第36話:国王陛下との謁見

 王家の、それも国王陛下の勅使が来たので、普段は冷静沈着な支配人も驚き慌ててしまい、礼儀を忘れていました。


 私たち3人はそれを咎めるほど性格が悪くないので、見ないふりをして勅使と話をしました。


 相手は勅使なので、こちらが下位の身分として振舞いましたが、私も12歳の義務は終えていませんが領地持ち騎士家の嫡男です。


 それほど卑屈になる必要はありません。

 善良な平民には丁寧な言葉遣いをしますが、陛下の権力を笠に偉そうにするような奴は、手加減せずにぶちのめしてやります。


「ハリー卿、急な訪問をして申し訳有りません。

 本当なら12歳の義務を終えられてから来させてもらうのが筋なのですが、卿がとても貴重な技を発見されたという報告が陛下の耳に届いたのです」


 国王陛下は良い耳、密偵を使っておられるようですね。

 勅使も年少の私に丁寧な言葉を使ってくれます。

 陛下の近臣には驕り高ぶった者はいないのかもしれません。

 

「しかもその技を冒険者たちに教えるという話まで届いてしまいました。

 流石にこの状況では、卿が12歳の義務を終えられるまで待てないという話になり、急遽このように来させていただく事になりました」


「国王陛下に謁見させて頂く事になったのですか?」


「はい、色々と御予定があるのは分かっているのですが、曲げてお願いします」


「陛下の御召しとあれば、万難を排して参上させていただきますが、冒険者組合への使者は送って頂いているのでしょうか?」


「はい、既に別の者が組合に行き、技の伝授は行わせないと通達しました。

 既に技の内容を聞いた者には、勅命で他言を禁止させます」


「分かりました、着替えて直ぐに参上すればいいのですね?」


「はい、そうして頂ければ助かります」


「連れの2人はどうすれば良いのですか?」


 ソフィアは絶対に行きたくないと全身で訴えています。

 アーサーは必ずお供すると目で訴えてくれています。


「領民の方にはここで待って頂きたいと思っております。

 従者の方には、城内の控室で待って頂く事になります」


「それは命令ですか、こちらの都合は考えてもらえるのですか?」


「できる限り卿の願いを聞くようにと命じられております」


「アーサー、非常時に備えてソフィアと一緒にここで待っていてください。

 グリフィス騎士家に仕える者として、私よりも領民の命を優先しなさい」


「ご命令しかと承りました」


 私は2人に今後の事を命じて、勅使の後について王城に向かいました。

 王都を守る城壁内には、王族とダンジョンを守る王城があります。

 ダンジョンに入る王城の門だけは、何時でも解放されています。

 

 だからといって、最悪の場合に王都の民を見捨てる訳ではありません。

 生活環境は極端に悪くなりますが、王城内に民を収容できるのです。

 民をダンジョン内に避難させる事もできます。


 貧しくはありませんが、豊かとも言い難いのが我が国です。

 王城内に華美な装飾はなく、質実剛健な造りになっています。

 敵に侵入された事を考えていますので、迷路のような構造になっています。


 何度も折れ曲がる廊下を、勅使の後について行きます。

 途中で出会う王城に使える者たちが深々と頭を下げてくれます。

 その目には、蔑みの気持ちも悪意も見受けられません。


「グリフィス騎士家ご令息、ハリー卿のご入場」


 私が王城に入ってから通った扉の中でも、特に緻密な彫刻が施された扉の前に来た途端、扉を守っていた騎士が大きな声をだしました。

 中で待っている人たちに私の到着を知らせる為でしょう。


 勅使が目で知らせて来るので、そのまま礼儀作法に従って入場します。

 国王配下はまだ来ておられないと思いますが、万が一のことを考えて視線あげないように入ります。


 私は謁見の間の定位置にまで進みます。

 田舎者が陛下を待つ位置を間違えないように、床の絨毯には立ち止まるべき場所に模様が織り込まれています。


 脚しか見えませんが、予想通り正面壇上の玉座には誰もいません。

 私と同じ床の位置ですが、上座に当たる左右に4人分の脚が見えます。

 左大臣と右大臣、左将軍と右将軍でしょう。


「国王陛下ご入場!」


 私の時は扉を守っていた騎士が入場を知らせましたが、国王陛下だと専門の人間、式部官がよく響く奇麗な声で知らせます。


 自分を大きく見せたい王やもったいぶる王なら、私が入ってから長く待たせるのですが、直ぐに入ってこられました。

 これも私を重要に扱っているというアピールでしょう。


 良く聞こえる耳を持っているのが分かった国王陛下です。

 領地持ち騎士の多くが寝返るのはつかんでおられるでしょう。


 我が家の忠誠心を維持したいのと、私たちの見つけた技を取り込んで、国の資金源と防衛力としたいのでしょう。


「陛下、ここに参上したのがグリフィス騎士家のハリー卿です」


 陛下の入場を告げたのと同じ声が私の紹介をします。

 式部官がこの謁見を取り仕切るのかもしれません。


「只今ご紹介に預かりましたハリーと申します。

 12歳の義務を果たす前の若輩者ではございますが、急ぎの御用とお聞きさせていただき、御前に参上させいただきました」


「うむ、よく参ってくれた、面をあげよ」


「はっ、失礼させていただきます」


 ようやく陛下を顔を見ることができました。

 先代王がなかなか男児に恵まれず、晩年に儲けられたと聞いています。


 その所為で若年の内に先代国王陛下が亡くなられ、後見を受けられないばかりか、年下の甥に足を引っ張られていると聞いています。


 ですが、年下の甥に足を引っ張られるような人には見えません。

 確か今年34歳になられるはずです。

 若々しい肌と聡明そうな瞳、鍛えられた筋肉が伺える体つきです。


「さて、余計な話をしても意味がない。

 ハリーにここに来てもらった理由を担当直入に言う。

 卿が見つけた、モンスターが武器を落とす技を、王家直属のダンジョン騎士にだけが使える国禁の技とする」


「はっ、しかと承りました」


「ただ、奪うだけでは主君としての度量に欠ける。

 国に大きな利益を与えてくれた者には、それに相応しい褒美を与えねばならない。

 ハリーには前将軍の地位を与える」


「恐れながらお聞きさせていただきます。

 私はまだ12歳の義務を終えておりません。

 それと、この技は私1人が見つけた物ではありません」


 文官が並ぶ右側の最上位、左大臣が何か話そうとするのが目の端に映りましたが、国王陛下が左手を挙げて静止されました。


「従者や領民が主家のために働くのは当然の事で、その手柄は主の物だ。

 余は家臣である騎士家に褒美を与え、騎士家が従者や領民に褒美を与える。

 12歳の義務に関しては、その実力をもって3人とも終えた事とする」


「有り難き幸せではございますが、前将軍の地位は過分だと愚考いたします」


「ハリーには、これからダンジョン騎士たちを指導してもらわねばならない。

 それも、1人や2人ではなく全てのダンジョン騎士にだ。

 騎士を統べる地位でなければ素直に言う事を聞かぬ荒くれ者もいる。

 相応しい地位を与えるから、実力で捻じ伏せろ」


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