもらいます。

 ですが、まだ買う気がないので間取り図だけです。


 王都の中にある王城は小さいですが、三重の構造になっています。

 本丸は国王陛下とご家族の居住空間になっています。

 二ノ丸が王族と独身ダンジョン騎士に部屋、政務空間になっています。


 三ノ丸の中に貴族街があり、ダンジョンへの出入口もあります。

 王都に住む領地持ち騎士家の家族や、王族から外れて伯爵位をもらった貴族が住んでいます。


 我が家は王都での栄達など望まず、貴族街に屋敷を買うくらいなら領地の開発にお金を使ってきました。


 叔父や叔母たちだけでなく、代々の一族も、分家しない限り、貴族街に屋敷を持とうとは考えもしていませんでした。


 代々の国王陛下に望まれない限り、ダンジョン騎士に成るよりも、領地に戻って猟師として生きる道を選んできました。


 だから、貴族位は失いましたが、領民はグリフィス騎士家の一族でもあるのです。

 ソフィアがずば抜けた魔力量を持つのも、私と同じような技が使えるのも、多くの属性を持っているのも、それが原因なのかもしれません。


「ソフィア、アーサー、私たちは12歳の義務を終えた事になりました」


 国王陛下がつけてくれた護衛、叔父や叔母たちと共に高級宿に戻った私は、王城で起きた事を全て話しました。

 

「12歳の義務が終わったのなら、私たちだけ領地に戻っても良いんじゃない?」


 ソフィアがアーサーに領地に戻ろうと誘います。

 少しでも早く領地に戻って魔境で狩りがしたいのでしょうが、領民全員で他国に逃げようと言っていたのを、都合よく忘れたのですか?


「僕も領地に戻りたいですが、ハリー様を置いて戻れません。

 戻ったらお母さんに怒られてしまいます」


 ここは嘘でも忠誠心のために戻れないと言う所ですよ。

 正直は大切ですが、時には嘘も必要なのです。


「悪いですが、王家に仕えるダンジョン騎士に完全殺を教えるまで待ってください。

 2人も宝物は持って帰りたいでしょう?」


「12歳の義務で王都にいなければいけないのなら、少しでも宝物を手に入れたいと思うけれど、領地に戻れるのならそれほど思わない」


「僕はお母さんに楽をさせてあげたいので、もう少し宝物を手に入れたいです」


「しかたないわね、1人で家に帰るのは危険だし、宝物はあっても腐らないし、アーサーが残るのなら私も残るわ」


「2人がそう言ってくれて助かりました、では、早速ダンジョンに潜りましょう」


「そうね、どうせ残るのなら稼げるだけ稼がないとね!」


「明日からダンジョン騎士の方々に教えるのではなかったのですか?

 今日狩りをしてしまったら、体力的に辛くありませんか?」


「指導が決まったのなら少しでも早くやってしまいたいのです。

 幸い叔父上や叔母上たちが護衛を務めてくれる事になりました

 このまま直ぐにダンジョンに潜って武器を持ち帰り、他のダンジョン騎士には、有無を言わさず荷物係をして頂きます」


「手に入れた宝物はどうするの?」


「叔父上や叔母上たちの保管していただきます。

 その後も荷物係をしてくれたダンジョン騎士たちに保管させます。

 嫌と言うほど実力を見せつけたら、盗もうとは思わないでしょう」


「それは良いわね、あの人たちならハリーを裏切る事はないし、最初に技を教えるには最適の人たちね」


「僕もそう思います、お二人は結婚されていますから、旦那様の方が家を守っていてくださるでしょう?」


「叔母上たちの旦那さんを利用するのは気が引けますが、盗まれて笑って許せる安い物ではありませんから、ここは我慢してもらうしかありません」


「ねえ、行くと決まったらさっさと行こうよ!」


 ソフィアに急かされて、私たち3人は直ぐにダンジョンに潜りました。

 今回は3人だけでなく、叔父や叔母たち5人が加わっています。


 ダンジョン騎士が5人もいるので、付き纏う冒険者たちを気にする必要がなくなりました。


 いえ、それ以前に、国王陛下が技の他言無用と国禁を命じられたのです。

 逆らえば問答無用で処刑されます。


 ダンジョン騎士に叙勲されなかった冒険者たちでは、ダンジョン騎士に逆らって技を試す気にはならないでしょう。


 私たち8人は姿を隠す魔術を使わず堂々とダンジョンに入りました。

 もう12歳の義務を果たしたので、冒険者組合に届ける必要もありません。

 ダンジョン騎士は勤務時間以外に手に入れた宝物を全て私有できます。


 ……明日からの指導は勤務時間になるのでしょうか?

 ダンジョン騎士ではないソフィアとアーサーはどのように扱われるのでしょうか?


 冷静な心算でいましたが、国王陛下との初めての謁見と交渉に舞い上がっていたようで、肝心な事を忘れていました。


 しかたありません、向こうが何も言ってこなかったのです、こちらに都合の良いように解釈しておいて、文句を言ってきたらちゃんと税金分払いましょう。

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